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桂南光・義眼

桂南光さんの義眼をまくらからどうぞ・・・
超面白いです!

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今の米團治君は皆さんご存じの通り、人間国宝、米朝師匠の長男でして、お母さんは踊りの師匠。
ええDNAばっかりもろてるんですな。

輝いてます。しかし、噺家の顔やない。
整いすぎてるんです。

噺家の顔は、見ている皆さんが優越感を抱けるような顔。

例えてゆうたら、先ほど出られたざこば兄さんなんかが最高の顔なんですな。

米團治君の襲名披露は全国77か所。
私が襲名させてもろた時は全国・・・・・
4か所でございました。

これすべて、親父さんの差ぁなのでございます。
83歳の米朝師匠がこの襲名披露について回った。

あれも、北海道行って、南に順々・・・とはならへんのです。
会場取る都合で、あっちへ行ったりこっちへ行ったりする。

一番ひどい時なんか、松江の次が富山でした。中途半端な距離でしょ?
私、いっぺん大阪に戻ってサンダーバード(北陸に行く特急電車)か
何かで行くのか思ったら飛行機で行くと。
島根の松江からね、バスで鳥取の米子空港まで行くんですよ。
で、そのまま富山まで飛ぶんかいな・・・・思ったら、羽田行きまんねんでぇ。

どない思いはる?

米朝師匠なんかは、「ここはどこや?」。
もう、分からんようになってしまうんです。
ほんで「わしは誰や?」・・・・。

羽田着いたら、富山行く飛行機が、
もうこないして(両手を後ろに伸ばして震わせ、離陸目前の飛行機の真似)
待ってるんです。

で、私らのことを空港の放送で、早く乗れとアナウンスする。
それも芸名やのうて、本名なんです。

何で本名で乗ってるかゆうと(先ほどのざこばのように、客席の方に体を乗り出し)
・・・・マイレージ貯めるためです。

私の名前が森本良三・・・・・ここは笑うとこちゃいまっせ!何がおかしいんだんねん。
これで笑ってたら、ざこば兄さんの時はもっと笑いまっせぇ。
何せ関口弘(ひろむ)・・・・・もっと笑いなはれ!
米團治君が中川明、米朝師匠が中川清だっさかいな。
私らが走ってると、後から米朝師匠も杖ついていっしょけんめい歩いてる。
そしたら、空港職員の人が「中川清さん、モタモタしないでください!」・・・・・。
人間国宝のこと叱りつけまんねん。
そしたら、師匠、怒りもせんと「えらい、すんません」ゆうて、必死で・・・。
搭乗口の関係で1階に着いたんでっけど、そこから3階へ上がれってゆう。
その間が、らせん階段しかおませんねん。
うちの師匠・・・・はっきりゆうてヨボヨボですわ。
せやから空港の人に「あぁた知らはれへんか知らんけど、あの人は人間国宝
ゆうて偉~い人でんねん。私らはよろし。
私らはよろしいけど、師匠だけはエレベーターでしゅっと上げてもらいたい」
そう頼んだんでっけど、エレベーターはありませんの1点張り。
見たら端っこに小ちゃいエレベーターがあったんで
「あれで・・・」てゆうたんでけど、あら荷物用ですから、
人間を乗せるのは規則でダメです!て。
そしたら、米團治、米朝師匠のこと、ぐう~っと押しだして
「この頃、お荷物でんねん」・・・・・・・・・・・・。
まあ、彼にしたら精一杯機転をきかしたんでっしゃろけど。

**
「え~、こないだ入れた目ぇの具合はどんなもんですかな?」
(突然、片目をつぶり、何かをのぞき込むような格好をしながら、ややのんびりした口調で声を上げる)
あの~・・・・・もう落語は始まっておりますので。
今、何人かは、「こいつ、突然何を言い出してんねん?」というような顔をなされてましたが、落語というのは、いろいろなパターンの始まり方があるのでございます。
これは、目の悪い人に、医者が義眼を入れて、その目の具合を聞いているというところでございます。(身を乗り出して)こんな説明をする落語ゆうのも珍しいですが。
どうか付いてきてください。よろしくお願いします。

「はい、先生。そら、もぉピッタリで。
え?自分で見てみぃ?あっ、先生、ほんまの目といっこも変わりませんな。
え?誂え?オーダーメイドでやすか?なるほど。
ちょっと動かしてみぃ?あっ、動きます、動きます」
「具合がええようで、けっこうです。
ただ、まだ十分なじんでおりませんので、激しい運動なんかは避けてください。
特に、あんま、マッサージの類ですな。
後からとんとん!と叩かれると、前にずぽっ!と飛び出る恐れがありますので。
それと、目てなものは昼、物を見るために必要なもので、夜は必要ございません。
ですから、夜、おやすみの時は、取り出して、大きな湯呑に水をお入れになって、
そこへ漬けておいてください。
そうしますと、翌朝入れる時にヒンヤリとして、まことに気持ちがよろしい。
また、そうしていただくと保ちがよろしいのでな」
「あっ、さいでやすか。
ほな、先生。わい、松島にちょっとええのがいてますので、この顔見せて喜ばしたろ思います。
どうもありがとうございました!」
この松島と言いますのは、かの松葉芭蕉の有名な俳句、松島や ああ松島や 松島やの
松島とは・・・・・・・・全く関係がございません。
今で言う九条の近くにあった色町でございます。
「おい、どうや?俺の新しい目?」
「いんやぁ、よぉ似合(にお)てるしぃ。
わたい、あんたの顔に惚れたわけやないけど、目ぇ患いはってちょっと
男前落ちたかなぁって思てたけど、前より男前上がったしぃ。
わたい、惚れ直したわぁ。今夜は泊っていっとくんなはれ」・・・・・と、ばかなモテよう。
ところが、その隣の部屋の男、よそで呑んでへべのれけれけで入りよった。
こうゆう客は一番嫌われます。
「ちょっと。・・・・まあ、があがあイビキかいて寝てるわ。
いったい、何しに来たんやろ。あほらし。帰ってしもたろ。
ちょっと。すんまへん。わたい、ちょっとお便所行ってくるよって」
・・・・きゅっきゅっきゅう、と去(い)んでしもた。

夜中、(と、男があくびをかきながら、ようやく目を覚ましたさま。何か伸びをしたり、腕を前に突き出したり)
「ふぉい、きゃ?きょう~、ふへ、ひゃあ、ひゃひゃひゃ、ほぉうぅっむ~??」
・・・・・・日本人ですから。ここは、目ぇ覚ましたばっかの酔っ払いが、何かわけの分からんことをゆってるとゆうコーナーですので。
「わいとこのおなご、どこ行ったんや?便所行くぅゆうて出ていったけど・・・・あれから二時間は、たってんで。
ここの便所はカムチャッカにでも、あるんかいなぁ?
しかし、ゆうべはむかついたなぁ。
会社帰りに後輩が『先輩、たまには酒呑みに連れて行ってくださいよ!』ゆうから『よっしゃ、ほな行こか』『先輩は頼りになりますなぁ』って行ったんは、ええけど・・・・・。
『今日は無礼講やぁ!』ゆうたら、皆、わいの悪口しかゆいよらへん。
腹立ったから『帰りたい奴は帰れ!』ゆうたら・・・・・皆、帰ってまいよった。
うちと引き換え、隣はえらい賑やかやなぁ。『男前、男前』ゆうて。
おっ、静かになった。とんとんとんとおなごが階段降りる音がして。何や、男の方は、もぉイビキかいて寝とるで。

どんな顔しとんのやろぅ?・・・・・・私も見ず知らずの人の部屋を開けたりしてはいけない・・・・とゆうことは分かっているのれす。ただ・・・・私の体内にあるアルコールが・・・・・・のぞきなさいと命じておるのれす。私は、それに従います。

よぉ~~っと。(静かにふすまを開け、隣の部屋に入り、男の顔をのぞき込む)

・・・・そない大した男前でもないで。

おっ、枕もとに湯呑が置いたぁる。

隣のおなごは、よぉでけたおなごやなぁ。

夜中に起きた時、のどが渇くやろぉと湯呑を置いておく。・・・このホスピタリティ。

・・・・・私、大変、喉が渇いております。呑んでもたろ。

酔いざめの水、千両てなことゆうてな・・・・(ごきゅごきゅとうまそうに飲んでいき、最後の方で、ぐっと湯呑を持ち上げ一気に飲み干そうとした時、驚いたように目を白黒させ)

ええ~!!水のかたまりがありましたよ!」

それからとゆうものお通じがぴたっ!と止まってしまいました。

1週間、10日。男は油汗をたらりたらりと流して苦しんでおります。お医者に担ぎこみまして、

「これは何かが、腹の中に詰まっておるのかもしれません。

この望遠鏡のようなもの、腹中鏡とゆうのですが、これをお尻に当てて腹の中を見て調べましょう。

はいはい。恐がらなくてもよろしい。ここへね、四つん這いになって、お尻を突き出して。そう、子どものよぉやる『もぉ~』の格好をしてください。

あ、奥さんもどうぞこっちに来て、一緒にご覧ください。ご主人のこんな格好、めったに見られませんぞ。

しかし、奥さんの前で失礼ですが、汚い尻ですな。何や吹き出物がいっぱいあって。

それと毛むくじゃらじゃ。そこでコオロギでも飼ったらどうですかな。

こういう尻を我々では『フケツ』・・・・と申します。では・・・

と、腹中鏡を尻に当ててのぞき込む。と、ぎゃぁ~~~!!!と叫んで表に飛び出してしまった。「先生、どうしました?」「どうしたも、こうしたも・・・・。腹ん中から誰かがこっちをにらんでる」というのがサゲ。
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