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決定的疑問①―その男、八津

話は約4年前に遡る。

自分のチームに八津(仮名)が入社した。

ほぼ新卒で私より相当年下の彼は
細身で素朴な顔立ちで礼儀正しく、かといってかしこまり過ぎず。
非常に優秀だが決して能力をひけらかさず威張らない。

彼は誰から見ても【好青年】と評されていた。
だが私にとっては【非常に辛い存在】であった。

その理由は
彼が来たことで、自分の馬鹿さ加減がこれでもかというほどわかったからだった。


彼が持つ美点で自分にはないものは数えきれないほどあるが
突出しているのが、【問題を見つける能力】と
【問題を解決する能力】だった。

たとえば業務で1回もやっていないマクロのVBAとかAccessとかを
本でちょっと読んだ、あるいはグーグル先生に聞いただけですぐ理解し
そうこうしているうちにすぐ実際の仕事で応用できる。
最初は教えていたはずの上司がいつの間に教えられる側になってるとかザラだった。

でも、もっとも驚くべき点は…
たとえ誰もやったことがない、彼自身でもこれまで見たことも経験したこともない問題にぶちあたっても
いろいろと思考する、調べる、その問題の何が問題でどうすれば解決するかを導き出す、そして仕事の改善につなげる。
webデザイナーとして採用されているのにもはやSEなみの能力、(しかもwebもそれはそれでできる)
実際に業務にかかる時間も大幅に短縮したことは幾度となくあった。

一方私は…

経験年数だけはあるけれど、cssはあまり好きでない、javascriptなんてお手上げ、phpに至っては………
かといってデザイン能力が彼と比べて際立ってあるとは思えない、
マクロのVBAなんかもいまいちよくわからない……ましてやAccessなど尚更。
でも、使えるソフトの数とかそれ以上に根本的なところが違っていた。

私にはわからないところがわからない、
そもそもどこが問題なのかが見つけられない。

彼は【普通の人より思考力が優れている人】であり
自分は【普通の人と比べても際立って思考力がない】人間だった。


もともと私は自分が頭が良いとかは1度も思ったことは無い。
でも、ここまで自分が馬鹿なのかと思い知らされたのははじめてだった。
上司は(※もともと八津とは知り合いで半分コネということもあるが)当然ながら私より彼を贔屓した。

私はなんとか思考力をつけたいと思って片っ端から思考力の上がりそうな本を読んだ。
読んだ本の中には非常に感動したり参考になる知識はたくさんあった。
読んでいる最中は意識が高揚し、
もしかしたら自分は生まれ変われるのではないかと思う瞬間はあった。
でも、読み終えてしばらくしたらそれで終わり、(そして忘れ)
むしろ差は埋まるどころか開く一方であった。

もし八津が嫌味な人間であったなら自分の怒りや悔しさだったり、そういった気持ちをぶつける余地もあったのかもしれない。
しかし彼はそんなことはなく、むしろ私が締切に追われてたりピンチのときはむしろ助けてくれるような、そういう人だった。
それが私をますます惨めな気分にさせた。

何度も考えた。正直自分はいなくなっても困らないんじゃないかと。
何度も思った。そもそもこの仕事自分に向いてるのだろうかと。

そしてある人物との出会いが、さらにまた新たな決定的疑問を追加することになるわけだが、そのことの話については次に書くとして…

時は経ち、いろいろ紆余曲折あったのち、私は会社を離れることになった。


最後に
彼のおかげで自分では正確に気付けなかった自分の弱点に気づけたし
彼のおかげでいろいろな本を読んで自分のおよびもつかない素晴らしい考え方、知恵を知り、そしてそういうものを本にして教えてくれる世界の素晴らしさに気づいた。
何よりも、そういう人と一緒に働けたことそのものが大きな学びだったし幸せだったと思う。
いろいろと書いたわけだけれど、私は八津には感謝している。

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