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お迎え特殊課の火車1


あらすじ  

 あの世のお迎え特殊課に勤務する獄卒ごくそつ火車かしゃは久々の出動となったが、そこでヘマをしてしまった。  
 化け猫である彼女は、基本的に気紛れ。本来上司に許可を取らなければいけないのに、勝手な事をしてしまったり、久々で立て続けの出動なのに色んなな出来事が起こったり……。  
 化け猫獄卒であり、人間の姿だと美女な、ちょっぴり情けもある火車さんの活躍と、上司であり同僚の獄卒と、部下である獄卒の話を読んで見ませんか?

 お迎え特殊課の火車出動(一)

 白い髪に、幾房いくふさかの黒い部分が混じった長髪。

 着物姿の三十歳そこそこの美女が赤い炎に包まれた黒いワゴンを運転している。

 美女の名前は火車かしゃ。死後、閻魔大王の裁判をするまでもなく、地獄きが決定している亡者を迎えに行く、読んで字の如く『火の車』に乗った化け猫の妖怪獄卒ごくそつである。

 しかし、火車は獄卒。基本人間に害は与えない。

 連れてく亡者は重過ぎる罪を犯した者だけだ。

 たまに、現世げんせにとどまっている浮遊霊ふゆうれいなどを捕まえたりはするものの、それ以外は我関せずと言った調子だ。

 何せ猫だから、気まぐれなのだ。

「それにしても……久々にアタシの出番だにゃんてねぇ」

 火車の操る火の車ワゴン――昔は牛車ぎっしゃだったが時代に合わせてワゴンになっている――は、人間の目には映らない。余程強い霊力を持った者でない限りは。

「さてと、今回の亡者は……」

 目的の家の遥か上空で、火の車ワゴンめて、上司から手渡された閻魔帳の写しを見る。

「ありゃ~……こりゃあ、アタシの出番にゃはずだよ。現世では、にゃんとかウイルスってのが流行はにゃってるから、亡者の数も微妙に増えたけどさ……コイツぁ老衰だね。それはいんにゃけど、コイツぁにゃんでてらやしろを燃やしたりしてるんだい?」

 閻魔帳の写しから目を離し、眼下の家を見る。

 二階建ての一軒家では、葬儀が執り行われている。 

 もうすぐ、出棺の時間だ。

「んにゃ?」

 火車の目に、顔に幾つもの傷を負った白猫の姿が映った。

「ん~? アイツぁ確か、今回の亡者に飼われてた猫だねぇ……にゃんだい? 殊勝にも主人を見送っているのかい?」
 
 閻魔帳の写しにはこうも書かれていた。

 『亡者は独居老人。それ故の寂しさからか自身の飼い猫を虐待していたらしく――』

「はぁ~ん。コイツの虐待も罪のうちって訳かい」

 などと言っているあいだに、出棺が始まった。

「おおっと、いけにゃい、いけにゃい。お仕事しにゃきゃだねえ」

 火車は助手席に置いてあった大きなスピーカーに繋がれた、小振りなラジカセのボタンを押しながら、ワゴンの窓を開ける。

 と、同時に火車の妖力ようりょくで空に黒雲くろくもが広がってく。

 ――ゴロゴロゴロゴロ……。

 スピーカーから、かみなりの音が響く。

 雷の音をラジカセで流しているのは妖力の節約である。

 黒雲は雨雲ではなく、火車の妖力で出現させた単なる幻だからだ。

 辺り一面を薄暗くするので、かなりの広さに幻を出現させなければならない。

 ここまで広範囲となると、音にまで力を裂くのは、如何な火車とて少々厳しいのだ。

 火車は本性ほんしょうである虎ほどの大きさの、白地に黒の模様がある二毛猫にけねこの姿に戻って、人間の目には不可視ふかしの状態で、地上へと飛び降りた。

 ――が、白猫にはしっかりえていたようで、へいの上に座って居た白猫は、驚き過ぎて塀から落ちてしまった。

 そんな白猫には気付かないまま、棺の側へと音もなく歩みより、前足で棺の蓋を開け、まだ、自身の亡骸なきがらへとくっ付いている亡者ごと口に咥えると、上空のワゴンへと駆け上がる。

 火車は美女の姿に戻ると、特殊なロープで亡者が逃げられないように、亡骸と一緒にぐるぐる巻きにして、ワゴンの後部座席へと放り込んだ。 

 ロープと同じく特殊なガムテープで亡者が騒がないようにその口に貼る。

「これで一丁上がりだね」

 火車は機嫌良く言ったが……突然、棺の蓋が開き、故人の亡骸が上空に消えた葬儀の場は大混乱に陥っている。

南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」 
「きゃあああぁーー!! 嫌あああーー!!」

 ひたすら、念仏を唱える弔問客。悲鳴を上げ続ける弔問客。

 腰を抜かして声も出せず、立ち上がれない亡者の身内。

「……か、火車……か?」
「ま、まさか!?」

 葬儀屋の者は流石に火車の伝説を知っていたらしく、ガタガタ震えながら話し合っている。

 『亡骸を火車に取られるは一族の恥』――等々の言葉があるそうだが、彼らもこのような現象には初めて出会したのだろう。

 檀家の葬儀である為、呼ばれて経を上げていた僧侶も火車の伝説は知っているらしく、妖怪退治の念仏を唱えているものの、その姿すら視えないのでは唱えたところで意味はないのだった……。 
 
#創作大賞2023  #ファンタジー小説部門








 






 


 


 



 




 

 


 


 

 






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