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塗料メーカーで働く 第三十三話 内政干渉 

 1月21日(月)午前10時頃に 松頭産業社の菊川課長は 技術部にやって来ると 「川緑さん 依頼の品をもってきたで!」と言った。                          

 それは 最近 ケイトウ電機社で開発された スペクトル計測装置であり 光をナノメートル単位で分光し その強度を計測するものだった。

 この装置を借り入れる事の始まりは 先日 技術部で開かれた松頭産業社との会議にあった。

 光ファイバー用UV硬化型樹脂開発についての進捗報告会議には 松尾産業社の野崎部長と菊川課長が参加し 技術部の米村部長と川上課長と森田課長と川緑が参加した。 

 会議で 川緑は 開発推進に必要な技術の構築と 具体的な取り組みについて そのイメージを黒板に書いて説明した。 

 説明の中で 彼は 必要とする幾つかの実験装置とその価格を示した。

 話を聞いていた米村部長等は 「うーん。」と言ったきりで この取り組みについてやれともやるなとも指示はしなかった。                                       

 沈黙を破ったのは菊川課長で 「この取り組みは やらんとあきまへんで!」と少し強い口調で言った。
 
 すると彼の隣にいた野崎部長は 「おい 菊川 お前それ 内政干渉やで!」と制するように言った。

 菊川課長の発言に対しても 米村部長から 何らかの意思の指示は示されなかった。

 会議が終わると 菊川課長は 川緑の近へ来て 「私にできることがあったらゆうてな 協力するで!」と言った。 

 その言葉に反応して 「菊川さん UV光源の発光スペクトルを測定したいんですが いい装置を知りませんか?」と投げかけた。

 後日 菊川課長は ケイトウ電機社の技術者に掛け合い 同社で開発したばかりのスペクトル計測装置を借りて この日に持って来ていた。 

 菊川課長は 川緑にとって とても頼りになる仕事のパートナーだった。

 課長は 人とのコミュニケーション能力に秀でたところがあり 関係会社の管理職や技術者との繋がりが強く 関連会社の内部情報や開発品の動向に精通していた。

 このような経緯で入手したスペクトル計測装置は 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」を進めるために なくてはならないものだった。

 菊川課長は 「この装置な 今週末には 次の予約が入っとりますねん。」と言った。

 浜崎さんと川緑は 直ぐに スペクトル計測装置を用いて 社内にある幾つかの高圧水銀ランプやメタルハライドランプの発光スペクトルの測定を始めた。

 彼等は 発光スペクトルの測定と同時に 従来のUV光量計を用いて ランプの光量を計測した。

 それは UV光量計の受光素子の感度のデータと ランプの発光特性とを紐付けして 比較するためだった。

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