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塗料メーカーで働く 第二十一話 社外発表内容の修正

 1990年4月12日(木)午後4時頃の技術部の居室 川緑は 応接テーブルについた上司の森田課長と研究部の杉本部長に 「ペーパーをまとめましたので 内容のチェックをお願いします。」と言って それぞれにA4紙4枚の資料を手渡した。

 資料は 6月に予定されている第7回フォトポリマーコンファレンス向けのペーパーだった。 

 テーマ名は 「UV硬化型樹脂の硬化性の研究」で その内容はUV硬化型樹脂の反応性に関するもので その構成は 2つのポイントからなっていた。 

  内容の1つは 光重合開始剤の反応性を評価する電気化学実験の紹介で もう1つはUV露光量と樹脂の硬化性の関係式の提案だった。

 暫くの間 2人はペーパーに目を通し その後 川緑にコメントを返した。

 ポイントの1つ 光重合開始剤の反応性を評価する電気化学実験の紹介については 二人ともこれを公表することに OKを出した。

 もう1つのポイント 露光量とUV硬化型樹脂の硬化性の関係式の提案については 二人の意見が分かれた。

 森田課長は 「このまま出してみてもいいんじゃないですか。」と言い 杉本部長は 「一般的でない考え方を社外で発表するのは どうかね。」と否定的な考えを示した。          

 杉本部長の危惧は 一般的でない考え方を社外に提案すると 社外の技術者等から いろんな角度からの質問を受けることが予想され それらの問いに対応できるのかどうかということだった。 

 もし そのような局面で 回答に窮したら 発表を許可した会社側の資質が問われることになるということだった。

 硬化性の関係式の提案は 黒体放射スペクトルに関する Wienの式やRayleigh-Jeansの式に習って その式が現時点では 現象の全てを説明できなくても その後の研究には 重要な役割を果たすという観点からだった。   

 それでも この件については もっと深く掘り下げた研究を行い 理論武装しなければ 公の場で堂々と話をすることはできないだろうと思った。

 川緑は 「ご意見を頂き ありがとうございました。 内容を修正します。」と言った。

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