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塗料メーカーで働く 第三十八話 七流

 1991年6月12日(水)午前11時頃に 実験室で作業していた川緑に 営業の北野係長から電話があった。

 この日 係長は 藤河電線社の技術課の担当者から UVカラーインクのトラブルで 呼び出しを受けて 先方での打ち合わせの後に 川緑に連絡していた。

 係長は 暗く沈んだ声で 「川緑さん 先方から 御社は二流でも三流でもない 七流だ! と言われたよ。」 と言った。

 彼は 藤河電線社に届いたUVカラーインクのボトルの一部に インクの漏れ出しが発生して 作業者がそのボトルの蓋を開けると 中にごみが混入していたと言った。      

 係長は これから インク漏れしたボトルを東京工場の品質管理課へ持ち込み インク漏れの原因調査とごみの分析を依頼すると言った。

 6月14日(金)午後1時 東京工場の品質管理課の会議室に関係者が集まり対策会議が開かれた。

 品質管理課の樋口課長と坂口係長と 営業の北野係長と 技術の川緑が参加した。

 会議が始まると 坂口係長は 今回の藤河電線社のトラブルの状況について説明を始めた。

 ボトルからのインク漏れは ボトルの内蓋に取り付けられたリング状のゴム製パッキンが インクを吸収して膨潤し内蓋を持ち上げ ボトルの蓋が緩み 輸送中にインクがボトルの外へ漏れ出したものだった。

 ボトル内に混入したごみは 分析の結果 その成分がボトルと同じ物質であるポリプロピレンだと判った。           

 混入したごみは ボトルのメーカーで ボトルを成型した時に発生したバリが ボトル内に残存していたものと結論付けられた。

 次に トラブルの対策案が議論され 具体策と担当者とスケジュールが取り決められた。

 会議の最後に 樋口課長は 「東京工場は UVカラーインクに求められるような高品質の製品を作れるようにならなければ将来はない。 全力で品質改善に取り組む。」と強い口調で言った。

 この頃 自社の光ファイバー用のUVカラーインクは 複数の電線メーカーに採用され 徐々に 受注量が増加していて 東京工場は インクの製造を 1つの事業にしようとしていた。

 東京工場は大田区にあり 周りには民家や町工場が密集していた。      

 このような立地環境にあり 石油化学製品を取り扱う東京工場は 事業を続けるために 火災事故だけはなんとしても避けたいところだった。 

 そこで 東京工場で製造する製品は できるだけ引火性の低いものを対象とする方針があった。  

 光ファイバー用UVインクは 引火性が低く付加価値が高い商品で 将来の需要の伸びも期待できる商品だったので 東京工場は この商品を事業化することに意欲を示していた。
        
 そのような背景が 樋口課長の 「全力で品質改善に取り組む。」との強い口調に繋がっていた。

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