「若年がん患者在宅療養支援制度」

最近、嬉しいことがありました。
高知でこの4月から「若年がん患者在宅療養支援事業」という制度が新たに開始されたのです。40歳以上の介護保険を払っている人たちが受けられる支援を若年層の人たちも受けられる支援制度です。

「制度の狭間」

息子が入院中、転院か家に帰るか迫られたことが度々ありました。その時にソーシャルワーカーさんに「家に連れて帰るんだったら介護の方たちが受けるサービスを受けることは出来ませんか?」と聞いたことがあります。「無理ですね。若いから」 …即答でした。

息子の場合、障害者手帳も頂いていませんでした。前に相談に行ったら「白血病の場合は寝たきりかそれと同等にならないともらえません。ま、もらえてないから、それだけ状態が良いと思ってください」と言われました。

子どもの時は白血病が小児慢性特定疾患の対象になっていたので、外来や入院中の治療費とか装具を買う時の補助など、すごく助かっていました。20歳になった時点で難病指定に切り替えましょうと言われたのですが、白血病は難病指定ではありませんでした。なので、今まで治療費がそんなにかからなくて済んでいたのが、急に払わなくてはいけなくなって。息子の場合は20歳を過ぎての移植、それも2度だったので、病院代・薬代がものすごくかかりました。

入院中にソーシャルワーカーさんの所に何度も行って「何か使える制度はないですか?」と聞いていたのですが、「残念です。息子さんはちょうど制度の狭間にいて、行政の隙間から取りこぼされています」って言われました。

「若年がん患者在宅療養支援制度」

息子が亡くなったあと、テレビのニュースを見ていたら、よその県の条例で「若年がん患者在宅療養支援事業」というものがあるっていうことが放送されていました。インターネットで調べてみたらいくつかの県や市で条例として出されているらしく、サービスの内容は訪問介護や訪問入浴介護、福祉用具貸与・購入など、まさに介護の現場で使われているものとほぼ一緒。これを見た時に「あー。息子が生きてる時やったら家に連れて帰れたのに。病院で死なすことはなかったのに」と思わず呟いてしまいました。でも残念ながら私達の住んでいる県ではその条例はまだありませんでした。

息子が家に一番帰りづらかったことにトイレのことがあったと思います。病院で自分とあまり年の変わらない看護師さんにそういったことをやってもらうのはどうなんだろうと思っていたのですが、相手はプロなのでそこは躊躇なく頼む事が出来たみたいです。家に帰って家族に頼むとか、そこは彼のプライドが許さなかったのでしょう。病気、それも生死の境い目にいる患者でも1人の人間なので、尊厳を守るっていうことはすごく大事なことだと思います。

息子が亡くなった後、去年の6月だったと思います。知り合いの方から県議さんを紹介してもらって、条例のことや学校のことをお話しする機会を頂きました。最初、その方と2人でお話しするのかと思っていたら、県庁の方2名、教育委員会の方2名、市議さんと6人の方たちの前でお話しすることになりました。

私がたまたまテレビでその条例を見たと言ったらみなさん「そんなのは知らなかったです。すぐ調べてみます」と言ってくださいました。

私も自分なりにいろいろ調べてみると、いくつかの県や市で条例を出していることが分かりました。大体のところでは20〜39才の若年がん患者在宅支援事業として。訪問介護や訪問入浴介護、福祉用具貸与、福祉用具購入、介護支援専門員による事業所の紹介・調整等に係る費用など、要するに40才以上の介護保険を支払っている人が受けられる支援を若年層の方たちにも使える支援です。

ただそれだと手放しでは喜べません。白血病の場合小児慢性特定疾患の適応は18才の誕生日までで、その時にまだ治療を受けていたら20才まで延長する事が出来ます。でもそうなると18才、19才の時に罹患した患者さんがまた取りこぼされてしまいます。

そういった細かいところもカバーして頂けるようにお話ししてから、話がトントン拍子に進んで行って、高知でもこの4月から「若年がん患者在宅療養支援事業」が開始することになりました。あまりにも展開が早いので自分でも驚いています。

まだ足りない部分があるとはいえ、とりあえず「若いから」っていう理由だけで相談する機会を失うことはなくなりました。
残念ながら息子には間に合わなかったけど、これからの若いがん患者の方たちには絶対必要な制度なので本当に良かったと思います。

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