見出し画像

【超短編】ガラスの心

気が付けばここにいた。

真っ白い紙に包まれたこの空間。

キャンパスのような壁に触れると
いつなんどきであっても、誰かが同時に、
同じ力で、同じ場所を外側から触る。

外には何がいるんだろうか。
結局、そんなものは知る由もなかった。

….ここにくる以前の記憶がない。
それに気付いたのはいつだったろうか。

記憶は確かにある。
でも、それは他人の記憶なんだ。ここに来る前のものではない。
証拠なんてないのに、それだけははっきりとわかる。

知らない人の記憶を見るだけで、
不思議と退屈はしなかった。

外に出たい気持ちも、もちろんあったけれど、
軽くつつけばまた、外側から同じようにつつかれて、
紙の壁はピクリとも動かないから、どうしようもなかった。


その「誰か」の記憶は、見ると何もできなくなるもの、
見るたびに、外へ無性に出たくなるものとか、
度合いは様々だけど、外への関心を揺さぶられる。

破れないものかと壁を叩いたり殴ったりしても、
やはり外の何かに抑えられて、びくともしない。

加えただけの力が全くそのまま返ってくる、
まるで「作用反作用の法則」みたいな何者かがそこに居る。


記憶とは言ったが、時々更新されて、新しい記憶が生まれることがある。
自分はこの部屋からは出れないというのに不思議なことだ。

増えていく記憶は、段々と外への魅力を増幅させる。

外に行ってみたい。

外に出たい、外に出たい、外に出たい。


外に出たい外に出たい外に出たい外に出たい外に出たい外に出たい外に出たい外に出たい外に出たい外に出たい外に出たい外に出たい!!!!!!!!


そう言って、外からの力を押しのけて部屋の壁を突き破った。


それが、最初で最後の記憶。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?