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公務員に転職したくて官庁訪問する

前回は公務員試験を受けた話でしたが、今回はその後の官庁訪問の話です

 ほとんど勢いだけで公務員試験を受けていたので、官庁訪問の知識がないまま、霞ヶ関あたりをさまようようになった。
 記憶は定かではないが、たしか労働省を訪問した時のことである。この時期にはいろんな受験生が来るらしくて、相手の採用担当職員も慣れた感じで相手をしてくれた。慣れた感じというのは、あまり良い意味ではない。
 若い職員と話をしながら軽く面接のような感じになるのだけど、「どうしてここに入ろうと思ったのーぁ?」と聞きながらあくびをしている。ひどいよな、こっちだって一生がかかっているのに、とは思うけど、こちらも正直大した志望理由は無い。だから相手も眠くなるのかもしれないけど、それでもその態度には腹は立った。

 税関にも行った。その時、僕は英検の準一級とか、TOEIC800何点とか持っていたので、それを聞いた担当者は一瞬食いついたかのように見えたけど、僕が既卒の26歳と聞いてすぐに興味を失って、隣の僕よりもまるで英語のできない新卒とぺちゃくちゃ喋り出したので、そのあたりで悟ってしまった。若い子のが良いのね、年齢がいってたらダメなのね、英語ができても門前払いなのね、と。

 不貞腐れて官庁街をぶらぶらしていたら、目の間を短く切ったジーパンを履いた女子が通った。かなり短く切って、下尻(こういう表現があるのか知らないけど)がはみ出ている。これは下品なのか、セクシーなのか、いずれにしても霞ヶ関には不釣り合いだ。何者だ?そう思って後をついて行ったら外務省に入って行った。なんだ?この人外務省で何やってるんだ、バイトか?あんな格好しても外務省は雇ってくれるのか。あんな人が目の前をうろうろして、仕事なんてできるのか。なんて破廉恥な省なんだ。俺も入りてえ、と思ったら国家2種では入れなかった。
 でも、その印象は間違ってはいなかった。その後、何年か経って外務省のスクープがあった。職員が不倫相手を点数化して得点を競い合っていたのが発覚して、ちょっとした社会問題になった。点数表では女子アナとか芸能人は高得点で、職場の同僚やバイトは低い点になっていた。外務省は不倫をゲームにしていたのである。なるほど、確かに破廉恥な省だ。あの時の下尻のはみ出たバイトは、暑い夏を歩き回って疲れた末の幻ではなかった。

 横道に逸れた。結局は年をとったら本省採用は無いのである。公務員の世界は年功序列が強く、中途入社ではキャリアパスが組めなくなるから敬遠されるのではないか。でも、技術職でもそんな話を聞いたことがあるので、もうそれは文化なのかもしれない。
 官庁訪問中に早稲田出身で財閥系の会社に勤めていたけど、仕事が大変で辞めてきた人がいた。いかにも早稲田というか、明るい優秀な感じの人だったが、その人も既卒だからか本省はやはりダメで、某局に決まってしまった。本人は不本意だったらしく「俺ってこんなもんなんだな」と失望しながらも、他に行くところもないので仕方なく行っていた。転職で公務員を考える人はよく考えてから転職しましょう。

 やはり官庁訪問で知り合った人に、大学職員は学生相手なので年がいっている方が受かりやすい、と聞いたので受けてみたら、あっさり2つも受かってしまった。大学職員も良いかな、転勤もなさそうだし。そう思っていたら国税局から説明会と面接の連絡が来た。
 連絡が来て、そういえば国税専門官を受けてたんだっけ、と思い出した。国税専門官試験は国家2種とは別の試験で、会計学の科目が増えるので受験生は敬遠しがちだけど、僕は大学で経営学部だったので会計学は勉強したことがあり受けやすかった。国税専門官が何者かほとんど知らなかったけど、噂では給料は国家2種より良いそうだ。俸給表という給料のベースがそもそも高いらしく、昇給も早い。良いことずくめではないか。仕事内容はよくわからないが、大学職員よりは面白そうだ。
 説明会では採用担当職員の説明は丁寧だった。向こうから説明会の連絡をしてくるのといい、説明会の真摯な態度といい、労働省とはまるで異なり、入局をして欲しいという誠意を感じた。これは入りたいな、と思った。やはり入社を決めた最後のポイントは、職場の雰囲気や職員の人柄を見て決めたのだと思う。
 面接の後、他の受験生と懇親会に行った。年長者はなんとなく分かるので声をかけたら、銀行や金融関係企業の出身者が多かった。みんなすごい人ばかりだなと感心したものだった。地方銀行出身の多い中に都市銀行出身の人がいた。その人は「俺の同期は弁護士や公認会計士になるために退職した」と豪語していた。だから、国税は余裕で受かると思っているらしい。ちょっと不遜な印象を持った。その後、入社後の研修で彼を見かけることはなかった。採用する側もこちら側の気持ちを見ているのである。

 何年も前のことを思い出してみると、採用はやはり縁だと思った。僕はその後国税を10年くらい勤めて退職する。勤めてた間には、良いことも悪いこともあったけど、国税にお世話になった10年間は素晴らしい経験をした、と思っている。官庁訪問の時のことを思い出すと、いろいろな省庁、役所を回ったけど、国税が一番しっかりしていた。やはり、最初から縁があったのかしら、と思うのである。

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