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「都会のトム&ソーヤ」読書会アーカイブ#3

読書会サークル「どくどくかい」の文字起こしアーカイブです。
課題本は、はやみねかおる「都会のトム&ソーヤ①」。


課題本


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問いを投げる


古川:じゃあ次、投げかけのコーナーにいきますか。

ゆか:古川さんのお話、すごい面白いですね。小学校のころこの作品を読んだ経験がある古川さんはとても貴重な経験をされているというか、羨ましいなと思いました。今は思い込みがある。最初の一文いいっていうの確かにそうで、これ本当に素晴らしいですよね。物語としてもこのセリフってけっこう主人公の幼さを象徴してるっていうか、そんなにお金持ってない人っていうことがわかるじゃないですか。だからたぶん第1巻の最初でこれが出てきて、どんどん主人公が成長するにしたがってもっと大人な考えも身についてくるのかなっていう風に思います。最初のつかみとしてはすごい面白いですよね。

古川:そうですね。思いました。バーガー100円の時代とか、俺が生まれた時ぐらいですもんこれ。2003年。

ゆか:あと古川さんの話聞いてて思ったのが、創也が1巻の時はまだかっこいいけど、どんどんポンコツになっていくっていうのを聞いて、創也ってたぶん、はやみねさんインタビューでいうところの「知識だけ持っている人」じゃないですか。知恵はあまりない。知識だけしかないからどんどんポンコツになっていくんだろうなと。反対に内人君は知恵があるから自分でいろいろと考えてどんどん問題を解決できるようになっていくんだろうなと思いました。

古川:それは半分理解できる。いうほど2人で両輪って感じでもない気はします。持っているものが片輪だけっていう感じでもない。両方お互いの要素もありつつ、確かに直接取材を経て改めて読んだわけではあったんですけど、でもとはいえ知識がこっちで知恵がこっちで、知識だけじゃ回らないよねと言うためだけに創也と内人を設定してるわけでもない気がするんですよね。

なす:うん。たぶん、内人の方がはやみねさんなんだと思うんですよ、要素が多いのは。きっと創也の冷たそうなところ、冷たく突き放してる風に言いたいところのみがはやみねさんの投影なんだと思うんですね。創也側の、まだはやみねさん自身にあんまりない要素が多いのを突き詰めきれなくて、一端が弱いのかなと思っている。創也のキャラがポンコツになっていくのは、ポンコツになるにつれてだんだん自分が思ってる創也の作り方が、はやみねさんが周りから見た時に冷たいって言われた要素を詰め込んだのが、「創也」というキャラクターなのかなと読んだ時に思ってて。

どちらかというと、周りから言われるはやみねさんの冷たい要素を集めようとしたけど集めきれなかった感がある気がしてる。巻を重ねるごとにポンコツになっていくのは、それがはやみねさんの周りから見てもポンコツなところってちゃんとあるよねという要素が増えてきたからなんじゃないかって、いま勝手に思いました。

古川:おもしろいですね。

なす:たぶん純朴はやみねさんが内人で、なんかそうじゃないところを創也に詰め込んでるんじゃないかなって気がする。

ゆか:確かにこの小説読んでてもけっこう緻密に構成しないと成立しないと思うので、すごく冷静な視点で物語は書いてると思うんですけど、でも受け取るメッセージとしては情熱的なことであったりとか、ただ知識があるだけじゃダメだから自分で考えて工夫していかなきゃいけないみたいなメッセージだったりとか、ちょっとなんか熱い要素もありますよね。おっしゃってるようにはやみねさんの2つの部分を表現しているんだろうとは思います。

古川:はやみねさん、ミステリー大好きおじさんですからね。その辺の冷たい論理的なところは確実に持ってる人でしょうし、確かにそれを創也にぶん投げてるっていうのは納得って感じます。しかしそうなるとおばあちゃんの役回りって気になりますね。おばあちゃんは大人のはやみねさんなんですかね?


書いてる作者はどんな人?


なす:ハンバーガーよりもさらに前の書き出しで、ミシシッピ川がないからトム&ソーヤになれなかったっていうのあるじゃないですか。4ページのところ。

古川:そんなんあったっけ。俺それ知らない。

なす:「ミシシッピ川がないからトム&ソーヤになれなかった、僕はそう思っていた。だけど僕の周りには宮川と徳山川があり…」のところ。宮川と徳山川って三重県で、はやみねさん三重の人ですよね。だからたぶんそこの要素、この部分はほとんどはやみねさんなんだと思っているんですよ。ほとんどなのか全部なのか、作者の思いを内人の口調、地の文で書いたらこうなるんだと思ってて。そういう環境で育ったんだとは思うんですよね。

だから作中登場する「おばあちゃん」は、大人のはやみねさんかもしれないけど、どちらかというと小さい時の内人にとってのおばあちゃん的な人が、はやみねさんにもほぼそのままいたんじゃないかなって読んでました。

メモにも確か書いたんですけど、舞台を都会・都市にしたのって、たぶんあれなんじゃないかな。はやみねさん、この中に出てくるようなことをだいたい自分でやってると思うんです。ドライアイスまでやってるか分かんないけど。そういう話を人に伝えるときに、きっと「田舎だから」とか「時代だから」とかすごい言われ続けてきたんじゃないかなと思うんですよね。だからできたんだよ、なのか、だからそんなことやってる暇があるんだよ、みたいなこととか。それに反抗するために、都市部だってできるしって言うために「都会」設定にした気がすごいする。

古川:おもしろい考察ですね。あの最初の書き出しより最初にミシシッピ云々があったことに20代の俺は今気づいたし、当時の俺も毎回読んでなかった気がする。1回以上は読んでたと思うんですけど、今見ると確かに、納得です。

なす:「ペットボトルの中にドライアイス入れて爆破させるような行為は危険ですので真似しないでください」って目次に注意書きがあって、はやみねさん何する気なんだろうって思った。

古川:これでだいぶバレるっていうか、一個ネタバレがあったんですね。俺、なすさんのこのメモでこういう記載が電子書籍にあったっていうのを見て、やっぱ最新刷だなと思ってたんですけど、今初版の本見ても書いてあった。

なすさんのメモ読ませてもらって、もうひとつ思い出したのはそういや読点が多いなって思ったこと。読点。句点か?いや「、」だから読点か。当時全く気づかなかったけど、今読んだ時にあれなんか多いなって。後半のどっかでギュッとそれが減る場所があったりもして。全く昔は気にしなかった視点だったので、それに気づけてよかった。

なす:テクニックでしょうね作者の。

古川:わりとマジで一番読んでた本なので、たぶん自分の文章もこの文体に引っ張られてるとこはけっこうあると思うんですよ。一番バイブル的な感じになっている気はしてて。俺も気づくと読点たくさん打っちゃうんですよね。なんかもしかしたら知らず知らずのうちに、思ってる以上に、作文する中で入りこんでるのかなっていう気はちょっとしました。

なす:それあるでしょうね。読んでいたものに一番影響を受けるっていうのは。たくさん読んでるってことは、その文章のリズムが自分が心地いいと感じてると思ってるということだと思うので。

古川:「考察」って言葉を覚えたのもこの本が初めてです。考察って何ってなんだろうって思った。


前半と後半、好きなのはどっち?


古川:…質問コーナーですよね今(笑)今回質問全然してないや。前半と後半どっちが好きかっていう話、しましょうよ。ちょっとおもしろいなって思ったんで。マンホールの話とテレビ局の話、どっちが好きか。さっきおっしゃっていただいたゆかさんはどっちですか?

ゆか:私、前半派です。なすさんは?

なす:明らかに前半ですね。メモの量が違う。後半も普通に楽しく読んだんですけど、前半に要素が詰まりまくってて、後半はやっぱり児童書でもなく本当にこの場所でミステリーを書くために前半で企画通したんだなってのが強い。私の中ではこの本の前半が商業部分で、後半は同人誌だと思って読んでるぐらいの感覚で違った。

古川:だいぶ違いますね。俺、実は後半なんですよ好きなの。少なくとも小学生の俺は後半が好きだった。というのも、以降のトム&ソーヤシリーズはほぼ後半的なノリで進んでいくんですよね。だから1巻から当時読んだのが12,3巻ぐらいまではリアルタイムで追って読んだんですけど、そこまでほとんどテレビ局の話っぽい感じで話が進んでいく。だから正直、全巻知っている俺からすると1巻の前半パートだけめちゃめちゃ浮いてる。

ゆか:へーそうなんだ。

古川:すごい浮いてる気がしていて、当時も、砦にまでたどり着くとかはあの辺の設定のところはあれはあれで好きなんですけど、マンホールの冒険に関してはだいぶ毛色が違う。短編っぽすぎる。シリーズ通して物語がどんどん進んでいくんですね。2巻3巻4巻とクリイエイタがいて、さらに謎の集団がいて、学校の友達がいて。どんどん繋がっていく。テレビ局の話は繋がっている話の一つだったし、展開を楽しみにするっていう意味でもシリーズの一作品として成立してる感じがするんですが、逆にマンホールは単発感がありすぎるというか、なんか登場人物ほとんど出てこないですし、このあとどんどんわちゃわちゃしていく中で最初のこの一番最初感がなんか違うんですよね。

だからぶっちゃけ言うと1巻の最初のマンホールの話、結構好きじゃないんです。好きじゃないというか毛色が違いすぎて同じ雰囲気で見れない。砦のシーンは好きなんですけどね。砦までたどり着くあそこは背景設定の部分だし、主人公2人の紹介も兼ねてるから、いろいろ垣間見えてる感じがしてすごい好き。でもピクニックは俺、あんまり。だからお二人が前半好きって言ってることに結構びっくりしてます。そうなんだって。

なす:私、たぶん前半の中のでも砦まで、です。ソファーや机はどうやって運び込んだんだいっていうところまで。マンホールまでにギュって詰め込みきったなって感じがしてる。今回、読み方の違いだなって思ったんですけど、私はやみねさんと対話してたんですよきっと。読み方が最初の部分までがベースで、その後はもうはやみねさん自分の世界に入ってるのでミステリーの話っていう。だからそこから後は基本的に眺めてるだけでだーって一気に読めたけど、それを読んで感じたこと考えたことを書く読み方にはならなかったなっていうのが、たぶんそこの違いなんだろうなって思っています。

ゆか:古川さんが後半が好きというのは、このシリーズのファンの方はミステリー要素が強い感じの方が好きなのかもしれないですね。

古川:まあそうですね。シンプルに作者に会ったことない小学6年生なんて、ミステリーエンタメいっぱいのが好きですよ。

ゆか:そんなことないですよ。私小学校のころから村上春樹好きだったんで。

古川:本当すか。すげえ。当時の俺はエンタメというか、いろんな人がわちゃわちゃしてるミステリーみたいな感じの方がおもしろかったですね。作者の思いどうこうとかよく分からなかったし、主人公にもそんなに特に注目してるって感じもなかったから、単純にお話としてストーリーとして興味を持ったのはやっぱり後半。その熱を今も感じて読んだなっていうのがありました。

なす:私これだんだん続けて読むと「はやみねさん読み」から「キャラ萌え読み」に変わるんですよ。たぶん創也のポンコツになっていく具合はきっと1巻の時点でそれは可愛いだろうなっていう気配がすごいするんですよ。

古川:他のキャラクター、たとえば卓也さんは皆さんどんな印象ですか?


つづく



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