義体ドール 5-6

クローゼットをドールのスタジオに作り替えた。
腰の高さの位置に棚を作って上下2段にし、その上段をステージにした。
そのままでは、奥行きに不安が残るので、クローゼットの奥行と同じ幅の板を取り付けて倍の奥行きにした。
蝶番で開け閉めできるので、使う時は手前に倒し、隅の角に補強の柱を立てる。
使わない時は、起こして扉のようにする。
下段には、ドールに必要な備品や材料、消耗品を置くスペースにした。
これで、製作途中で片付ける手間も無くなる。

2B、9S、A2、司令官の4名のダンスの制作にかかる前に、ゲームのエンディングを再現してみようと思う。
そのシーンとは、イヴを倒した後、9Sがウィルスに感染してしまったシーンだ。

イヴを倒して天を仰ぐ2B
「これで・・・全部・・・」
「が・・ぁあがぁっ・・・」
突如9Sが苦しみ出す。
振り返る2B。
レオタードが見えるほどボロボロになったスカートが、イヴとの戦闘の激しさを物語っている。
顔をあげて2Bを見る目が赤く光り始める。
「9Sッ!!・・・」
「はは・・・失敗しちゃった。・・・イヴのネットワーク分離時に物物理汚染されちゃったみたい。」
9Sに脚を引きずりながら歩み寄る2B。
「そんな・・・」
「大丈夫、バンカーにあるデータで巻きもどる事は出来るから・・・」
「でも、それじゃあ「今」の君は戻ってこない・・・」
「そウだね。汚センデータをバンカーにアップロードするわけにも・・・いかナイから・・・」
「9S・・・」
「お願い・・・2B。僕は・・・君の・・・手で・・・」
そう言う9Sの首から徐々に汚染されていく。
脚を引きずりながら9Sに馬乗りになる2B。
9Sの頭を両手で持ち、しばし目つめ合う二人。
やがて2Bの両手が9Sの首にかかり締め付けていく。
「んんーんっ・・・」
たとえわずかでも早く楽になれるように、満身の力を込めて首を絞める。
「・・あ、あぁ・・・がぁっ!」
こと切れる9S。
2Bから嗚咽が漏れる。
剣で刺せば楽に死なせてあげられるのに、攻撃方法を全て無くした今では、2Bが自らの手で楽にして上げるしか方法が無かった。
二人が切なくて悲しい。
9Sの頬を両手で包み込み、抱き上げる2B。
「・・・いつも・・・こんな・・・」
2Bの涙が9Sの頬を濡らす。
抱きしめ頬を寄せる2B。
その時、電気音とともに放置された機械生命体頭部の目が緑に光る。
信じられないものを目の当たりにした2Bの表情。
「まだ・・・残ってるのか・・」
9Sから離れ、イヴを刺した刀を拾って機械生命体の頭部に足を引きずりながら向かう2B。
「こんな・・・機械・・・ッ」
2Bが頭部と対峙した時、緑が規則性を持って点滅を始めた。
訝しげにそれを見る2B。
「・・・これは・・・通信・・・?」
剣を振り上げたまま、辺りを見回す。
点滅がいたる所に散乱する頭部に広がって行く。
「データ信号が・・・共鳴しあって・・・」
不意に、地響きとともに瓦礫から巨大な機械生命体が現れる。
あからさまな敵意を持って機械生命体に向かって剣を構える2B。
突如聞こえてくるあの声。
「ちょ、ちょっと待って!2B!!」
「・・・君は・・・」
機械生命体を見上げる2B。
「僕、パーソナルデータを機械生命体側に残していたみたいで。なんか気づいたら周囲のネットワークの上で自我が再形成されたんだ。こうやって複数の自我が統合されていくのは貴重な体験だから記録しておきたいんだけど、まだ保存領域へのアクセスが出来なくて、とりあえずこのあたりにある敵のメモリーに多重化して保存しておいた後に、僕が自分のボディに戻れた時に・・・」
「9S・・・よかった・・・」
「・・・うん。」
両手を開いて2Bを迎える機械生命体の9S。
「機械生命体と私達アンドロイドを分かつモノは何だろうか。意志と感情を持つに至ったロボット達。彼等が死の間際に振り絞る、最後の叫びが、今もまだ、私の中に残っている。」
機械生命体の巨大な手に腰掛けて9Sを見る2Bの横顔には優しい微笑みが浮かんでいた。

「こうやって、アダムとイヴを巡るの最後の戦いは終わった。この戦いは戦局に大きな影響をもたらすだろう。僕と2Bの戦いもこのあとまだしばらく続くんだけど・・・それはまた、別の話。」

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