【読書メモ】「日本株を動かす 外国人投資家の思考法と投資戦略」菊池正俊 著


日本株に対する外国人投資家の影響力はどの程度なのか?

日本株の保有量でみると減少しているが、売買量で見ると存在感は依然大きい。
株数ベースの外国人投資家の保有比率は、2014年度末の28%のピークから、2021年度末までに25%まで低下。2021年度の日本株の投資家別の売買代金シェアで見ると、外国人投資家は68%、個人投資家は24%。
背景として、ロングオンリーの長期投資目的の外国人投資家が減少する一方、短期目的のヘッジファンドの売買が多い。

日本株を買う外国人投資家はどのような人たちなのか?

売買フローで存在感の大きい短期目的のヘッジファンドは、香港やシンガポール等の日本人経営の先が多い。
欧米大手運用会社の日本株運用は、実際は東京拠点で日本人が行なっていることが多い。世界の運用資産上位の運用会社10位のうち8社が米国企業で、あとは欧州企業であるところ、欧米の投資ポリシーとしては、米国はボトムアップ型、欧州はトップダウン型が多い。また、近年はファクター投資が流行っており、金利・為替等に応じてバリュー株vsグロース株といったローテーションを行うため、トップダウン・ボトムアップ双方の視点が必要になる。

外国人投資家は日本株に対してどのような考えで、どのような投資を行っているのか?

市場として規模が小さくなり退出する投資家が増えている

外国人投資家は(日本株市場として)大型株を保有する傾向が強いところ、日本株市場が円安やデジタル革命でグロースした企業が少ない等から、世界の株式市場に対して相対的に時価総額が小さくなったことから、日本株をリサーチする意欲・関心が低下しているし、日本株のファンドマネージャーを希望する層も減少しており、日本株運用をやめる欧米運用会社も増えている。

どれくらい日本株市場の規模が小さいかというと、例えば米国の大手運用会社(世界の運用資産上位の運用会社10位のうち8社が米国企業)の目線感で言えば、企業のサイズ感に対する目線感が日本と異なり、例えば日本では大型株といえば時価総額1,000億円以上であるところ、米国では小型株といえば60億ドル以下。つまり日本の投資家から見た大型株の多くは米国では小型株になってしまう。市場規模の大きい中国のおまけ扱いする向きも。

テクノロジー株の株高の乗れなかった市場の扱い

2013年から始まったアベノミクスに対する期待感から買いが増えたものの、2015年半ばがピークで、その後はGAFAM等テクノロジー株が時価総額を高めるグロース相場の中で、日本株の保有が減少している。背景としては、デフレ脱却の難易度の高さ(規制緩和・構造改革を通じた潜在成長率引上げが不十分)、コーポレートガバナンス改革が不十分であること、IT革命に出遅れている、とみなされたため。

グローバル企業を選好、内需企業は回避

外国人保有比率が高い業種は、金額ベースで精密(44%、HOYA、テルモ、オリンパス等)、電気(41%)、医薬品(40%)など、国際競争力を維持していると見なされる業種。逆に、内需業種の外国人保有比率は低い。
日本の内需には悲観的なため、外国人投資家は海外事業を拡大する企業を評価する傾向にある。
一方で、内需銘柄であっても社会的に有意義な事業に対しては評価が高く、戸建中古再生を行うカチタスは外国人保有比率が36%と買い。

オーナー企業を選好

日本企業の多くはサラリーマン経営者が多く、株主価値の最大化に対するコミットが不十分と認識。
ソフトバンク、ファーストリテイリング、ニデック等、オーナー企業には株主価値を最大化する期待から、外国人保有比率が高い。

売上・利益目標ではなく、EPSを重視

売上は外部環境に左右されるので利益を重視、特に、リストラ・自社株買でコントロール可能なEPSを経営指標として重視。
ROEが高いことは当たり前。

その他評価されるためのドライバー

国際競争力(ソニー、オリンパス、ニデック、村田製作所)
利益率の高いビジネスモデル(キーエンス、ファナック)
コーポレートガバナンス(HOYA)
事業ポートフォリオ再編(日立)
キャピタルアロケーション・バランスシートリスクマネジメント(ダイセル)
業績連動の役員報酬制度(オリンパス、ビジョン)
コングロマリットよりスピンオフ
パーパス経営

これから、外国人投資家の投資姿勢はどのように変わりうるのか?

日本株は割安に放置された企業が多いことから、一般に金利上昇局面においては斯かるバリュー株が評価されることが多いので、日本株に対する関心が高まることが期待される。

構造的に円安が続く可能性をふまえると、日本経済は日本企業の海外移転が進み、円安が進行しても輸出が増加しない成熟した債権国型の経済構造に移行しつつあるため、インバウンド需要の回復に対する期待が強い。

日銀の金融緩和の修正に関しては、既に物価目標の達成に失敗(特に日銀とGPIFによる日本株買上に批判的)したとみなされているため、今後の動向に関してはそれほど関心は高くない。

2050年カーボンニュートラルだけ掲げるのではなく、具体的な中間目標やサプライチェーン全体で見たCO2排出削減量を掲げ、環境対応のプロダクトを通じた売上増加を目指す企業は評価を受ける。

人口減少する日本経済において、グローバル化・国内シェアの上昇による利益成長を伝えるエクイティストーリーを伝えられる企業は評価を受ける。

読書後コメント

外国人投資家が重視する投資先の選別基準は、一般に株式投資家にあてはまるものだと思い、逆に外国人投資家に次いで多い個人投資家が一般的に重視する点(短期の業績予想に基づくバリュエーション、配当利回り、株主優待、テクニカル指標、時流に沿ったテーマ)は企業価値の持続的な上昇の観点からは本質的には意味があまりないというか的外れな論点だと改めて思った次第。
世の中一般に、長期の株式投資といえば外国株式への長期インデックス運用が標準とされているところ、斯かる本質的に重要な選別基準に基づいて銘柄選別を行えば、個人投資家として企業価値向上に取り組む企業を支援することにもなるし、自身の資産形成にも貢献できてwinwinと思いつつ、現状はそうはなっていない。逆にいえば、そのような投資家が多いからこそ、企業側もある意味投資家を食ったような資本政策で生きていける、ということなのだと思う。


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