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【読書メモ】歩いて読み解く地域デザイン 山納洋著



○まちの読み解き方(まちのリテラシー)がなぜ必要なのか?


高齢者の買い物難民、待機児童、公共インフラの老朽化、限界集落、ニュータウンのオールドタウン化など、マクロな課題に取り組むためには、ミクロに、具体的に誰がどう困っているのか、という観察が必要で、その解決には地域の歴史、資源、住民のアイデンティティ、人間の嗜好をふまえた個別解が必要になる。そして、その個別解を導くためには、住民自身がまちをどうしたい、どうすべきか、という思いを具体的な言語で示す必要がある。この現状観察と個別解を導くために、まちのリテラシーが必要になるのである。

〇まちあるきのアプローチ


・地図を見て気になった場所に行ってみる
・昔の地図を見て、今と変わっている場所、変わっていない場所を見にいく
・神社・お寺・祠・お地蔵さんなど、昔からの信仰の対象を見る
・商店街やスーパーに行き、何が売られているかを見る
・お店や公園など、自分好みの場所を探してくる
・知り合いのおススメの場所を聞いて行ってみる
・喫茶店・呑み屋などで、そこでしか聞けない話を聞いてくる
・そこに引っ越すとして、買い物、銀行、病院などの利便性を調べる
・自分の専門分野・仕事の目線から見る

○まちの読み解き方(農業)


・昔からそこにあるもの(古い民家、地蔵、水路、大きく育った木、大きな石)は昔からの集落の可能性が高く、周辺の農地が宅地化(都市化)が進む中でドラマがあったはず
・昔からの集落には緩やかなカーブの道路が多く、結果自動車がスピードを出しづらく歩行者に優しい空間のことが多い
・昔ながらの集落でもまっすぐな道路が整備されていることがある(条里制の遺構など)
・村の出入り口には〆縄や道祖神、地蔵が祀られている
・ため池・用水路→宅地化が進む中で消失vs農業以外の憩いの場として取り込む
・土地改良の投資を農業のために行うvs宅地化のために行う
・市街化区域内の農地(生産緑地)→宅地化する可能性

○まちの読み解き方(製造・物流)


・自動車・鉄道が発達するまでは水運が物資運搬の主要手段であり、水運の中継地がまちの中心になっていた
・かつては主力エネルギーだった水力を利用できる場所で産業が栄えた
・産業革命で紡績・鉄鋼・機械等の工場が立地したのは臨海部の新田開発地が多い→工場の撤退跡の利用方法次第で街の層が変わる
・モータリゼーションによる鉄道貨物の縮小・撤退後の再開発に注目する
・物流施設は自動車輸送の利便性・従業員の利便性を重視して立地する
・移転した工場跡地の再開発→移転した時代によって異なる特徴を持つ

○まちの読み解き方(サービス業)


・街道には老舗が残っている
・商店街は栄えるほど賃料が高くなり大手チェーンだらけになりがち
・規模がそこまで大きくない商店街で意外と面白い個人経営のお店が増える
・2000(大店立地法)~2006年(まちづくり三法)の間に郊外に大型ショッピングモールの建設が増えた
・一見商売が成り立たなそうな立地にあるにも関わらず、地域の需要から必然的に生まれるお店がある
・同郷コミュニティが集まり、成り立つお店がある
・高齢者が多い場所とコンビニ立地の有無
・インバウンドが多いと開発圧力が高まり地価が高騰することで、固定資産税の負担で長く住む住民が暮らせなくなるジェントリフィケーションが発生する
・駅前等一等地は賃料負担できる大手チェーンが展開しがち
・まちに暮らす人がいなくなるまちは、まちを長い目で良くするインセンティブが低下しがち

○まちの読み解き方(住まい)


・日本独自の鉄道会社が沿線の住宅開発を行うモデル(小林一三モデル)
・地方から集まる工場労働・建築現場の労働者向け住まいとして、供給された文化住宅・木賃アパート
・ニュータウンのオールドタウン化vs建替による住民の入替
・今マンションが建っている場所は、建物区分所有法・住宅金融公庫による融資制度が成立した1962年の時点で開発可能な規模の土地があったところ
・1997年の容積率緩和に伴い、都心部でタワーマンションの建設が進み、郊外に流出していた人口回帰が見られている
・開発圧力の有無が駅前の土地利用を決める
・郊外住宅地から駅前マンションへの移住する高齢者、ニュータウンの末路を見てリセールバリューを重視する若い世代が駅前マンションの需要の背景

○まちの読み解き方(駅前)


・鉄道の普及で駅前が新たなまちの拠点になる
・大正の終わりから昭和の初めに作られた郊外都市は、田園都市構想を参考に放射状の街路となっているが、多くの場合で単に放射状になっているだけ。
・盲腸線にはドラマがある
・駅前でも開発圧力がなければ開発はされない
・キスアンドライドvs公共交通優先
・日本特有のペデストリアンデッキ
・人が集まれる開放的な空間としての駅前空間の再構成

○まちの読み解き方(都市計画)


・かつての都市計画が今の街路に残されている(鍵の手、五間掘)
・江戸時代の城は1873年に多くが廃城となり、城郭の郭内や武家地は収公され、官公庁用地として開発された
・存城となった城跡は近代軍隊のための施設として利用され、その跡払い下げられ公園や学校になっている
・開発が耕地整理・区画整理の前後かで街路が変わる(後だと直線的・広い・通り抜けやすい)
・区画整理せず個別に開発された宅地は居住の機能性がいまいちになりがちな一方で、開発時期がバラバラなことで住民の構成が多様化するメリットもある
・1968年施行の新都市計画法で市街化区域が設定されたことで区画整理は促されている
・一方で、同じく制定された開発許可制度(市街化区域における1000㎡以上の開発行為)により、開発面積が1000㎡未満の建売住宅の開発が増加。結果、都市部では同じ形をした住宅が立ち並ぶ光景ができた
・大都市では戦中の建物疎開のため幹線道路ができ、歩行者フレンドリーではないまちになりがち
・都市計画道路は地権者交渉のため中途で終わり道幅が狭くなることがある
・旗竿地は1950年制定の建築基準法(建物の敷地は幅員4m以上の道路に2m以上接しなければならない)により建替できず古い建屋のまま放置されるか、リノベして民泊になることも
・2項道路(幅員4m以下)はいつか建替でセットバックされる過渡期の道
・自治体は景観政策で建物の高さ制限ができるが、その政策の実施タイミング次第で建物の高さがバラバラになる
・1997年の建築基準法改正で容積率が緩和されたため、開発圧力が高い場所では、開発タイミングが1997年の前後かどうかで建物の高さがバラバラになる

○まちの読み解き方(災害)


・水害が多かった地域は建屋の底上げ、近隣に堤が形成、防水性外壁(トタン)で補修されている傾向がある
・水害の多い川は鋼板で護岸が構築され、まちと水辺が分離しがち
・斜面地の家屋は擁壁・法面で保護されている
・イチョウの木は水分を豊富に含み、防火帯として古い家屋の周囲に植えられていることがある
・平成以降の住宅はサイディング(現地で塗装せず工場で作られたボードを貼り付け)が主流。災害の時期が平成以降だとサイディングだけのまちができあがる
・再開発のロジックは保留床による売買益確保、という供給ロジックで進めるため、テナント需要に配慮した開発にはならず、テナントが埋まらないor公的施設だらけ、になることがある
・災害に対する備えは、直接的な避難経路の確保や非常備品の用意だけではなく、いざ災害発生時にどのように復興にいたるのか、まちのリテラシーを高めておくことが必要になる

○まちの読み解き方(愛着)


・まちを変えるには大規模なリソース投入が必要になるため、現状維持の強い慣性が働く
・歴史的建築の保存と経済合理性の折衷案が腰巻ビル
・小ぶりで家賃が高くない場所で、かつ人が集まるきっかけとなる変化があると、開発が進むことがある
・連担建築物設計制度により、2項道路を回避し、昔ながらの街並みを維持することがある
・人々が心地よい、と感じる空間は自動車社会の中で減少している(水辺へのアクセス、緑のある歩行者空間、座れる場所、入り口までのアプローチと植栽、隠された場所、屋外スタンド)
・人と人がリラックスした状態で自然に話すことができ、つながれる場所があるか?→参加する人たちが自発的に何かを持ち寄り、情報交換したり、地域の問題を話し合うことで解決していくことができる


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