「いい子に育てると犯罪者になります。」を読んで。
少年院や刑務所で殺人や強盗などの凶悪犯罪歴のある受刑者のカウンセリングを長年行ってきた臨床教育学者の故岡本茂樹による著書。
著者は、全ての犯罪者が犯罪に及んだ遠因に幼少期の家庭における問題があると主張する。
日本のノンフィクション書は、あくまでも著者を含む少数の専門家の経験に基づく知見がコンパクトに纏められている本が多い。本書もその例外ではない。
逆にアメリカのノンフィクション書は、専門家やジャーナリストが特定の領域を深く広くリサーチしたものが多く、よりrobustなエビデンスに基づいていると言える。
本書は犯罪歴のある人への著者のカウンセリング経験に基づくものだが、一般的に広く応用できる点があった。以下、子育て中の親として幾つかハッとさせられた点を纏める。
他人に迷惑をかけてよい。
他人に迷惑をかけない事を美徳とする日本においては、親の言う事を良く聞く子ほど良いことされる。他人に迷惑をかけない事は子供の自立を促す一方で、子供自身で解決できない大きなストレスを抱えた場合でも他人に打ち明けられず、結果的にストレスをため込むことに繋がり得る。はけ口を失ったストレスが長年蓄積された結果、犯罪につながることもあり得る。
大人に甘えることを許されない環境で育った子供は、対人関係の構築が苦手である。他人に助けを求めることを知らないからである。ちょっとドキッとした。
誰もみな嘘をつく。
こどもに「嘘をついてはいけない」と教えてはいけない。子供が大人に嘘をつくのには理由がある。ただ単に怒られたくないという保身だけではなく、真実を明かすことで大人を傷つけたくないという気持ちや、嫌われたくないという気持ちが働く事もある。嘘をついてしまう理由を解明し、その原因を取り除くことが重要である。それをせずにただ嘘をつかない事を強制しても、ただ子供のストレスが増すだけである。
子どもが嘘をつくのは仕方ないし、他人に迷惑をかけてもよいのだ。子供なのだから。
親が自然体で子供と接する
親として子育てにおいて大事なのは、経済的に裕福である事よりも、子供にとって楽しい思い出となる特別な時間を過ごす事よりも、ただ純粋により多くの時間を子供と過ごす事である。
親が子供の前で自分の失敗やつらかったことを素直に打ち明ける事が出来れば、子供も親しい人の前で自分の弱さをさらす勇気を身に着ける事が出来る。
親がより自然体で子供とより多くの時間を過ごすことが何より大事だ。
自信を持つ
「自信を持つ」とは、他人に対して優位性を示す事ではない。「自分は他人より根性がある。」や「自分は誰よりもバイクで速く走れる」といった歪んだ形で自信を持つ非行少年が多いが、他人への優位性は必ずいつか壊れる。
自信を持つこととは、あるがままの自分を受け入れる事である。他人の目を気にして自分の言動を変えることなく、自分は今のままの自分でよいと心から思えることこそが、自信を持つことである。
若い時は他人の視線を大いに意識して高い洋服を買ったりしていた。今はユニクロの服を着てユニクロに服を買いに行く。これでいいのだ。
「いい子に育てると犯罪者になります。」というタイトル
タイトルは、著者の死後に編集者がつけたものである。著者には他に「反省させると犯罪者になります。」などの著作があるため、編集者がある意味奇をてらって付けたタイトルであろうと思う。
著者は「いい子に育てると犯罪者になります。」とは一言も言っていない。
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