見出し画像

蜜(リメイク裏話)

ふみさんの詞に私が曲付けした「」という歌があります。
それは、ふみさんとのコラボを始めてまもなくの頃に作ったもので、ふみさんが歌われています。ただ、ふみさんの声域をちゃんと把握していないで作ったため、意図した仕上がりにはならず、機会があったらリメイクして、再度ふみさんに歌入れしてもらいたい思っていました。

先々月、ふみさんとチャットしていましたら、歌入れをもう一度して下さるというお話になりまして、渡りに船とばかり、早速リメイクにかかりました。

この記事の公開時点で、リメイクはほぼ完了していまして、この後ふみさんの歌が入って最終的な形が出来上がるのですが、ここではメロディをヴァイオリンに替えたアレンジをご紹介したいと思います。

自分で言うのもアレですが、ふみさんの詞に触発されるところが大きく、けっこう美しい曲ができあがりましたので、是非お聴きください。^^

曲名は、Honey (Violin solo) です。


さて、ここから先は歌のリメイクの裏話です。(長いです)
音楽制作の裏話にご興味のある方はどうぞお付き合いください。

まずこちらは、リメイク後のボーカル譜です。

画像2

リメイク前の原曲は、三段目の長休符の後の「といかける」から先が、この楽譜より4度高くなっていました。そのため、最下段の長休符の前の第60-61小節「とけていく みつ」が、ふみさんの声域を大きく外れていました。

楽譜にすると一目瞭然です。これは高過ぎでした。

画像2

リメイク前の楽譜 第58ー61小節

ふみさんには原曲の公開に際して、この第58-61小節だけ一オクターブ低く歌って頂きました。ですが、ここは曲のクライマックスを形作る重要な部分ですから、やむを得なかったとはいえ、痛恨の極みでした。
かいつまんで説明しますと、第58小節「かみのみ(神の実)」から第60小節「とけていく」の3小節に渡って畳みかけるような上向きの同型反復が続きますが、この場面の上行音型は神(神の実)を象徴的に表すために使ったものです。

神様は、たいてい高いところにおわしますから、近づくためには上らなきゃならないわけです。といっても簡単に上れるわけじゃない。そこを、三歩進んで二歩戻るみたいな音型反復で表しているわけです。そして上りつめた先に蜜がある。つまり、第61小節の「みつ」に至る道行きは高いところに置かないといけない理由があったのです。

ここを一オクターブ低く歌わざるを得なかったのは、曲の構成上の失敗と言えます。もちろん、一オクターブ下げることなく歌える方も少なからずいますが、ふみさんの詞への曲付けは、ふみ歌で公開したいというのが私の基本的な方針ですから、それが叶わなかったという意味で致命的な失敗作になりました。

というのが、リメイクにかかった理由です。
リメイクは、ふみさんがその箇所を歌える高さになるように全体を下げてやる、つまり移調するのが一番手っ取り早い方法です。

その場合、今度は音が低すぎて歌いにくい箇所が出てくる可能性もありますが、4度下に移調すれば、最低音C4から最高音F5の範囲に収まりまして、ふみさんが歌いやすい声域になります。

よし、それで行こう!

と思ったのですが、その前に重大な問題があることに気が付きました。

それは、リメイクの際に歌詞を間違えないようにと、原曲を久しぶりに聴いたときの話ですが、ふみさんが蜜のような甘い歌声で歌っていた出だしのところは、4度もピッチを下げたら、とろけるような雰囲気がぶち壊しになるんじゃないか、と思ったのです。

4度の違いは、とても大きいです。
ピアノでは、音色に大きな変化はありませんが、ほかの楽器や歌声はかなり変わります。雰囲気が全然違ってしまうことが多いです。

そこで、開始部分は移調せず、前と同じヘ長調にしておいて、途中から4度下げることにしました。4度下げますとハ長調です。すると、曲はヘ長調で始まってハ長調で終わることになります。これは、できるなら避けたいところです。というのは、クラシカルな曲では、特別な効果を狙う以外には通常始まりと終わりは同じ調性にするのが普通だからです。

なぜ、始まりと終わりは同じ調性にするのか。
その理由は、曲としての一貫性という言葉で説明してもいいのですが、私が思うに調性が変わったまま終わる曲では、続けて聴いたときに違和感が生じるんですね。

一度しか聴かないのであれば、違う調性で終わっても、全く気が付かないか、あるいは「ああ、別の世界に到着したのか」と思うだけで済みますが、もう一度聴く場合は、その別世界からいきなり引き戻されてしまうんですから、最初にものすごい違和感が生じるわけです。

しかしながら、その違和感を低減させる方法もあります。
曲の最後で、主和音つまりドミソの和音を使わないことで、調性感をあやふやな状態にしたまま終わらせるやり方です。

この曲はもとから、調性感が不明瞭になるような和声を配してエンディングを導いていましたので、ハ長調のまま終わらせても、最後の最後にちょいちょいと音を並べておけば、たぶん大丈夫だろうと判断しました。

エンディングの部分です。

画像3

最初の2小節は一時的にヘ長調に転調しています。3小節目の「かみのみに」の「かみの」はヘ長調の主和音ですが、「みに」でいきなりハ長調の導音Bを現出させることでハ長調の属和音を誘導しまして、さらにその主和音へ移行する完全終止を予感させるのですが、ところがどっこい、さいごの「」にはAの音も重ねまして、終止形の形を崩してあります。ここはハ長調のVIのセブンスとも、ヘ長調のIIIのセブンスとも聞こえますので、調性を曖昧にしたままに曲を終わらせる形になっていると思います。

さて、曲をヘ長調で開始して、途中から4度下げた形にすると先ほど申しました。
すると、どこから4度下げるのが良いか、というのが次の課題になります。

話を簡単にするために、最初から曲全体を4度下げて、冒頭部分がハ長調で始まるようにしておき、そして頭からどこまでを4度上げるか、と言った方が、わかりやすいですね。

全体を4度下げた場合の楽譜を示します。

Mitsu_song_第3案-1

全体を移調する場合は問題にならないのですが、曲の一部を移調する場合は、移調部分の前後で転調することになりますので、曲のつながりが不自然になる場合がほとんどです。そうした場合の対処は、間奏部分に自然な転調を感じさせるようなコード進行を挿入するのが一番簡単です。歌の部分はそのまま使えますので。

そうしますと、上の楽譜で第2段目の長休符か、第三段目の長休符のどちらかの手前まで4度上に移調することになります。この曲では、第二段目の長休符のところから曲の雰囲気が変わりますので、その手前「ただ、ながれる」の箇所まで4度上に移調することにしました。

Mitsu_song_第4案-1-1

これが第4案です。公開したヴァイオリン版は、この楽譜をヴァイオリンで演奏したものです。

これを見ますと、出だしのメロディーは、第三段目の長休符の後で4度下でもう一度出てきます。

最初は、甘い蜜を感じさせるふみさんの歌唱。それはヘ長調でした。

そして、2回目は?

そうです! 歌詞の通りです。

もう甘くない」のです。

だから、4度下げたハ長調になっている。^^

まあ、これは結果的にそうなっただけですが、何か因縁めいたものを感じるところもあります。

いずれにしても、私はこれをふみさんの歌で聴きたいです。^^





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?