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一生大切にしたいもの

先日、Qioさんから、詩の付曲を依頼されました。

「勇気の声が生まれるとき」という詩です。

読んだ刹那、閃くものがありまして、曲は二日ほどでほぼ出来上がりまして、ドラフトとしてQioさんに聴いて頂きました。
今回特筆すべきは、曲のドラフトを叩き台として、Qioさんとのメールのやり取りを通して、曲がブラッシュアップされたことです。
そしてそれは、音楽だけに留まらなかったことも挙げておきたいです。
詩までもがブラッシュアップされたのです。
それについては、この記事の後の方で詳しく書く予定ですので、ここでは簡単にご紹介しておきます。

詩のブラッシュアップというのは、こういうことです。
つまり、私が作った歌を聴かれたQioさんは、音楽的な理由で私が構成したフレーズのリフレインに合わせて詩のフレーズを一部変えたり、新たな言葉を加えることで、詩をより良いものに作り直されたのです。私が感じるところですが、その改変によって言葉のイメージがより鮮烈になることで、詩の構成からくるメッセージ性が高まったのではないかと思います。

曲のブラッシュアップは、詩の構成を変えて頂いたことで実現しました。
それによって、歌の「入り」のところでの惹きの力が強まりました。また、その効果をさらに活かすためのご提案をQioさんから頂いたことも大きかったと思います。

今回のコラボレーションは、出来上がった詩に音楽を付けるだけの一方通行のものではなく、詩と音楽の相互のフィードバックによって、完成度の高いものになったのではないかと思っています。

この曲は、前回のコラボでも歌っていただいたRoRoさんに、歌をお願いしています。
どうぞお楽しみに!


さて、ここからは、ほぼ恒例になりつつある音楽屋の御託コーナーです(笑)

今回は、詩(詞)を歌にする際に私が考えること、そして歌作りの実際について、上でご紹介した「勇気の声が生まれるとき」を例として、書いてみたいと思います。
いま、気合が入っていまして、結構長文になりそうですが、ご興味がありましたらお付き合い下さい。
また本記事のタイトルの意味も、以下をお読みいただければ分かって頂けると思います。


上の曲紹介のところで、Qioさんの詩「勇気の声が生まれるとき」を読んだ刹那、閃くものがあったと書きました。
閃いたものを、楽譜にしてご紹介したいと思います。
楽譜1です。

これは、シンコペーションのリズムに乗って動き回る下声部と、ひたすら主音を鳴らし続ける上声部という、単純ですが特徴的な音型のモチーフです。

これをまず、イントロに使うことにしました。
これはまた、詩の前半部分の歌メロの伴奏音型として使うことを考えました。
4/4拍子ですので、このモチーフの上に、8つの八分音符(八分休符も含む)のメロディーを乗せることができます。最初に設定したテンポ(105bpm)では、それより短い音符は歌うのに適さないので、八分音符を最小単位としての見積もりです。

例えば、「自然は普遍」という7音節のフレーズは、八分音符7つと息継ぎのための八分休符一つで構成できます。
また、「不完全なのは愛の色」は、8音節+5音節のフレーズ構成になっていますが、一つ目の小節で8音節、次の小節では5音節(残り3音節分は休符)といった割り振りにすると、自然な歌になります。

Qioさんの最初の案では、音節数が7+8+5で一つの段落が構成されていました。これを、上に書いたような音符の割り振りにしますと、3小節のメロディーになります。音楽は2小節単位で構成する方が安定感がありますので、最初の7音節をもう一度繰り返すことで、全体を4小節にしました。
こういった行単位のフレーズの反復は、作曲者の裁量の範囲に含まれるというのが私の考え方です。

そうして、その後はフレーズのイントネーションが不自然にならないように、メロディを構成することになります。
イントネーションは、必ずしも話し言葉のように付ける必要はないと考えています。
「海(み)」と「膿(う)」のように、別の意味の単語がある場合は考慮する必要がありますが、例えば「ねこ」なら猫以外に単語がありませんから、「こ」でも「ね」でも、それほど困らないのです。実際、九州の知り合いは「ね」と言ってますし、その方が可愛い表現じゃないかと思っています。=^_^=


楽譜2は、「自然は普遍」以下のフレーズを一部反復して先のモチーフに乗せて作ったメロディーです。大譜表上段に表示してあります。

楽譜2のメロディーは、曲を特徴付ける大きなファクターと考えまして、同じく音節数が7+8+5で構成された次の段落にも使うことにしました。
ただ、これらを並べて見ますと、歌のない間奏を交えてみましても音楽の流れとして物足りない感じがありました。要するにメロディーを印象づけるには尺が短すぎる感じなのです。
そこで、ブロック単位での反復を行うことにしました。原詩では2つのブロック構成でしたが、それを仮にA+Bと表すなら、それを二つ並べてA+B+A+Bという4つの構成にしました。この配置によって、途中でB+Aという逆の並びも形成されます。A+BをB+Aに変えるのは作曲者の裁量範囲を逸脱するものと考えますが、ブロック単位の反復で生成する場合は問題ないと考えました。実際、二つのA+Bの間に間奏が入ることで、ブロックの独立性が確保されますので、B→Aという流れは意識されない構造になっています。

さて、楽譜2のメロディーは、少し変えることで詩の他の部分にも使えます。要するに使い回しです。そう書きますと作曲者が横着しているように聞こえますが、音楽では曲の統一感を高めるための「使い回し」が大変重要なのです。
使い回すと言っても、変奏のように形を変えて使う場合が多いです。
私は、その「使い回し」を、詩の英語フレーズのところでやりたいと考えました。

英語のフレーズは、当初Qioさんから頂いた案では

something to cherish for life

となっていました。
ここは、詩のメッセージ性を象徴的に表している部分と思いましたので、ここに全く別のメロディーを持ってくることは、考えられなかったのです。

ところが、この7個の音節からなる英語のフレーズを、楽譜2のメロディに乗せようとしましたら、実に難しい仕事になりました。
少々煩雑になりますが、次にその説明を試みてみようと思います。

まず、音節を分けて書いてみます。

some-thing to che-rish for life

発音に、アクセントとイントネーションを加味して書いてみると、たぶんこんな感じです。

ム-シング トウ チェ-リシュ フォ ライ
(後ろに母音を伴わない子音と二重母音の後半の発音を半角カナで表してあります。また太字がアクセントのある音節です。)

音節が7つですから、これを8分音符で並べるとしますと、どこかに八分休符を一つ入れれば、1小節分のメロディーを構成できます。
アクセントは1,4,7番目の音節にありますが、楽譜1のシンコペーションのリズムは第一拍が弱拍ですので、そこを八分休符とすれば、次のように配置することが可能です。
休符は息継ぎに使えますから、リフレインも可能です。

ただ、歌ってみますと何か慌ただしいというか、慌てふためいているような感じです。
もとになったメロディは、楽譜2を見てもわかるように、二小節で一区切りという構成ですから、そこに英語のフレーズを入れるとしたら、2小節に渡るような譜割の方が安定感が出るのではないか。

ということで、そこで、「チェ-リシュ」の二音節を、四分音符二つにして、「フォ ライフ」を次の小節に回す案を考えました。

シンコペーションのリズムとはよく合致するのですが、これではメロディーとして尻切れトンボです。
その理由は和音構成です。
2小節目の第二拍の和音が主和音か属和音なら落ち着くのですが、そうではありません。主和音は第3拍になってから出現します。最後の音節が第3拍にかかれば、メロディーとして一応完結しそうです。
ただ、それには音節の数が足りない。
そこで音の引き延ばしを図ります。
ですが、前置詞のforを引き延ばすのは相当変ですし、lifeの二重母音をメリスマで引き延ばすのも、あまりいい形ではありません。

そこで、奥の手を使うことにしました。
フレーズの一部を反復するやり方です。
先に、行単位のフレーズの反復と段落の反復は、作曲者の裁量範囲と考えると書きましたが、フレーズの一部を反復することも、それが畳みかけるような印象を与えることを意図したものなら、裁量範囲に含まれると考えています。

日本語の歌詞の例ですが、フレーズの一部を反復した例を一つ挙げます。

先日公開したTokkoさんの詩による「猫を膝に乗せて座っているだけなのに」の歌詞に、

猫を膝に乗っけて 座っているだけなのに
広がっていく 広がっていく世界

Tokkoさんの原詩による歌「猫を膝に乗せて座っているだけなのに」より

というくだりがあります。
この部分は、原詩では「広がっていく」は反復されていません。
私が詩をメロディーに割り付ける都合で反復したものです。
この場合、畳みかける効果も狙っています。

私は詩に付曲する場合、こういった畳みかけるような効果を狙った反復であれば、事前に原作者の了解なしに作業を進めることが多いです。

さて、日本語歌詞を例に挙げて、フレーズ反復の説明をしましたが、話を戻します。

something to cherish for life

を、楽譜2のメロディに割り付けるために、フレーズの反復利用で対処することを考えた。
そこまでお話しました。

この英語フレーズは、「to+動詞原形」が名詞somethingに係っていて、for lifeが動詞cherishに副詞的に係っている構造です。
そうすると重複するとしたら、cherishの直後で切って、もう一度to 以下を反復する形が考えられます。

something to cherish,  to cherish for life

同じ名詞の重複を避ける英語表現としては、ありそうな形です。
ただこれは、専門の方のご意見をお聞きしないと、英語として適切かどうかわかりませんが、畳みかける表現ということなら、とても詩的でかつ音楽的と思いまして、Qioさんに事前のご相談なく使ってみることにしました。

楽譜5と6は、シンコペーションのリズムを活かした譜割の例です。

楽譜5は、伴奏のシンコペーションの強弱が英語のアクセントと完全に一致しますが、先頭の休符によって歌の同型反復の形が崩れています。
そこで、3つのシンコペーションで自然に流れる楽譜6の形を採用することにしました。

そして、歌が完成しまして、Qioさんに聴いて頂いたのです。

そうしたら、Qioさんから、思いもよらないお返事が・・・。

僭越ながら頂いたメールの文面をそのまま使わせて頂きます。

予想外のアプローチに感動しています!

もっとよくなるように、
歌詞を変更しようと思います。
しばらく、
時間をください。

私の勝手なフレーズ反復が、音楽を聴かれたQioさんの詩的インスピレーションを刺激したのだと思いました。

程なくして、書き改められた詩がQioさんから送られてきました。
それが、冒頭で引用したQioさんの記事にある詩なのです。

新しい詩では、私が苦し紛れで変えた英語のフレーズが使われていました。
そして、そのフレーズは以前に置かれた場所の他に、冒頭にも置かれていました。

冒頭への英詩の追加は、音楽的にも劇的な効果を生み出すはず。

直感的にそう思いました。
これはイントロの直後に置くことで、後半2回出現する同じ英語フレーズを極めて印象付ける流れになると直感したのです。
冒頭へのフレーズの移動・追加は、反復ではありません。
言い訳めいた言い方ですが、作曲者の裁量の範囲を超えますから、私は考えもしなかったのです。

また新しい詩では、これも裁量の範囲と考えて追加した行単位の反復とブロック単位の反復の部分に、新たに鮮烈な言葉が埋め込まれていました。
それによって、曲の前半通して続く同型反復のリズムとメロディーが強く印象付けられる結果となりました。
なお、こうした同型反復が一貫して続く音楽は、無窮動と呼ばれ、古今のクラシックの名曲でも使われています。(ご興味のある方はこちらをご覧ください)

そして詩の流れは、後半で大きく飛躍する展開です。
その展開に際して、私は無窮動の反復を一旦止めて、音楽も大きく飛躍するような形にしたのですが、前半の詩句の充当によってその場面展開がより鮮明になったと感じています。

さて、新しい詩を受け取った直後、Qioさんからご提案がありました。
それは、前半の日本語詩句が歌われる「入り」の部分に、アクセントとして時間的に遅らせたコーラスを入れてはどうか、ということでした。

メロディーを時間的にずらすやり方としては、まず輪唱がありますし、合いの手のようにメインボーカルと歌を重ねないのであればオブリガート(助奏)としてサブボーカルに単独で歌わせる方法が考えられます。
ただ、これに関しては楽譜2を基本的に変えない限り導入は難しいと判断しまして、代案を提案しました。

それは、まず最初のフレーズをメインボーカルの独唱で始めて、次のフレーズからサブボーカルを入れて二重唱にすることで、コーラスが遅れて入る感じを演出するという案でした。
作ってみましたら、遅れて入るサブボーカルが早く歌いたくてうずうずしているような面白い効果も出てきましたし、Qioさんの賛同も得られたということで採用することにしました。
サブボーカルは、最後のところでは、待ちきれずに一緒に歌い出してしまいましたが。^^

たいへん長くなりましたが、最後にもう一つだけ。

Something to cherish,  to cherish for life.

これをDeepL翻訳にかけましたら、次のように翻訳されました。

大切にしたいもの、一生大切にしたいもの

今回のコラボレーションは、まさに一生大切にしたいもの。
そういう貴重な経験になったと実感しています。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。


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