解剖実習の意義と自己成長

(この物語は、事実をもとにしたフィクションです。)

 朝のLINEに参加希望者募集の通知が入る。
締め切りは月末。実施は一月後。
この連絡を待ってた と言っても過言ではなかった。

 規定人数が埋まるのではないかと 焦って参加登録を済ませて
さて、このチャンスをどのように生かそうかと思いをめぐらせる。
 毎日の業務から様々な悩みが思い浮かぶ。
その中から 外反母趾にフォーカスする。
これは僕の施術理念にも深く関係する疾患だ。

 外反母趾は病気ではない、靴だけが原因でもない。
施術方法は特定されていないが戻りにくい。
初期には痛みを感じないのも 
対応が遅れてしまう要因だ。

 また進行してしまうとさらに難しく、
魚の目やベンチといった症状は痛みとなり
そのため行動範囲を狭くしていく。
将来、車椅子、寝たきり、認知症へとつながり
クオリティー・オブ・ライフを低下させる入り口となっている。

 外反母趾は、生活習慣を変える必要がある。
現在の施術の確認し、さらに効果を高めるためにも仮説を立てて
観察をする事は有意義に思える。

 当日は、緊張と不安と雨のために足取りが重く感じた。 ホルムアルデヒドに対応したマスクも購入してみる。
 大学病院の駐車場に車を止め 準備中でバタバタしている受付さんに
挨拶もせず通り抜ける。
待ち合わせ場所は 別棟なので傘を持って一旦外へ。
集合時間も気になるが、
途中購入したあんこの入ったデニッシュに手を伸ばす。
なんだか胃が不快で、パンのようなものを食べたかった。

はじめと 同じように深く深く黙祷と感謝をさせていただき終了した。
 3時間の実習で、集中力を維持できたのは、 一緒に参加した若い学生さんの真面目な態度だとも思う。曰く
「病気を見るな人を診ろデスよ」なるほど
「 教えてもらうことも多いなぁ」と関心しなながら 
 とはいえ国家試験前なので混乱させないために、
なるべく僕の個人的知見はしゃべらないように注意する。
大体しゃべりすぎて、後悔してしまう。
賢い人はしゃべらない。


要旨:行動によって人は何歳からでも成長できる
目次:
1参加の目的
2仮説と実証
3まとめ

1参加の目的:
 今回は、骨盤から外反母趾において、ご献体から解剖学的特徴が見られるのか仮説を立てて 外反母趾とは何か を 検証する。
 ・仮説 外反母趾は骨盤の機能不全からくるアンバランスによって歩行に方法に問題があると仮説する。(踵接地による問題)
 ・腰椎、股関節、仙腸関節、膝関節、足関節、大腿四頭筋、大腿筋膜張筋、下腿三頭筋、大腰筋、 足底筋膜などに 特徴的な共通点が ご献体に見られるか確認する。
 結果:残念ながら外反母趾を有するご献体が少なかったこと、また
部分的な切除なども見られ検証ではなく参考程度となった。


2仮説と実証:
・X脚を疑われる膝の変形にも外反母趾が見られた。
・膝軟骨の摩耗は見られたが重症には見えなかった。
・半月板はほぼ無いか、左右差で少しだけ残っていた。
・下腿三頭筋に明確な異常はなかった。
・足底筋膜、母趾周囲の張力に明確な異常はなかった。
・第一中足骨周囲は観察できなかった。
・股関節は異常が見られなかった。
・踵骨周囲の脂肪体に個体差があった
 以上の結果から外反母趾には 骨や筋肉筋に負担を
かけにくいために 痛みを感じにくいことが予測される。
 このことは 足部アライメントの崩れが関係している仮説を
支持する可能がある。(足部はアンバランスな歩行の影響を受ける)
 特に外反母趾のご献体に 脂肪体がドーナツ状になり
踵骨(接地部分)露出させた例を確認した。
 このことは「長年にわたる異常な不良歩行」が原因とする仮説を支持する可能性が高いと言えるかもしれない。(アンバランス、筋力低下などから 踵に頼った歩行)
 また同じく 膝軟骨の変形や骨棘(疑い)、半月板の摩耗、十字靭帯の摩耗、それらに比較して綺麗な内臓などから生前の生活習慣等を推測することができた。
3まとめ:
 検証に関しては上記した通り、証拠と呼べるほどではない。
 個体差もあるであろう。とは言え 変形してしまった関節部にどのような負荷が影響したのかと可動させて、問題を広く全身的に
推測する意味は大きいと感じた。

 僕は普段 臨床で疑問に思うことは多々あり、
仮説を考えて 思考することも多いです。
今回は 一つの疾患にフォーカスをしてみました。

 もちろん 確証には至らなかったし、疑問が解決したわけでもありません。が 、仮説を立てて拝見し、触れた体感から得たものは少なくありません。
いくつになっても行動によって人は成長はできるのだと深く感じました。

 僕は今回、 ご献体がどのように生涯を送ったのかと
想像することができました。涙が落ちそうでした。
 患部だけでは見えなかった生活習慣への想像に 至ったことも
僕の内面の変化として興味深かった。

(この物語は、事実を元にしたフィクションです)

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