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第2章_#04_パリなのに中華(1軒目)

さて、1994年パリ。ぎゅうぎゅうの地下鉄をオデオン駅で下車して、旅の先輩・B子さんの定宿『GRAND HOTEL DES BALCONS』にチェックイン。

GRANDって言うから巨大ホテルを想像しそうだが、二つ星の簡素なホテルである。生まれて初めてのパリのホテルの第一印象は「古くて地味」(笑)。
まぁ、幾度か訪れるうちにそれが味なんだと気づき、慣れてくると今度は日本のホテルの真っ白でツルンと無機質な感じが落ち着かなくなるから不思議。
ホテルについてはこの先でもう一回お話しするので、今日のところはここまで。

荷物をほどいて一休みして、何か軽く食べましょうと外へ出た。
で、これまたB子さんの行きつけ、ホテル近くの中華料理屋に行く。

え?パリまで来て、中華?

って今、思いませんでした?
いいんですよ、私だって思ったから。
そもそもパリに中華屋があることが驚き。
(いやいや本当は中華料理店がない都市は地球上にひとつもないと言っても過言ではない。)

でも、初日に中華というのは、あんがい理にかなっている。まぁ聞いて。

到着日の夕食は「なるべく軽くて温かいもの」を摂った方がよいのだ。
なぜなら、興奮状態にあるから自覚できないだけで、到着したその日は身体中が疲労困憊しているから。

飛行機に搭乗する5時間前に起きたとしよう。フライトは約12時間だから、パリ着の時点で17時間経過。日本時間10:30離陸だと到着は大体現地時間で16:00頃。そこからパリへ移動し、19:00くらいに夕食として……この時点で既に20時間経過していることになる。機内での睡眠は充分ではないし、経験上、海外に旅立つとなれば出発前は仕事だなんだとやたらと忙しいから、そもそもが寝不足状態。時差もけっこう身体にダメージを与えている。
しかも、機内ではほとんど身体が運動してない状態で2度の食事(一応フルコース…笑)を摂っているので、胃も腸もかなりくたびれているはず。ここで、さあフランス料理だ!ワインだ!となると、もう身体はビックリしてしまう。(現地の料理は、単品でも食べきれないくらい盛りが多い。)

日本のノリでワインをガブガブ飲んで、食事が終わらぬうちにレストランで倒れたり寝落ちしたりする日本人の話を昔よく耳にした。倒れないまでも体調を崩す可能性大なので最初から飛ばしすぎないように要注意。あと、スーパーのお惣菜などで簡単に済ませるのは、量の面ではOKだが、胃腸が冷えたままだと不調を引きずるような気がするので一度温かいものをお腹に入れてリセットした方が絶対にいいと私は思う。

量がほどほどで、温かくてリーズナブルで街のそこら中にあるものとなると、中華料理しか選択肢はない、というわけなのである。

フランスと私-02_04-A

さて、1994年に話を戻す。

あれは何という店だったんだろう。
ホテルのそばの中華料理屋という記憶しかない。
たしか赤いファサードか赤い看板だったような記憶もあるが、中華屋は大体そんなものである。笑
緊張しながら中に入ると、意外にも地元っぽい(フランス人っぽい)人びとが結構いる。なぜか皆、赤ワインを飲み、ナイフとフォークを使って中華料理を食べている光景が奇妙だった。

さて、2人掛けのテーブルに着いて、メニューを覗き込む。
当たり前だがフランス語と中国語。
「B子さんがいつも食べているものを私も...。」とまたも丸投げ。
「じゃあ、汁麺でいいわね。ワインを1杯ずつ飲みましょうか。」

周囲に響くフランス人のおしゃべりをBGMにワインをちびちび飲む。しかし学習教材と違って、ノーマルスピードの会話はまったく聞き取れない。パリに来たんだなぁという実感が増してくる。日本語で会話をしてて浮かないかしら...と、なんとなく無口になってしまう自分に気づく。

そうこうしているうちに、湯気の立った中華のどんぶりが運ばれてきた。

ん?…これは?…何…?

てっきり普通のラーメンが出てくるものだと思っていたが、ちょっと様子が違う。スープはコンソメみたいに澄んでいて、麺はやや平べったくてツルンとした感じ。牛のお肉が載っかっていて、生っぽいモヤシとミントの香りの葉っぱがドンと盛ってある。そう、それはラーメンではなく、「フォー」だった。

今でこそ、ベトナム料理もメジャーな外国料理だが、当時は東京でもやっとタイ料理がポピュラーになった頃。当然、フォーなんて名前も知らなかった。
この謎の汁麺はラーメンじゃない、何かの間違いじゃ…と尋ねようと顔を上げたら、B子さんはすでに当たり前のような顔で、スルスルと麺を啜っていた。
とりあえず、食べてみよう。

そもそも中華料理屋なのにフォーが供されるのはどういうことか。
実は、パリのそのへんの中華は日本人の私たちが中華と聞いて思い浮かべるそれと少し感じが違って、中華+ベトナム+タイなどがミックスされた中華なのである。もちろん、専門店や13区の中華街あたりに行くと本格中国料理が食べられるが、大多数がこの複合型エスニック中華(無理矢理な言い回しだが)なのである。

で、初フォーのお味はどうだったかというと、正直、美味いも不味いも分からなかった。
ただ、優しいお味は心地よくしみわたり、身体も温まり、疲れが和らいだ。
ちなみに、今ではベトナム料理は大好物で、時おりむしょうにフォーやバインミーを食べたくなる。コロナが明けたら、また食べに行きたい。

さあ、お腹も落ち着いたので、ホテルに帰ろう。
お風呂に入って、ゆっくり眠ろう。Bonne nuit et à bientôt!

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