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第1章_#08_きっかけはいつも何気ない

さて、無期延期となったフランスへ絵の勉強をしに行く夢。
その後、結婚したり、会社の仕事も副業のイラストも忙しくなったりで、しばらく忘れていたが、ひと段落つくと思い出してしまう。ため息をつきながら、あ〜、フランス、行きたかったな~とウジウジ思い悩む日々。

日仏学院の早朝初級クラスはどうにか続いてはいたが、動詞の活用や時制はややこしくなるし、冠詞は今ひとつピンとこないし、覚える単語も増えて、なんとなく追いついてない感じ。
もうフランス語もやめちゃおうかな……フランスに行く当てもないのにやっても意味ないよなぁ……そんな事をボンヤリ考えていたある日のこと。

授業後に冬休みの計画についてクラスメートとおしゃべりをしていたら、フランス人のA先生がおしゃべりの輪に加わる。
「僕は今年はフランスに帰省するんだ!」と嬉しそう。
先生の故郷はフランス中部・古城エリアのロワール地方にあるオルレアンという町で、あのジャンヌ・ダルクの生誕の地として有名なところ。
いいわね~、行ってみたいわ~、と盛り上がります。

「遊びに来たら車であちこち案内してあげるよ」と先生。
すると私の隣りに座っていたB子さんが「じゃあ私、行こうかしら!」。
B子さんは某日系航空会社の営業職、当時の流行りの言い方をすればバリバリのキャリアウーマンで、社員割引で安く乗れるから年に数回海外を旅しているような人。もうパリなんか何回行ったか分かんないわ~という人。

「おいでおいで!B子の他に来たい人はいないの?」A先生も乗り気。
なのに、そりゃ行きたいけどね、休みがそんなに長くは取れないし、クリスマスの頃って高いんでしょう?……と、みな尻込みしている。
私など、自分にはまったく関係のない話題と、完全に傍観者と化していた。

「ねぇ、一緒にどう?」

そこにB子さんの声。え?私に訊いてる?

「あ、楽しそうですけど、私、海外行ったことないですし、ちょっと…。」

「なに言ってるの?大丈夫よ。フランスなんて難しいことないわよ。先生もああ言って下さってるし。現地の人に案内してもらえるなんてすごくラッキーよ。」ラッキーなのかどうなのか、未経験ゆえにちっともピンとこない。

が、その時、ようやく、私は自分の重大な過ちに気づく。

「フランスに行く」=「留学」「長期滞在」「永住」
だと思い込んでいたのだ。

だから留学の夢が無期延期になった時点でフランスに行く事はないだろうと決めてかかった。でもそれっておかしい。「旅行」という最もシンプルな選択肢があるだろう。普通は誰しも旅行を考えるもんだ。そんな事にも気づいていなかった自分の頭の作りが恐ろしい。
そうだよ、旅行でいいじゃない!そう思った次の瞬間、

「...そうですね…行ってみようか...なぁ...。」

B子さんにそう伝えていた。

「そう!じゃ、決まりね!」

そこでなぜか拍手喝采。「初海外おめでとう!」「お土産話が楽しみ!」「いいなぁ」…ムズムズと照れ臭かったが、同時にドキドキとワクワクとオロオロが身体中に充満していくような、初めて味わう種類の幸福感。

きっかけは何気なくやってくるものだ。何気なさすぎて、機会はまたあるだろうとつい見逃しそうになるが、たいていの場合、2度目はない。

今回の旅も、旅慣れた人に誘われ、着いた先には案内してくれる人がいる。そして盛り上げてくれる友人たち。これ以上ない恵まれたきっかけだ。
さすがにこれを逃したら一生チャンスはないだろうという予感みたいなものが私の背中を押した。事実、これがなかったら、私は未だにフランスの地に足を踏み入れてはいないだろうし、今ほどフランスを好きになってはいなかっただろう。

その日の会社帰りに本屋に寄った。ガイドブックを買うためだ。
種類の多さに辟易したが、一番情報量が多そうな「地球の歩き方」を選んだ。賛否両論あるが、私と「地球の歩き方」の相性は良いようで、その後、ヘビーユーザーとなり、旅の予定があってもなくても最新版が出れば買い替えるようになってしまった。

もう一冊は日仏学院のリヴ・ゴーシュで買った「ミシュラン・グリーンガイド」。フランス語の勉強にもなるからとフランス語版を買ったはいいが、能力が追いつかぬため、辞書とガイドブックを交互に睨みながらはストレスこの上なく、こっちは旅に出る前にギブアップして、それっきりご縁はない。

さぁ、いよいよ初めての旅に出る!
この続きは第二章「最初のフランス」で!
Merci, à la prochaine!


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