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従業員が発熱。休ませた場合どうなる?

1.はじめに

終わりの見えないコロナ禍にあって、事業主の皆さんは、従業員の健康管理、もっぱら従業員が新型コロナウイルスに感染するリスクをコントロール(労働契約法5条)しながら業績向上施策を打ち出すという難しい舵取りをしいられていることと思います。

今回は、労務マネジメントの観点から、休業手当(事業主が支払う側)と雇用調整助成金(事業主が補填される側)、そして、新型コロナウイルスに従業員が感染した場合の事業主の関わり方について整理します。

労働契約法第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をするものとする。


2.休業手当

通勤途中やオフィスで従業員が新型コロナウイルスに感染しないように、または従業員が他者に感染させないように働かせない場合には、事業主の指示により従業員を休ませていることになりますので、労働基準法 26 条に基づき、平均賃金の 100 分の 60 以上の「休業手当」を支払う義務が生じます。

《 休業手当に関するnoteの記事はこちら 》
休業手当の計算方法を知っていますか?

従業員らの合意のないまま、一律に有給休暇を取得させるような運用は違法になりますので、事業主は注意が必要です。

労働基準法26条
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。


3.雇用調整助成金

とはいえ、事業主は、売上が減少していても業務にあたっていない従業員に給与を支払うことが強制される結果、事業の財務状況は厳しくなっていきます。そこで、雇用を守る事業主には、行政に対して経済的給付を求めることができる「雇用調整助成金」という制度が用意されています。
⇒ 厚生労働省:雇用調整助成金(コロナ特例)のページ

《 雇用調整助成金に関するnoteの記事はこちら 》
▶  年内いっぱい!雇用調整助成金を活用しよう

なお、休業手当を支払わず、雇用調整助成金を申請しない事業主に雇用されている従業員を救済する観点から、直接従業員が休業手当相当額を受給できる「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」という制度が2020年7月13日に新しく創設されました。
⇒ 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金のページ


4.従業員が新型コロナウイルス感染症に感染した場合の事業主の対応

2020年1月28日に、新型コロナウイルス感染症を感染症法6条8項の「指定感染症」と定める政令が公布されましたので、感染者には都道府県知事による就業制限が課されることになります。

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出典:厚生労働省 新型コロナウイルスに関連した感染症法の概要 資料 
資料1 新型コロナウイルス感染症の感染症法の運用の見直しについて


具体的には、感染症の患者と無症状病原体保有者(PCR検査で陽性反応が出ているが無症状という患者)は、都道府県知事から通知を受けた場合に、病原体を保有しなくなるまでの期間、業務に従事することが禁止されます(感染症法18条2項)。

要するに、感染した従業員は、日本国内の住民として感染症法に基づき公的機関から就業を直接禁じられるのであり、事業主は従業員の感染を知ったからといって労働安全衛生法に基づいて就業を禁止するといった具体的措置を講じる立場にはありません
結果として、事業主は賃金を支払うことも、休業手当を支払う必要もありません

逆に、無症状で働きうる従業員側から就業を希望する申し出があったとしても、「伝染予防措置を講じれば就業させてもよい」とする労働安全衛生規則61条1項但書のような規定が感染症法上には存在しないことから、事業主としては従業員に就業を命じることはできません

無症状であっても就業を禁じられたため賃金を得られない従業員は、申請を行い、健康保険組合から療養のため労務に服することができなかったことを理由に「傷病手当金」を受領することで救済されることになります。
⇒ 全国健康保険協会(協会けんぽ):傷病手当金のページ

感染症法6条8項
この法律において「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。
感染症法18条2項
前項に規定する患者及び無症状病原体保有者は、当該者又はその保護者が同項の規定による通知を受けた場合には、感染症を公衆にまん延させるおそれがある業務として感染症ごとに厚生労働省令で定める業務に、そのおそれがなくなるまでの期間として感染症ごとに厚生労働省令で定める期間従事してはならない。
労働安全衛生規則61条1項本文と但書
事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない。ただし、第一号に掲げる者について伝染予防の措置をした場合は、この限りではない。


5.最後に

2020年1月28日の政令によって、新型コロナウイルス感染症は鳥インフルエンザやSARSと同レベルの「2類相当」と位置づけられました。この政令の有効期限が2021年2月6日であるため、2類相当のままでいいのか、5類が相当なのか、運用の見直しが検討されています。たとえば、指定感染症としての措置・運用の在り方に関するWGの議論について

感染者等への就業制限は人権制約を伴うこと、季節性インフルエンザ流行期における医療機関や保健所のキャパシティや負担の観点から、2類相当は過剰という指摘があります。

もっとも、2類相当が解除されると、都道府県に義務付けられている入院措置や、入院施設と宿泊療養施設の確保が免除され、行政検査や入院措置の公費負担の根拠がなくなります。

それは、PCR検査や入院の費用が個人負担になることを意味し、感染者や濃厚接触者への公費負担での措置や検査件数の把握が困難になるおそれがあります。

新型コロナウイルス感染症運用見直し検討_000675228_15

出典:厚生労働省 新型コロナウイルスに関連した感染症法の概要 資料 
資料1 新型コロナウイルス感染症の感染症法の運用の見直しについて


誰のために2類相当外しがなされるのか、感染予防対策が実効性をもつように、事業主や従業員の皆さんは検討内容について主権者として注視していく必要があるでしょう。

(本記事は2020年10月30日時点での法令関係に基づきます)

行政書士法人 全国理美容コンサルティング
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