医学部不正入試の原因は「根深い女性差別」ではなく、「新しく作られたジェンダーロール」である
2018年に医学部における不正入試問題が発覚した。女子や浪人生が不利になるような点数の操作があったというものだ。(2018年における医学部不正入試問題 - Wikipedia)
この問題が再び話題になっている。聖マリアンナ医科大学において点数の操作があったという調査結果が第三者委員会によって出されたが、同大学がそれを認めていないのである。(医学部入試「差別あった」 聖マリアンナ医大の第三者委:朝日新聞デジタル)
このような事件が起こったことは非常に残念である。だが、これらの大学を女性差別主義者だと非難すれば済む話なのか。どうやらそうではない。というのも、この事件の原因を「医療業界に残る根深い女性差別」なるものに帰することは誤りであるようなのだ。
このような不正は、決して、昔から連綿と続く「根深い女性差別」の表われではない。なぜなら、こうした不正が行われはじめたのは極々最近だというのだ。聖マリアンナ医科大学の内部調査では、女性を減点するような操作は2011年に始まったという(東京医大・入試女子差別問題の陰にちらつく「ゆるふわ女医」とは (3/4))。
女性医師の筒井冨美氏は指摘する。
女性減点入試に対する「意識高い系」有識者の意見は、軒並み「女性を排除するのではなく、女性が長く働きやすい体制を整えるべき」といった内容になっている。実際、ここ10年で、医療界は「時短勤務」「当直免除」など、女性医師が長く働けるような制度を整えてきた。
(東京医大・入試女子差別問題の陰にちらつく「ゆるふわ女医」とは (3/4))
この社会は口先ばかりで「ジェンダー差別の解消」を目指し、医師の数の男女差を埋めようとしてきた。しかしそれは、「女性を形の上で活躍させ、厳しい仕事は男性が負担する」という、新しいジェンダーロールを男性に課すことで行われてきたのだ。
この新しいジェンダーロールは、「男が女を養う」「男が女を支える」という、古いジェンダーロールを強化したものだ。土木作業員、兵士、警察官、消防士のような危険の伴う仕事は、今なおほとんど男性がやらされている。そのジェンダー格差は埋まる兆しを見せない。
このようなジェンダーロールにいつまでも医療業界が耐えつづけられるわけがない。どうしてもそれを続けろというならば、その支えられる女性を減らす――入試で女性を冷遇する――しかなくなってしまう。
筒井氏はさらにこうも指摘する。
18年、東京医大の女性減点入試に関係して、あるメディアが女性医大受験生にインタビューを行った。
「どういう医師になりたいか」を訊(き)くと「女性医師が院内保育やパートなどの制度を活用していると知り、自分もそう働きたい」と、2浪中という予備校生が回答していた。医大合格すらしていない段階なのに「将来はパートで働く」と即答しており、「当直・手術・救急・僻地(へきち)勤務」というような用語は彼女の職業観にはなさそうだった。
「外科医になって留学したい」「故郷で開業して親孝行したい」「医学研究でノーベル賞を目指したい」……、私が受験生だった昭和末期には、「どういう医師になりたい?」と訊くと男女を問わずこのような夢を語る回答が多かったように思う。
(東京医大・入試女子差別問題の陰にちらつく「ゆるふわ女医」とは (4/4))
医師を目指す女性たちの意識が、「自立した一人の医師」からいつの間にやら「男性医師におんぶにだっこ」へと変わってしまった。昭和末期から現在にかけて、日本の「男女平等」はこんなに落ちぶれてしまったのだ。我々は今、そのツケを払わされている。医学部における不正入試問題がそれである。
我々がなすべきことは、「女性を形の上で活躍させ、厳しい仕事は男性が負担する」という新しいジェンダーロールや、その根底となっている「男が女を養う」「男が女を支える」という古いジェンダーロールを取り払うことだ。性別にかかわらず同じ仕事を担う社会であれば、医学部がわざわざやりたくもない不正に手を染める必要はなかったはずなのだ。
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