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うつ白 そんな自分も好きになる

言葉には、その一面しか伝わらない箇所がある。

自分が本当に伝えたいニュアンスを心の奥から引っ張り出そうとしても、それを言葉だけで伝えるのはいつも困難だ。

その言葉に対して持つ印象が人によって違うから。

うつ病は、当事者以外には理解され難い病。なぜなら風邪や怪我ほど見た目や分かり易い症状があるわけではないし、誰にでも明確な判断基準があるわけでもない。ともすれば「心の弱さ」という誤解を持っている人も少なくないだろう。

サッカーにさほど詳しくない自分は、著者である森崎兄弟のことをよく知っていたわけではない。同世代であるからして、何となく名前は聞いたことのある程度で、双子で、共にうつ病を患っていたことなど知る由もなかった。

自分がこの本を手に取ったきっかけは、スポーツ選手がうつ病になるということが少し意外に思えたから。

この本のはじめに、「"アスリートは日本ではまだまだ強靭な精神力を備えていると思われがちだが、僕らもみんなと何ひとつ変わらない"」とある。考えてみれば然るべき。アスリートだって人間。ましてや一般の自分たちよりも苦境や緊張に立たされる場面は圧倒的に多いはずだ。

アスリートと言えば、高校野球の強豪校のように上下関係が厳しく、苦しい練習を乗り越えて華々しい舞台に立ち、その代償にお金を持って美人な妻を連れて、悠々自適なイメージなんかを、テレビやマスコミから与えられていたけど、そんな場面ばかりの筈はない。

同じように生活があり、同じように苦しみを抱え、同じように泣いたりもする、同じ人間。

だから興味を持った。一般的に「苦しい」と口にしてはいけない風潮のあるアスリートが、うつ病の体験を綴っていることに。

この本の最後に「心のうちをさらけ出す勇気も必要だ」とある。

「がんばらなくていい」「自分のことを好きになる」。よく聞く言葉だが、苦しんでいる渦中にいる人には、言葉の意味までも中々に届きにくい。

けれど、さまざまな受け取られ方や摩擦なども恐れずに、森崎兄弟は「さらけ出して」いる。

うつ病は当事者にしか苦しみは分かり難い。それならば、その当事者である自分たちだからこそ、同じ苦しみを持つ人たちに何かできるのではないか。

そして告白した病闘の日々。主治医やチームや何より家族など、周りの支え無くしては乗り越えられなかったものだと、強く感じさせる。

これを読むと「精神的な弱さ」などあるはずもない。「その場から逃げずに、より戦おうと抗う」人ほどこの苦しみが訪れ易いのかもしれない。

決して病気を美化しようとしている訳ではない。病気の数だけ症状やきっかけがあると言っても過言ではないと思う。

ただ病気に対しての誤解や印象が、この本を読む前と読んだ後では明らかに変わっている。

もし身の回りに同じような苦しみを持つ人がいたり、当事者であったり、そうでなくても少しでも興味を持つ人がいるのなら、ぜひ手に取って欲しい一冊。


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