今回は微積物理についてお話したいと思います。はじめに僕は東進河合塾の苑田先生を筆頭にする一般的な「微積物理」と言われるものを予備校で今現在まで習ってきませんでした。もちろんそれは経済的な理由であったり、機会が無かったりと様々な要因はあります。僕は地方出身ですので東進の校舎は地元にありましたが、大手予備校は県内にありませんでした。予備校がないからと言って東大に合格できないかと言われたら本人の努力次第で何とでもなると思いますが、より良い環境でより良い指導を受けることで合格に近づく可能性が高まるということは間違いないと思います。そういった予備校で習う微積物理について学びたい人は僕の記事でなく実際にそういった予備校に通って授業を受けていた人に話を聞いてみて下さい。

微積物理という言葉がそもそもできたのはなぜでしょうか?以前僕のtwitterで少し話しましたが、原因の一つには高校数学の履修の遅さがあります。そもそも数学は科学を理解するための言葉だと言われるように、物理を理解するためにはベクトルや微積といった概念が必要になります。しかし通常の高校数学の進度ですと微積やベクトルを学ぶのは高校2年生以降です。かたや力学の一番初めの単元である等速直線運動や斜方投射を学ぶ際には微積が必要です。その結果高校生たちは等加速度運動の3つの公式といったその過程は詳しく説明されずに結果のみが教えられます。カリキュラム上仕方のないことですが、物理の初学者が苦手となる大きな原因になっています。未修の数学の範囲を極力使わないように説明しようとした結果が高校物理の教科書の内容です。

結論から言いますと物理の理解に微積は必要だと思います。正確に述べるのであるなら難関大以上を目指す人はやっておくべきです。それこそセンターレベルでしか物理を使わない人は無理に習得しようとすると多分混乱します。もちろん何事も真剣に取り組むべきではありますが、他の科目との兼ね合いも考えて自分がやるべきかどうかは各自で判断して下さい。

それでは本題に入ります。独学で微積物理を理解するためにはどよのように勉強すればよいのか?僕の提唱する勉強法は初めはざっくりと勉強して一通り理解した後、より正確な理解を微積を利用して深めていくというものです。最初から本質的な微積物理を理解できる人はもちろんそうするに越したことはないです。しかし0からスタートしていきなり微積物理を理解できる人はそうそういないと思います。背伸びしていきなり難しいことをやるのではなく謙虚に行くのが現実的だと思います。

まずは物理の大筋の理解です。1つの目安はセンター試験の問題で9割を余裕でとれるレベルでしょうか?初学者向けの参考書で議論になるものは物理のエッセンスです。僕は現役の頃、この物理のエッセンスと通称黄色本と言われるセンター物理の本で学びました。僕は大雑把な理解をするのにこの参考書は役立ったと思います。書かれている内容が本質とは思えませんが、初学者の勉強には役立つ内容だと思います。他にもセミナーや宇宙一分かりやすい等初学者向けの参考書はたくさんありますのでまずそこまでの段階は各自仕上げてください。

そして理解を深めていく段階です。この段階に移るにあったってクリアしておくことは2つ。1つ目は先ほど書いた物理の大筋の理解。もう1つは数3微積まで終わらせていることです。新課程からベクトルが数Cに移行するそうなので新課程で学ぶ人は数Cベクトルまでです。微積の概念、ベクトルの概念をしっかり理解していないと微積物理の習得は困難です。

独学の微積物理の参考書として有名なのは
駿台の物理入門 
河合の理論物理の道標 
の2つです。どちらでも自分にあった方を使えば問題ないと思います。僕は道標を使ってましたが、それは1浪の時に新しく道標が改訂され出版されたため、見てみたかったというしょうもない理由です。本屋で手に取ってみて自分で見比べてみて下さい。

微積物理の難しさの1つは概念が基本的に抽象的なことです。公式が積分の形やベクトルの形で書かれていてイメージが掴みにくい。ここを乗り越えることが第一関門です。物理の科目の性質上、抽象的な説明は回避できません。そこで公式を説明の形と数式の両方で理解する勉強法を提案します。例えば力学における 万有引力の位置エネルギーについてです。公式を習った際にエネルギーなのにマイナスがついていて変なのと思った人も多いはずです。しかし万有引力の位置エネルギーは距離rにある物体を無限遠まで移動させるのに必要な万有引力のする仕事である(説明の形) そしてそれを積分の形で表すとこう表せる(数式の形)この言葉と数式の隙間を埋めて理解していく。数式の表す意味をしっかりと自分で他人に説明できるレベルまで理解することが大切だと思います。今回は万有引力の位置エネルギーを例に出しましたが、同じことが重力と位置エネルギーの説明やバネの弾性力と弾性エネルギーなども同じ理屈で説明できます。力からエネルギーの流れ エネルギーを考えるには基準を定めることが大切であり力を基準軸に沿って積分するとエネルギーが得られる。このようにして物理の理解を深めていきましょう。結局これも同じことじゃん といった気づきを自分で学習する際に大切にして下さい。体系的に教えてくれる人がいなければ自分で気づくしかありません。

次は実践です。物理の問題を解いていくなかで僕は微積の式を必要以上に使うことに対して制限時間以内に高得点をとる観点から見ると僕はあまり賛成できません。もちろん微積分を使うことで正しく理解できるすることは大切なのですが、テストになると話は別です。どんなにその人が微積物理の深い理解があっても制限時間内に正しい答えを得られないと合格できません。微分方程式が解けないと答えが求まらない物理の問題は僕の知る限り前期試験の問題はありません。たいていの問題が微分方程式を解かなくてもエネルギー保存則等を使うことで解くことができるはずです。あくまで微積は物理を理解するために使うものであって入試物理の問題を解くときには必要ない これが僕の意見です。微積を使わずに解くためにこのタイプの問題、この状況ではこの解法が使えるなといった状況判断を素早く正確にできる訓練をしましょう。重要問題集レベルができるようになれば標準問題精講、難系といった問題集で演習を積んでいきましょう。またこの状況でこの解法が使えるといったことに焦点を当てている参考書として漆原晃の物理解法研究があります。少しマイナーですが解法を学ぶ参考書として役立ちます。

ここ3年の東大物理は問題量がかなり増加しています。分かりやすい例を出します。2018年の第1問と1999年の第1問を比べて見てください。2018年の問題はネットで簡単に見れますが、1999年の問題は見つけづらいと思います。赤本25ケ年や鉄緑の過去問の推奨セット、道標の実践編の最後の問題などにも載ってる問題です。お椀の中を小球が動く問題です。有名なので物理をある程度勉強した人なら見たことがあると思います。1999年の問題は最初は台を固定した状況を考え、後半は固定を外し誘導形式で最終的に単振動の周期を出すという問題でした。しかし、2018年の問題はいきなり台の固定が無い状況からスタートし、誘導も少なく前半の途中に同じ単振動の周期を求めさせ、さらに後半に別の状況の問題が続きます。物理をまだ履修していない人はよく分からないと感じると思いますが、簡潔に言ってしまえば制限時間は変わらないのに誘導が減り問題量が倍になった という感じです。

特に今年の東大の問題は微積履修者が有利と言われていますが、解くのに微積が必要な問題はありませんでした。しかし、典型的な物理の問題集に載っているような問題形式ではなく、本当に物理的現象が分かっているのかを試すためのややイレギュラーな問題が増えている印象を受けます。そうなった時に物理を微積を用いて深く理解している人はややイレギュラーな問題もその現象が見えているので解けます。しかし、問題集だけを繰り返し解いてパターンとして勉強してきた人は見事に跳ね返されてしまいます。物理をきちんと学んで欲しいという東大からのメッセージではないでしょうか?

もちろん東進などで苑田先生の授業を受講すれば分かるようになる訳ではありません。彼らはその難解な授業を一生懸命理解しついていこうと努力した結果、入試物理が解けるようになっているだけです。どんなに素晴らしい授業を受けても、自分の頭で考えて物理を理解しようとする過程無しでは物理はきちんと理解できないと思います。独学ですとよりハードルが上がりますが、自分で必死に考えて正しく物理を理解できるように頑張って下さい。

2020年3月10日 片山湧斗

追記
現在私は医学部予備校レユシールという予備校をプロ講師と共同経営しており、東大理三志望の受験生を中心に医学部受験生を指導しています。実績のあるプロ講師と高い学力を誇る東大理三生講師による完全個別指導により医学部合格まで徹底的にサポートする予備校となっております。また医学部予備校という名称ではありますが、私自身の経験を活かし、理科三類以外の東大受験生の方も多数指導しております。特に独学での勉強が困難な東大現代文の添削指導は多くの東大受験生の方に受講していただいております。興味をもっていただいた方は以下のリンクから当予備校のホームページをご参照ください。

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