【ベクション】人は360°の周辺視野で移動を感じている!?

今回ご紹介するのは、刺激の提示範囲と、ベクションの感じ方の関係性を調べた論文です。

この論文の要点としては、
人は、見えているとされる周辺視野よりも広い範囲の視野で、刺激を感じ取っている可能性がある
ということです。では順に説明していきます。

これまでの先行研究として、刺激の提示範囲が広がると、ベクションの感じ方が強まる可能性が示唆されてきました(感じ方は変わらないという研究も存在します…)、ただしそれはあくまで平面のディスプレイに提示することを前提としたものであり、人間の視野角とされる約200°までを対象とした実験でした。
しかし、近年のVRの発展に伴い、コンテンツを提示する視覚的な範囲はより広くなってきています。そして、VR上での人間の視野角外の範囲が、人間の体験にどれほど影響を与えているのかというものを知ることができるのがこの論文です。

実験は大きなドーム状の部屋で行われました。そこで、360°、180°、120°、60°それぞれの条件で、ランダムドット(白い丸が移動する映像、宇宙船がワープする映像のようなイメージ)、ストライプの2種類の刺激をそれぞれ提示しました。それぞれの刺激が奥から手前に来るように見えて、まるで被験者が筒の中を前進しているように感じるようなベクションを想定された刺激かと思われます。

結果としては、視野角が広がれば広がるほど、ランダムドットの場合も、ストライプの場合も感じるベクションが強くなることが分かりました。大体人間の視野角は周辺視野含めて200°程度と言われてきましたが、今回の研究では見えていないとされていた部分も人間の認知に影響を及ぼしているとわかったのです。

これは個人的な考えですが、この結果から、確かにコストパフォーマンスの良いVRコンテンツを作るのであれば、また受動的なVRコンテンツであれば従来の視野角程度の200°程度で作成すれば良いですが、より完成度にこだわるのであれば360°でコンテンツを作成する必要がある、また360°でコンテンツを作ることは決して無駄なことではないということがこの実験の結果から言えるのではないかと思いました。

また、同時にこの論文ではもう1つ実験を行なっています。2つ目の実験では、刺激の中心を隠すことによって、得られるベクションの強さが変わるのかというものでした。こちらは結果としては、中心視野を視野角で20°覆った場合、ランダムドットを用いたベクションの強さが最も強くなり、反対に80°覆った場合は、ベクションの強さが最も弱くなるというものでした。

先行研究から、周辺視野は変化に敏感、つまり運動刺激の知覚に長けているという研究があり、このことから著者は、
中心視野が欠けたことによって、周辺視野の刺激をより感じやすくなり、より速いベクションを感じるようになった。その結果、より強いベクションを感じるようになった。
とのような考察をしています。
また反対に刺激を覆う範囲が80°でベクションが最も弱くなったことについては、
中心を覆う範囲が大きくなったことで、奥行きが感じにくくなり、その結果自己運動という想起が起きにくくなったのではないか。
との考察をしています。

この論文をまとめると、
・刺激の提示範囲が広くなるほど、より強いベクションを得やすくなる
・中心を視野角で20°ほど隠すと得られるベクションが最も大きくなる
という考えが得られました。

ふと思ったのは、車で本などを読んでいると酔いやすくなるのは、この本が中心視野を隠すような役割になっていたりするのかなと思いました。(この考え方があっているかはわからないです…)
また、何か関係する論文があれば、ご紹介したいと思います。
では、よい1日を。

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