見出し画像

香料会社の研究発表まとめ

香料業界で研究開発職で働いているかおりずむです。香料会社ではどんな研究が行われているのかをまとめました。

各社のホームページおよびJ-Stageなどを参照しながらまとめています。皆さんの企業研究の足しにしてください。皆さんの企業研究のお役に立てば光栄です。


香料業界は食品用途のフレーバーと香料品用途のフレグランスに大別されます。日本の香料市場は圧倒的にフレーバーの方が大きく*、研究発表もフレーバーに寄ったものがとても多いです。私もフレーバー専門ですし、そのことを前提に記事を読んだくださると幸いです。

*香料統計:https://www.jffma-jp.org/profile/statistics.html
(食品香料 130,779百万円、香料品香料 23,813百万円)


高砂香料工業


国内No.1の香料メーカーですが、学会発表は決して多くないです。他社との大きな違いは化学合成に関する発表が多いことです。化学合成に関する論文を定期的に発表しているようです。
他の香料会社は食品原料メーカーの色を強く出しており、食品にまつわる発表が多いですが、高砂は化学メーカーとしての色が強いです。

また、結晶化不要のX線結晶解析である結晶スポンジ法を香料化合物の構造決定に応用しようとしていることもユニークです。L-メントールしかりノーベル賞級の研究には網を張っているのでしょうか。

演題例

100% Biobased (-)-Musconeの新規触媒的合成プロセス開発(2021年、TEAC)

Convincing Catalytic Performance of Oxo-Tethered Ruthenium Complexes for Asymmetric Transfer Hydrogenation of Cyclic α-Halogenated Ketones through Dynamic Kinetic Resolution (2021年、学術論文、リンク

結晶スポンジ法による香料系化合物の構造決定(2018年、TEAC、リンク

長谷川香料


学会発表、対外的な活動が盛んです。リーディングカンパニーであり上場企業である意識が高いのか、第三者にどう見えるかをかなり気にしているようです。
定番の発表は、対象食品を香気分析して新規成分を発見し、その効果を官能評価で検証するというものです。毎年コンスタントに定番の研究発表を行っています。〇〇感につながる新規成分を発見して商標化し、それを基に開発したフレーバーを宣伝することで戦略的にフレーバー販売を行っているようです(例:ユズノン)。
また、香りの見える化(AVV®: Aroma Value Visualizer)をキーワードにして、ヒトがどのように香りを感じているかを研究しています。NIRS等の生理応答計測を活用した評価、色を介した香りや感情の表現方法(Aroma Rainbow®)が長谷川の特徴的な取り組みです。

演題例

大豆タンパクの特徴香気成分に関する研究(2020年、TEAC)(リンク

Identification of Rotundone as a Potent Odor-Active Compound of Several Kinds of Fruits(2017年、学術論文、リンク

色彩を用いた香り表現の検討~Aroma Rainbow®の開発と応用~(リンク
2018年、学会誌、リンク

グレープフルーツフレーバーはクアシン苦味を含む糖酸味と調和し唾液腺血流応答を増強する(2015年、日本香辛料研究会、リンク

小川香料

長谷川香料と同様に、食品中の重要成分の探索に関する研究が盛んにおこなわれています。小川香料の特徴は、成分発見後にその生成経路を考察してもう一歩踏み込んで事象を理解しようとしていることに思います。

また、モネル化学感覚研究所や農研機構と共同研究により、いち早く減塩に対する研究を行っていました。また、R-FISS®という技術によってフレーバーリリース**の研究も行っています。

**フレーバーリリース:喫食時に口腔内で食品からフレーバーが放出されること

演題例

アラビカ種コーヒーの品種特徴香とその形成要因(2020年、日本食品科学工学会誌、リンク

フレーバーによる塩味の増強効果(2020年、日本調理科学会誌、リンク

飲料香気成分のフレーバーリリース特性評価法の開発(2020年、日本食品科学工学会誌、リンク

曽田香料

こちらも他社と同様に、食品中の重要成分の発見に勤しんでいます。曽田香料の特徴は、AROMATCH®という分析技術によって香気成分同士の相互作用、あるいは香りと味の相互作用を評価軸に重要成分を探索していることです。さらには、嗅覚受容体を使って相互作用の減少解明にも取り組んでいるようです。
また、胃電図という香りの評価手法の確立にも取り組んでいます。同業他社とは視点を変えた取り組みが多く、ユニークな一面を見せています。

演題例


新分析評価技術 テイスティング-GCの開発とリンゴの重要香気成分の発見(2021年、日本清涼飲料研究会、リンク

Effects of 3-octen-2-one on human olfactory receptor responses to vanilla flavor(2022年、学術論文、リンク

Comparing odor-active compounds in three mango (Mangifera indica L.) cultivars by aroma extract dilution analysis and the method for evaluating odor interactions(2021年、学術論文、リンク

バニラ香気による嗅覚刺激が胃の電気活動に及ぼす影響(2022年、日本衛生学雑誌、リンク

さいごに

改めてまとめてみると香料会社ごとにカラーがあって面白いなと思いました。就職活動であれば、各社の研究姿勢や内容も入社への判断材料になりそうですね。

ご質問やご要望があれば、コメント欄、質問箱、DMを使ってお問い合わせください。皆さんの反応が励みになります。

そして、オープンアクセスにしたくないけど書いておきたいことを記載しておきます。課金してくださった方とだけ共有します笑

ここから先は

935字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?