ガンちゃん

大学時代、私が入ったサークルは、各々の学生時代だけ聞くとスクールカーストのピラミッドが完成するくらい色んな子が居た。
でもこのサークルにピラミッドは存在しない。
イケてるあいつも冴えないあいつもおしゃべりな子も寡黙な子もカッコいいもカワイイも男女も年齢も関係ない、おもしろいが一番だみたいなところだった。

お笑いサークルではない。
まさかのテニスだ！
私はテニスほどチャラいサークルはないと思っていたしそんなところにおもしろい人は居ないという偏見を持っていた。
でも、勧誘してくれた先輩２人が２人共におもしろかった。テニスに全く興味ないという事が私を最後まで迷わせたけれど、やっぱりおもしろいには敵わなかった。

軽く５０人以上は居て、思春期に同じクラスに居ても交わる事はなかったんだろうなとか、いじめっ子といじめられっ子に見られそうな風貌の組み合わせが入り交じってバカをやったり笑っている光景は、いつ思い出してもすごく素敵で大好きだ。

春が来ると新入生を勧誘するのが恒例なのだけれど、そんなサークルだったので変わってるであろう子やおとなしそうな子、１人の子に声をかけるのがメインだった。
勿論、普通の子も一応勧誘はするけれど普通の子は黙ってても入ってきてくれるのだ。


ちなみに私は１年生の時、友達と３人で居るところを先ほどの２人に勧誘されたのだけれど、人見知り爆発で一番おとなしかった。
他の２人は入らなかったしまさか自分もここに入るとは思わなかった。
でも、間違いなくこのサークルは私の人生に彩りをあたえてくれた。
人見知りで人が好きな私にとって、十人十色を体現したようなこのカラー無きカラフルなサークルは刺激的なのに居心地も良かった。

その人見知りが邪魔をして馴染むまでに半年近くはかかったけれど、私みたいなタイプの子も居るかもしれないと思うと、ちょっと緊張しながらも勧誘するのは楽しかった。

３年生の春、勧誘期間を終え入ってきた後輩たちの中にガンちゃんは居た。
ガンちゃんはスラッとしたハーフの子で、若干カタコトの残るおとなしいタイプだった。
ちなみにガンちゃんのあだ名は、本名に「岩」が入ってるからと誰かがつけた単純なものだった。このサークルはとんでもないあだ名をつける事もあるのでガンちゃんがガンちゃんになって良かったと思った。

キャラの濃い子は早いうちから先輩たちにいじられたり楽しんだり目立っていた。
私は自分が人見知りなので、ガンちゃんももしかしたら仲間内にだけ見せる顔があるのでは？と思い、お節介ながらガンちゃんに積極的に話しかけてみた。

、、、ふむ。

どうやらガンちゃんは元々そんなにテンションがあがったりしないようだ。

でも、みんながワーっとやってるの見てるのが楽しいです、みたいな子も居るのでそっと見守る事にした。

しかし、

しばらくしてもガンちゃんは周りの１年生の子に比べると馴染んでなさそうだ。
でも個性が強い子だらけなのでみんなへ向けるガンちゃんのプレゼンも難しい。
そして何よりガンちゃん自身が望んでいなさそうなのもあるから目立たせるのもちがう。
もう少し様子を見よう。

私は、人によって結構自分が変わってしまう。
勿論、誰しも少なからず人によって接し方は変わるだろうけれど私は少し極端かもしれない。先輩、同級生、後輩だけでなく、ガンちゃんと同じ学年の子たちの中だけでもちがった。
ちびまる子ちゃんで例えると、ヤンキーみたいなタイプの子には、おうっ！と大野くんと杉山くんのような感じでいき、
明るめの子には、はまじのようにフレンドリーに、
ガンちゃんやおとなしめの子には、たまちゃんや笹山さんのようにやわらかく、
女の子たちには、へい大丈夫かい？と花輪くんのようなレディに対するスマートさを見せた。


けれど、よくよく考えたら違うところでバカみたいな事をしてたのもガンちゃんやその子たちには見られていたので、すきっ歯ではないけれど私は山田に見られていたのかもしれない。
昔からスマートにスッとしたいのにいつも詰めが甘くてスマートになれた事がない、とほほ。

そんな、周りを見てるようで自分が見えていない私は、懲りずにたまちゃんぶってガンちゃんの新たな一面を掘り出そうとしていた。
ただ、ガンちゃんは他の子よりミステリアスなうえに若干カタコトというのもあったので丁寧に接するようにしていた。こういうのはガンちゃんは、、、あ！笑ってる。みたいな探り探り。

サークルって部活よりもずっとラフだから入るもやめるもドアはあけっぱなし。やめる理由も言わなくていいし、突然来なくなってもいい。大人数入るからこそやめていく人も居るのだ。
私が仲良くなった後輩の子も何人かやめてしまった。
おもしろさに惹かれてこのサークルに入ったけれど、何か影のある子や１人で居る子、何を考えてるかわからない子もまた人として魅力的で惹かれるので、おもしろい人と同じくらい大好きだ。
だから一対一で仲良くなるのはそういう後輩が多かった。でもその子たちの中にはこの濃厚豚骨味が合わない子も居たのだ。濃い味も好きとか、胃もたれする感覚を楽しむ子も居るけれどやめた子たちは素麺が好きだった。
ガンちゃんはどうなるかわからなかったけれど来てるって事は豚骨に興味はあるって事かな？

だがしかし、

待てど暮らせどガンちゃんが絡んでるのは同級生の決まった子らだけだった。
その決まった子らは他の子や先輩たちとも交流している。
楽しんでたらそれでいいのだけれど、ガンちゃんは楽しんでるのかな。。
わからないけれど、聞くのも野暮だし聞いて困らせてもだし、ともかくお節介な私はガンちゃんにちょこちょこ声をかけ続けた。

するとしばらくしたある日、
突然ガンちゃんからメールが来た。

ぼくはトラさんが好きですが、ぼくはもうふられてるですよね？
ぼくはトラさんは郁恵井森のデリデリキッチンに出たら楽しいと思いました。
ありがとうございました。

ガンちゃん！！

わからないよ！！！

とりあえず、びっくりしたよ！ありがとう！と返信はしたものの、驚きの告白と完結に戸惑い、不意のデリデリキッチンには触れる事さえ出来なかった。

正直、私は郁恵井森のお料理バンバン(表記ローマ字じゃなくてすみません)から観てたし好きだったので、大変光栄な褒め言葉だった。

なんなら、ガンちゃんはお料理バンバンの時から観てた？とか、どっち派？とか聞いてみたかった。

メール後はじめてガンちゃんに会った日、
いつもだったら
「ガンちゃんおはよーーーっ！」
って手をあげ話しかけにいってたのに、告白とデリデリキッチンがあまりにも私を戸惑わせて、デリデリキッチンに見合わない明るさの「ガンちゃんおはよ！」になってしまい、あまりバンバン話しかけにもいけなくなってしまった。

まさかガンちゃんみたいなおとなしめな子が私を好きだなんてサークルの誰も気づかなかっただろう。私も一ミリも気づかなかった。
正直、デリデリキッチンを勧めてくれた話だけでも誰かにしたかったけれど、ガンちゃんの勇気を振り絞ってくれた真面目でまっすぐなデリデリキッチンだったからこそ誰にも話せなかった。

ガンちゃんはきっと普通に接しようとしてくれていた。私はというと、ガンちゃんと対面すると告白と郁恵と井森で頭がいっぱいになってしまい、情けないながらぎこちなくなっていた。

やがて、ガンちゃんは徐々にサークルに来なくなってしまった。
私はそれに気付きながらも、
ガンちゃん、何かあった？と声をかけたりメールを送る事も出来なかった。
郁恵さんと井森さんだったら送ってたと思う。その時点で私はデリデリキッチンに推薦してもらう資格なんてなかった。

正直な話、お料理バンバンの時は結構観てたけれど、デリデリキッチンになってからあまり観てなかったんだ。そういう後ろめたさも自分の中にはあったのかな。

でも、あんなに素敵で可愛い告白はきっとおばあちゃんになっても忘れないと思う。
だから今でもふとガンちゃんが頭に浮かぶ事がある。
確か夏休み前には来なくなってしまったので、ガンちゃんと過ごした日々は半年もなかったと思う。
でも、今でもシュッとした目やかわいい顔、少し見上げるくらい高い背たけ、影のある雰囲気と、それでも伝わる優しい感じ、ぎこちない話し方も覚えている。

ガンちゃんももう３５歳なんだよね。

でもガンちゃん誕生日いつだったかな。

早生まれだったらまだ３４歳だね、ごめん。

元気かな？
あのあと友達はいっぱい出来たかな？
少なくたっていいよね、ガンちゃんは狭く深く派だよね。

恋人は居るかな？
いや、ガンちゃんならもう結婚してるか。
職場でしょ？地元のお友達かな？ガンちゃんは合コンとか行かなそうだもんな。
年上の女の人にモテたでしょ？
私年上だけど中身だけ転んで置いてきちゃったから今はガンちゃんよりえらく年下なんだ。

久しぶりに会って話をしてみたいけれど、いざ会って、なんでこんなやつ好きになったんだ！デリデリキッチンに推薦した想いを返せ！とか言われてお金とか請求されたら怖いから会わない方がいいね。

ガンちゃんはそんな事言わないよね、ごめんね。

でもね、もしも万万が一、奇跡的に会う事があったら言うんだ。

ねぇ岩ちゃん！
私、郁恵さんと井森さんと同じ事務所入ったんだよ。って。

今思えば、ホリプロと太田プロの養成所で迷ってた時、ガンちゃんの言葉が潜在意識にあったのかな。
ガンちゃんのおかげでホリプロに入れたのかもしれないな。

ありがとうガンちゃん！

って言ったらなんて言うかな？



結果出してねぇじゃねえか！！

ってチャカで心臓バンバンされちゃうかな？
身体ひきちぎられてひき肉にされちゃうかな？
そしたら合挽きじゃないけど良かったらハンバーグに使ってよ。
え？逢い引きじゃないよバカやろうっ！

ガンちゃんはそんな事言わないよね、本当にごめんね。

ガンちゃんは優しいからきっと何を言っても困ったように笑うんだろうな。
そしてそんな私もまた、山田だってバレてるのにたまちゃんみたいに接してしまうんだろうな。とりあえずガンちゃんが笑ってくれたら嬉しいな。

ガンちゃん、幸せでいてくれよな。