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誰かに影響されて始めることの中にある自分(きらきらし・つなぐ)

勉強でも趣味でも、「誰かに影響されて始める」というのは少なくない。

しかし、個性が重要視されている現代において誰かに影響されることは、時に浅はかだとか、自分を持ってないとか他人から軽く見られがちだ。そして自分自身でもそんな自分を軽蔑してしまう。実際に私も、好きな理由を聞かれた時に「推しがやっていたから」とは言えず、適当に「〇〇なところがすごい好きで〜」などとごまかしたこともある。

でも、本当にそうなのか?本当に自分を持っていないのか?

今回は、宮田愛萌さんが書いた5つの短編小説集「きらきらし」の中にある、「つなぐ」という物語を軸に、「誰かに影響されること」ついて書いていきたい。
★きらきらしURL: https://www.shinchosha.co.jp/book/354941/

1. 亡き叔母の日記で将来への光を見出す主人公

(ネタバレあり)

この物語は進路に悩む女子高生が主人公だ。彼女が祖父母のいる京都に帰省し、25歳という若さで亡くなった叔母の日記を手に取るところから始まる。日記では、先天性の心臓病気と付き合いながら大学院に進学し、徐々に病気が悪化して自分の将来が長くないことを自覚しながらも、大好きな万葉集をとことん探究していた叔母の姿が描かれていた。人伝で聞いていた「病気で亡くなってしまった可哀想な人」だけではない、好きなことに夢中で駆け抜けて、溌剌とした若き叔母の幻影に主人公は思いを馳せる。

「一人の人が一生愛し続けたものも、歌に詠まれた景色も、知りたい気がする。」

この一文は、日記を読み終えた主人公が、叔母が生前最後に行こうとした万葉集記念館へと向かう前の一文である。物語はここで終わるが、自分の将来が全く見えなかった主人公が叔母の日記という道標により一筋の光を見出した様子が窺える。おそらく、この主人公は叔母と同じように万葉集にのめり込むのだろうなと読者の想像を膨らませてくれる。
そして何より、この文に「誰かに影響されること」についての本質が詰まっている気がする。

2. 誰かに影響されて始めること


今一度、つなぐの一文を振り返る。

「一人の人が一生愛し続けたものも、歌に詠まれた景色も、知りたい気がする。」

この一文にあるのは、主人公の叔母への憧れだ。
そして、私たちが誰かに影響されて始めることの根底にも、その人への愛や憧れがある。「大好きな人がのめり込んでいるものをもっと知りたい!」という感情。それは、自分の中から出てくるものではないのか?
そしてその感情によって新しい挑戦をするのは明らかに自分の意志である。そう考えると、「誰かに影響されて始めた」の根底にはしっかり自分がいるし、愛や憧れによって行動することができるって幸せなことではないか。そして、そんな誰かへの愛から始めたものは、いつしか始めたものそのものへの愛へと広がっていくと思う。

私自身も、誰かに影響され続けている。
アイドルオタク時代は推し受けていたからという理由で同じ検定試験を受けたし、専門分野でもないのに推しが読んでいたのと同じ本を読んだ。今でも推しが好きと言っているならと、今まで全く聴いてこなかったジャンルの曲を聴いては好きになる。noteで定期的に文章を書いているのも、大学時代に大好きだった友達がnoteで自己表現をしていたのに憧れて始めたのがきっかけだ。それまでは文章なんて、レポート等で嫌々書くくらいだったのに。
本当に笑ってしまうほど”誰か”に影響されすぎている。

じゃあ、そこに自分がないのかと言われたらどうだろう?
推しきっかけで資格取得の快感に気づいてからは、推しが卒業しても資格試験を受け続けている。なんなら推しが受けていないものもいくつか取得した。推しが勧めてた本を読んで、その分野に関する別の記事も読んだ。noteも書くきっかけを作ってくれた大学の友達より今では更新頻度が高い。誰かに影響されてまくっているけどけれど、しっかりそれそのものも好きになっていて、その中に自分自身の活動した証があって安堵した。

「推しがやっていたから始めた」
これからはもっと胸を張って言っていこうと思った。


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