頑張れる曲① へロー（私立恵比寿中学）

「私立恵比寿中学　ヘロー」
アイドルの曲という概念を捨てて聴いてみて欲しい。

数々の歌に励まされることは多くあるが、こんなにも胸が締め付けられる曲はない。数々の困難を乗り越えたエビ中メンバーが歌うからこそ、他の歌よりも深く感情移入ができるのだろう。
この曲は2022年に柏木ひなたというメンバーの卒業に伴いリリースされた、いわば「応援ソング」である。ポップでありながらどこか儚さを感じさせる曲調が、別れの寂しさと、未来への希望を感じさせる。さらに、一人一人が物思いに耽る様子がアップで映るMVはとても美しく見入ってしまう。

しかし、私が特に胸を締め付けられるのは、歌詞である。
なぜなら、歌詞の中で彼女達自身の「弱さ」をさらけ出してくれるからだ。弱さが見えるからこそ、共感できて一歩踏み出そうと思える。
本当は、歌詞の最初から最後まで解説をしたいほどなのだが、あまりやりすぎるとネタバレになってしまうので３フレーズを抜粋して紹介していこう。
※先に聞きたい人はこちらで（https://www.youtube.com/watch?v=04Y9MYTUNz8）

１.  ”変わんないもの” なんて無いけれど

始めに紹介するのは１番Aメロの前半部分の歌詞である。

半端な人生相談です。
変わんないものなんて無くて
それでも大事に抱えてるのは罪でしょうか？

「変わる」ことへの不安をここまで正直に表した歌詞があっただろうか。

誰かとの別れを経験する時、少なからず変化を感じる。
環境、心の持ちよう、仲間が仲間でなくなること
そんな周りの変化と変わってない（ように感じる）自分との差に焦り、楽しかった過去を思い出す。

「変わらないものはないんだから」
「過去や思い出にしがみついてはいけない。」
そんな言葉をよく聞く。確かにその通りだと思う。

だけど、変わって欲しくないこともある。
思い出にしがみつかないと自分を保てない時もある。彼女達も同じなのだろう。
そんな不安や葛藤をありのまま表現することで、不安を感じる弱い私達を肯定してくれる。そして過去を振り返りつつ、サビの「Hello」という歌詞につなげることで、弱さを出しながらも彼女達が懸命に前を向こうとする情景が浮かび、美しさすら感じるのだ。

２　”くだらない平凡” のありがたさ

次は、２番Aメロの後半部分である。

くだらない平凡の延長です。
けれどもそれこそが未来で、僕らの願った将来で、確かなもんで

ありふれた日常の幸せを感じさせてくれる歌詞である。
そしてこれは、（詳しいことは割愛するが）メンバーの死・数々の病気・過去メンバーとの別れなどの、想像を絶するような困難を経験してきた彼女達が歌うからこそパワーがある。

これらの困難がなかったら、彼女たちはもっと大きくになっていたのかもしれない。挫折も少なかったかもしれない。
けれどもこれらを経験したからこそ、彼女たちはメンバーと笑い合える何気ない日々幸せを心から噛み締めることができる。心から噛み締めているから、聴き手にも勇気を与えられる。ここでも彼女達の負の部分を見せてくれている。

誰しも、希望を抱いてに新しい世界に飛び込んだものの、現実を突きつけられた経験はあるだろう。
現実に挫けながらも、小さな成長を積み重ねて、自分なりの世界が見えくる。思い描いていた理想とは違っても、悪くはないと思えるようになる。
そんな”悪くない日々”  が実は幸せなのだという気づきをこの歌詞は与えてくれる。

３　”笑顔に変えてみせるよ”

最後は、２番Bメロのこの歌詞だ。

お腹いっぱいになる程希望を詰め込んだ僕らだ。だから、
泣きはらしたその顔も、容易く笑顔に変えてみせるよ

一見、応援ソングによくある歌詞に見えるがこのフレーズが与えるパワーと勇気は計り知れない。仲間のありがたさを思い出させてくれる。

泣き腫らすほどに落ち込んだ時、一番のパワーになるものは経験者のアドバイスや励ましではなく気の知れた仲間との生産性のない馬鹿なやりとりだったりする。

例えば、激辛ペヤングで大騒ぎをしたり、言われなきゃ分からないような小ボケを繰り返したり、深夜２時までお絵描きゲームで爆笑できるような仲間だ。
こんなことをしても問題の根本的な解決にはならない。
だけど笑顔になれる。
笑顔になれると不思議と、もう一度頑張ってみようと思える。
一見無駄に見える「ただ笑顔になれるだけ」の仲間とのやりとりが、一歩踏み出す勇気をくれる。

このような、自分を笑顔にしてくれる仲間の存在をこの歌詞で噛みしめることができる。そして「笑顔にさせるだけ」しかできない自分達であっても仲間の心の支えになれるという自信をくれる。

４　最後に

このヘローという曲は、ただ応援ソングでは無い。彼女達の弱さを、そしてそれを乗り越えていく彼女達自身をさらけ出してくれている。そんなある意味「アイドルらしからぬ姿」に私も自分自身を重ね合わせることができたのだろう。
紹介しきれなかったが、本当にそれ以外の歌詞も、MVも歌割りも素晴らしいので
ぜひ聴いてみて欲しい。