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新人記者の愛嬌

今週、とある新聞社の支局にお邪魔しました。

そこで出会った1年目の女性記者・Mさんは、無邪気で天真爛漫を絵に描いたようなひとでした。

ちょっと舌足らずで少女のような喋りかた。いつもニコニコ。
ネイルはパステルカラーでカラフルにきめて、
サラサラのショートヘアは毛先がくるんと内向きで、振り向くたびにふわりとふくらむ。

学生時代に希望していた勤務地はどこでしたかと尋ねると、石川県と返ってきたのでさらに理由をきいたところ
「え、おいしいものたくさんありそうだから!」とコロコロ笑っていました。

いま思い返すと、あざとさが全くないんですね。あれは天性の愛らしさです。彼女としゃべっていると思わず顔がほころんでしまう。支局の先輩記者に愛されているのがよくわかりました。


Mさんの机の上に、県警の広報文が1枚ペラっとおいてありました。発生したばかりの事件or事故の概要が記されています。
片隅に⑦とメモされていました。
「電話するのが遅くなって7番目になっちゃった〜」
報道各社がこぞって電話取材するので順番待ちの状態になっているわけです。

しばらくおしゃべりしていると、彼女の携帯が鳴りました。


基本的に警察の取材担当者は、聞かれたことにしか答えません。
以前、事件事故の模擬取材をやったことがあるのですが、質問如何で聞き出せる情報量に格差が出ます。
うまい質問を飛ばせれば、いい情報が引き出せるけど、下手な質問を投げても「それは捜査中です」という返答が積み上がるばかりなのです。

たとえば、新幹線で乗客を刺して逮捕された容疑者は自宅に遺書を残していた、という事実があったとする。警察はすでにそれを認知している。でも広報文には遺書のいの字も書いていないし、記者発表でも何も言われないってこともあるわけです。そこを個別取材で「容疑者の自宅ってもう捜索しました?なんか出てきましたかね」あるいは「遺書とかってありました?」と勘を働かせてチラッと聞く。記者の技量が問われます。

夏に模擬取材を体験したときは、何を聞くのが定石なのかもよくわかっておらず、いい質問が思いつかなくてただ突っ立っている…なんてこともありました。ただ、こちらが何か喋らなければ、当たり前ですけれど相手は何も喋りません。人間と相対しているという感覚がだんだんなくなってきます。目の前の取材相手が、平たくて硬い岩盤のように思えたほどです。



Mさんの背後で、電話のやりとりにじっと聞き耳をたてていました。

被害者の状況、事故の原因、被害者と加害者は知り合いだったのかなどなど、素早くメモを走らせながら次々ときいていきます。
電話口からは、おじさまの東北弁が漏れ聞こえてきました。

ひと通り質問し終えると、Mさんは口ごもりはじめます。「そうですねぇ〜」「えっと〜」で時間を稼ぎつつ、他に何を聞くべきかぐるぐる考えているようでした。
こっからだぞ…と耳をそばだてていたところ
不意に


「えっと、何か言い残したことってないですかぁ〜 ?」

と一言。
拍子抜けしました。
周りで聞いていた先輩記者がクスクス笑っています。

電話口の副署長は「原則、具体的な質問にしか答えないことになってますんで…」と失笑しながらも「防犯カメラが…」とポロポロ情報をこぼしてくれています。

夏の模擬取材のとき「他に何か情報ないですかね?」ってどれだけ聞きたかったことか。それでも、その質問をなんとか迂回しようと、ない頭を絞っていたのに。
そういうウジウジをスコーンと追い抜いていくあどけなさ。ゲームのルールを真正面から捉えすぎない軽やかさ。舌を巻きました。


愛嬌で危なっかしさを魅力に変えている。下心なく無邪気だからだなあと思いました。


翌日、Mさんは各社取材NGの高校ラグビー部の監督をおとして支局に帰ってきました。ラグビーの詳しいルールはよくわかっていないとのことでしたが、「わかんないからいっぱいきいた」そうです。監督からは「勉強してまたおいで」と言われたとか。

喋り方とか見た目とか、そういう表面的なところに滲む天性の愛嬌。これは歳を重ねても変わらんだろうなあと思って見ていました。



今週の質問:人生で一度は言ってみたい言葉


ドラマや映画のセリフ3選でいきます。なぜかわからないけど心にのこってメモしていました。なんかかっこいいと思ったんでしょうね。
使いどころを逃さず口走ってみたいものです。

「諸事考えの甘いボンボンにしては上出来やろ」
(ドラマ「京都人の密かな愉しみ 〜Blue修行中」)

「おっぱいなんてね、引っ込んでなければ必要十分なんだよ」
(ドラマ「主夫刑事と猛妻鑑識官の夫婦事件帳」より橋爪功のセリフ)

「主義に凝り固まればソビエトも地図から消える」
(映画「探偵はBARにいる」より大泉洋のセリフ)

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