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モンマルトルで学んだユング

1989年、初めてのパリ。
大きなスーツケースを2つ持って、夏を過ごしたドイツの友達のところからパリの北駅に着いた。ヨーロッパに居ながらにして、まだ携帯もインターネットもない時代にどこをどうやったのか今では思い出せないが、日本を出るきっかけとなったアメリカ人Dからの紹介でパリの最初のステイ先は決まっていた。はずだったが…

北駅で待つこと1日。連絡先の電話番号は暗記するほどかけて、しまいには私のメッセージで留守番もいっぱいになっていた。その日は連絡取れず、駅の目の前のホテルにとりあえず一泊。何もせずに待つこともできず、まずはパリで一番大きなフランス語学校、アリアンス・フランセーズへ。学生多いパリの学校は、いつからでもコースを始められるが、一応クラス決めのテストがある。やる気のない担当者が用紙を出し特に席に座るでもなく目を通す。私の知っているフランス語はメルシーと1,2,3アン、デュー、トロアのみで無理ですimpossibleと言うとok, okと、とっとと用紙を戻し、10人くらいの初級のクラスへと指示された。

ステイ先の知り合いの人から連絡が入ったのはその日の夕方。急に仕事でパリを離れることになったので、私をアパルトマンに届けて欲しいと言われたとのことを、ホテルのレセプションの人が通訳してくれた。ホッとしたのも束の間、その人は英語が話せない。とりあえずタクシーで指示された場所へ行くと、痩せたフランス人男性が待っていてくれた。いろいろ説明してくれたが、ほとんど言葉での理解はできなかったが、パリに着いたばかりの私を観光に連れて行ってあげると言うことになった。メトロで向かったのは観光客で賑わうモンマルトル。どこもここも映画や雑誌で見たことのある風景で、どこからともなくアコーデオンの音が懐かしさとも言える気分を盛り上げてくれた。私パリにいるんだ。

私たちはカフェに入り、アップルシードルとクレープを頼み、辞書を片手に話始めた。なぜそんな話になったのかこれまたわからないが、彼はエルメスのロゴのような馬車を紙ナプキンに書き出した。その時はうっすらとわかったようなわからないような話で、後で整理してわかった内容は馬と馬車と御者のユング心理学。これがある意味私の初めてのスピリチュアル的な出会いで、その後の考え方の軸になったのです。

私の解釈はこうです。
馬は魂。無意識の世界で生命の源、この世で創造的な個人の本質、アイデンティティ。
馬車は体、肉体。意識の世界として存在し、五感を通じて経験すること。
御社は精神。超意識の世界で知性や自己認識、個人の意識を導き判断、制御する。

私たちはあらゆる体験のためにこの3つをセットとして生まれてきて、3つがバランスよく存在することで自身の内的な調和が保てるということ。ただ、私たちが意識できる肉体は、魂と精神なしではどこにも行くことができず、常に生かされていると言う壮大な思想がモンマルトルのカフェで紙ナプキンに描かれたのです。

今に至っても、このエルメスのセットのような馬、馬車、御者は、三位一体、無意識、意識、超意識などといろんな形で目に入り考える機会を与えられていると思う。

あの彼の名前も顔も覚えていないけど、初めてのパリの心細かった夜は、ぼんやりと見えたたくさんのパリの光の中、タバコの匂いといろんな言語が混ざり合う雑踏の声の小さなカフェが宇宙に見えた夜だった。




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