マガジンのカバー画像

日がな一日言語学

19
認知言語学者の日常的ことば遊び場的ななにか
運営しているクリエイター

記事一覧

手話通訳付きオンライン会議覚え書き

手話通訳付き対面発表覚え書きが割と好評だったのでオンラインのやつも書いておく。 1. 通訳者を選定前回、通訳の選定が何より大事という元も子もないことを一応最後に書いたけど、オンライン会議の場合、通訳者の環境は通訳者が整えるしかないので、オンライン会議をやり慣れている人にお願いするのがいいです。 オンライン会議? やったことないけど、どうしてもというなら対応しますよ、という人にお願いすると、 画面からはみ出る 音声が聞き取りにくい スポットライトの方法がわからない

手話小咄:聴者の手話学習者の私の目と映像メディア

今年もやってきました、まつーら先生主催のアドベントカレンダー「言語学な人々」2023です。「言語学な」話をどうしようと思いましたが、そういえば昨日の「日本手話は顔めっちゃうごくやつです」みたいな解説は言語学ベースでした(かなりかみ砕いてますが)。興味がある方は是非。 今年は、「言語学な」があっという間に埋まったので、別館(言語学なるひとびと)もあります。 去年もドラマの話を書いているから、ドラマばかり見ていると思われているかも知れませんが、去年のあれ以来、見たドラマと言え

誰に何をどこまで

プレゼンテーションを構成するのが、なんだか最近とみに苦手だと思っている。所属機関に言語学者はほぼいないので、言語学の細かい話はしない。畢竟、政策系の話になる。特に、所属部を移って以降、言語政策っぽい話とか、発達支援の話とかのほうが、「わかりやすい話」になるのだろうと思っている。聞き手が誰かによって話すことが変わる。当然といえば当然だけど、これがかなり難しい。そういうわけで、去年の10月末の日本語学会のシンポジウムでの発表を最近ふいに褒めてもらったのを、暗闇の中の灯として、気合

手話通訳付き対面発表覚え書き

学会会場の設備の問題が今回はなかったけど、久々の対面会場発表だったので、手話通訳も入るときの流れで自分が気をつけていることを書いておく 待ち合わせ場所と打ち合わせ場所 接続確認 照明調整 ろう者の座る位置と手話通訳の立ち位置 音響調整 通訳打ち合わせ 1.待ち合わせ場所・打ち合わせ場所 行ったことのない会場だと、どこで待ち合わせにするのか、打ち合わせはどこにするのか、で結構迷う。特に季節が暑いとか寒いとかの苛烈な時期だと、外で待ち合わせにしてしまうと、仕事前に

silent、フィクションで障害を扱うことによせて

silentが終わった。いろいろあったけど「優生」のことは、さすがに看過できなかった。それ以外はまあ、アップデートがあったのかなと思って見た。豊川悦司が孤独なろうの青年を演じて手話ブームを起こした「愛していると言ってくれ」が1995年だというから、四半世紀を経て、何が起こるか確認しなければと思っていたこともあり、silentはリアルタイムでないにせよ、週1のペースで拝見した。 声でしゃべれない人を扱うと画面が見てもらえる「聞こえない人」を扱うと言うより、「(声で)しゃべれな

はじめての「頭痛」

新型コロナウイルス感染症拡大はすでに第6波だそうで、「かかるのも時間の問題」といわれて、覚悟はしていた。職場より自宅のほうが、若干はやく感染症がまわってくる予感がしていたので、テレワークを多くしていたので、職場には持ち込まずに済んだが、それだけである。 保育園で、子が濃厚接触者扱いになって、自宅待機になった。そこから3日後に急に子が、発熱。近所のクリニックにPCR検査キットをもらって検体を提出して、「寝とく?」といったらおとなしく寝たので具合が悪いようだ。一応子ども用の解熱

うっすら嫌われてもめげずにいる

ろう者や難聴者は、とても友好的に振る舞ってくれていても、私が聴者である以上、「気を遣われている」感がつねにある。基本的に、気を許されていない感というか。それは当然、「よそ者」だから仕方ないのだが、ときどき踏み込みそうになって踏みとどまるということをしている。その距離感が、なかなか難しい。 私も長らくこんな感じであったとドキリとした。 日本で手話を研究している人は多くないし、手話関係者で、聴者は手話通訳者が大多数を占める。研究をしている大学教員はたいてい語学の教員で忙しく、

「危機言語としての日本手話」

高嶋由布子(2020)「危機言語としての日本手話」国立国語研究所論集18, 121-148. http://doi.org/10.15084/00002544 論文が出ました。待ってても誰もこれを書いてくれないので書きました。 この論文は,手話研究を始めて以来,上のような状況がずっと続いていて,毎回説明するのに疲れてきて,仕方ないので自分で書きました。落ち着け,とりあえずこれを読んでくれ,と言えるものが欲しかった。(とくに言語学者に) 日本手話が消滅危機言語なのではない

「もうろうをいきる」上映会

去年の夏に公開になったドキュメンタリー映画「もうろうをいきる」。近所で上映会&監督のお話があるという情報を公民館だよりで入手して、万難を排して出かけた(万難というか、子守りを夫にお願いして、だけど)。 この映像作品は、主に7人の盲ろう者とその家族・支援者の日常を切り取ったものとして構成されている。 聾ベースの盲ろう者も何人か登場した。こうした人たちは、口話が得意ではないので、見れば(聞けば)わかる。彼らは手話を主に使う。そして、支援者は触手話でコミュニケーションを取る。と

丸山正樹(2018)「龍の耳を君に」東京創元社

「デフヴォイス」が出たときは、こういう取り上げ方があるんだーと思ったものだけれど、今回はその続編が出版された。出版されたとき、アメリカにいて、そのあと帰ってきて手に入れたけど、アメリカで課題が見つかって読むものがたくさんありすぎて、結局今頃になって読んだ。 主人公は、コーダ(Children of Deaf Adults:親がろう者の子ども=手話が母語となることが多い)で、前作で手話通訳士として仕事を始めた男。自身の出自から、ろう者とそのコミュニティについて複雑な感情を持ち

「ろう者の祈り」とは何か

「ろう者の祈り」という本を読んだ。最近出版されたものだ。 筆者は、朝日新聞の編集委員中嶋隆さん。彼が、新潟のNPOにいまーるの臼井千恵さんと、手話通訳士で日本語教師の鈴木隆子さんを中心に取材して執筆した本。 さて、この本の主題は ろう者は日本語が第二言語なので、ばかにしてはいけない に集訳される。 ろう者コミュニティの話も出てこないし、手話を公用語にしたエンパワメントの話も出てこない。ただ、日本語を改めて学び、なんとかマジョリティである聴者社会でやっていきたいという

当事者による手話の言語学の研究発表

先日は、京大の京都言語学コロキアム(KLC)に日帰り出張をしてきた。私の古巣、Y研あらためT研に、私がギャロ―デット大学にASLを学びにいったときに知り合ったろう者のKさんが、研究をしたいということで出入りしていたのだ。 ろう者の研究環境は、本当にがんばらないと手に入らない。まず情報保障(手話通訳や要約筆記)の提供を受け入れてくれる場所でないとダメだからだ。その上、ろう者の「育ち」つまりこれまでの教育の問題で、彼らはほかの定型発達の院生と比較されたら、やはり知識や批判的な思

The Land of Enchantment

ニューメキシコ州は、「魔法の土地」という2つ名が付いている。昨日は「逢魔が時」と思いながら人気のないキャンパスを越えてたら、なんだか見たことのない色になっていた。写真じゃ伝わりにくいかもしれませんが。 すでに1600mの高地、見える山は3000m級。住宅街の外側には、砂漠に耐えるサボテンや低木が生える岩と石の風景が広がっている。空はたいてい青くて遠くて宇宙みたい。 そんなニューメキシコ州は、1600年頃にスペイン人がやってきてサンタフェに街をつくり、1821年にスペインか

花を育てる語

先日から、「プロトリーフチャンネル」というのにはまっていて、ベランダ園芸にせいがでます。というか、庭仕事はそんなにやってなくて、単に動画を見ていた…。ただただ手際よく説明しながら作業もすすめるおじさんの話芸に魅了されていたのですが、どうやら結構有名な人だったらしく、NHK趣味の園芸にも出ていたらしい。逸材発見と思ったけどすでにみんなの金子さんだった。ぜったいフィラーを言わないとか、大事なことは2回言うとか、高いプレゼン技術ってどういうものかについてとても勉強になる…というわけ