教育は,人生のゲームチェンジャーになれるのでしょうか?教育は,社会を豊かにすることができるのでしょうか?立ち止まって,冷静に考えてみることも必要です。

日本は,貧しい国になりつつあると言われています。

日本は,もはや,先進国ではないと言われています。

日本の経済力や豊かさは,何十年か前のバブル期などに比べると,見る影もなくなっています。

日本の労働者の賃金も,グローバルの先進国の水準から見れば,6割程度になっています。

大学卒の初任給は,先進国では,50万円でも普通と言えば,日本人の多くは,驚くことでしょう。

アメリカなどでは,年収が1,000万円を超えても,貧困層に分類されると聞いたら,日本人の多くは,驚くことでしょう。

先日,私は,アメリカ系のある新しいクレジットカードの案内を手にしました。

そのカードは,毎年,年間で,400万円以上をカードで使えば,一定のサービスを受けられるとされていました。

つまりは,そのカードを持つ人は,年間,少なくとも,400万円くらいは,そのカードで,買い物をするだろうと,想定しているのです。

日本では,年収自体が300万円に届かない人,年収自体が200万円に届かない人が,たくさんいます。

アメリカ系のカードの中には,平均の年間カード利用額を,1,000万円以上に想定しているものも,たくさんあります。

これらのカードは,特に,富裕層向けのカードではありません。

一般の平均的なビジネスパーソンに向けたカードです。

アメリカなどの欧米先進国であれば,都市圏での昼食(外食)の平均額は,2,500円~3,000円です。

外食でも,ワンコイン(500円)強で,昼食が食べられる日本の価格の5倍以上です。

夕食(外食)であれば,一人,1万円以上が当たり前です。

ホテルの宿泊も,日本では,ビジネスホテルなどに,7,000円前後で宿泊できるようですが,欧米先進国のシティホテルなら,1泊5万円以上が,普通です。

この物価・料金なら,年間400万円,あるいは,1,000万円以上をカードで支払うことは,欧米先進国のビジネスパーソンなら,平均的なことなのかもしれません。

もちろん,欧米先進国のビジネスパーソンは,それなりの年収を得ています。

トップエリートのことを言っているのではありません。平均的なビジネスパーソンの話です。

教員であっても,アメリカの東海岸などの大都市圏の教員なら,30歳代で,年収1,000万円を超えるのは当たり前で,むしろ,それ以上の収入がなければ,普通の生活をすることは難しいでしょう。

実は,日本でも,大都市圏にあるアメリカ系のシティホテルに宿泊すれば,宿泊料金(正規料金)は,ほぼ,アメリカと同等です。

ホテルなどにある本格的なレストラン,料亭で食事すれば,欧米先進国と料金は,あまり変わらないでしょう。

でも,日本には,安いお店は,たくさんあります。

500円で,ランチを食べることができます。

1,000円あれば,夕食だって,食べることができます。

日本の労働者の賃金が安すぎるので,そういう店がなければ,そもそも,生活が成り立ちません。

でも,安い料理を提供するお店は,高い賃金(時給)で,スタッフを雇うことができません。

物価の安さと,給与の安さが,スパイラルのように,絡み合っています。

アメリカの大学に進学しようとすれば,年間500万円以上の授業料がかかります。

ハーバード大学などの年間授業料は,1年間で500万円をはるかに超えます。

州立大学などの公立大学でも,年間授業料は,300万円を超えるところがほとんどです。

日本人は,日本の国立大学の,数十万円の授業料でも,高い!と叫んでいますが,アメリカの大学の授業料から考えれば,破格の安さです。ほぼ無料化しているのではないかと思われることでしょう。

現在の日本の労働者の収入状況では,子供が,海外の大学に進学したいと言っても,その授業料を払うことができる親(保護者)は,日本の人口のごくわずかでしょう。

もちろん,返却不要の奨学金や授業料免除などの制度はありますが,アメリカの場合,かなり高い学力・成績が必要とされます。

留学に限らず,日本人が,個人で,欧米先進国を,海外旅行することも難しくなるでしょう。

いわゆる旅行会社のパック旅行(集団旅行)や,バックパックでの貧乏旅行でもしない限り,欧米先進国では,ホテル滞在で1泊5万円以上,毎日の昼食で,一人当たり,3,000円前後,毎日の夕食で,一人当たり,1万円以上の出費を強いられるでしょう。

どの観光地に行っても,入場料や利用料金は高額です。

日本では,ディズニーランドの入場料が高額と感じる人が多いようですが,日本のディズニーランドの入場料は,世界各地にあるディズニーランドの中で,最も安いということを知っている日本人は,必ずしも多くはありません。

昭和・平成の時代,日本人は,例えば,東南アジアの国に行けば,物価が安いので,「豪遊」できると感じていました。

令和のいま,欧米諸国や中国の人々は,日本に来れば,物価がものすごく安いので,「豪遊」できると感じています。

日本にインバウンドの海外からの観光客が多かった最大の理由は,日本の物価の安さでした。

現在は,コロナ禍ということで,日本に観光に来る外国人は,ほぼゼロですし,また,日本から,海外に観光に行く日本人もほぼいないでしょう。

この2年間,外国旅行から遠ざかっていますが,その間にも,日本と欧米先進国の差は,どんどん広がっています。

多くの日本人の年収では,もはや,欧米先進国レベルの生活水準を維持することは不可能です。

先日,ツイッターのトレンドで,東京では,風呂なしの物件(アパートなど)が若者の間で人気,新築物件より古い物件が若者の間で人気という記事がありました。

決して,風呂なし物件や古い不動産物件が,若者に人気と言うことではなく,多くの若者にとっては,そういう安い物件にしか入居できないほど,貧困化が進んでいるということなのでしょう。

若者たちも,自分の収入を考えると,そういう格安の物件にしか住めないので,表面上,そういう物件の契約数が増えているのでしょう。

もはや,日本の貧困化を止める手立てはなさそうです。

ごくごく一部の富裕層は,日々,さらにリッチになっていますが,圧倒的大多数の日本人は,年々,貧困化が進んでいます。

日本も,実は,現在は,海外と同じように,富裕層が利用する商業施設や宿泊施設と,貧困層が利用する施設は,まったく異なっていて,両者が共に利用する施設は減少しているようです。

富裕層は富裕層同士で集まり,貧困層は貧困層同士で集まります。

そんな社会になってしまっています。

ですから,多くの貧困層は,富裕層の生活の実態を知らないので,今の自分たちの生活で,それなりに満足することができています。

世の中,上手くできているものだということなのかもしれませんが,年収200万円~300万円で,500円強のランチを食べ,安いアパートに住んで,ごくたまに,世界で一番安い入場料のディズニーランドに行く生活が幸せだと思えるのであれば,それもまた,人生の感じ方なのでしょう。

でも,欧米先進国の水準からは,その生活は,貧困層の中でも,かなり底辺の生活となります。

従来は,貧困層から,富裕層(富裕層とまではいかなくとも,中間層)に移るためには,教育が必要だといわれた時代がありました。

現在の日本では,教育の力で,貧困層からの脱出は,なかなか困難なようです。

貧困層と富裕層では,教育にかけるお金が全く違います。

貧困層では,公立の学校以外の教育の手段を選ぶことが,経済的にできません。

また,一般に名門校・難関校と言われる大学に進学する子供の保護者の多くは,富裕層です。

東京大学でも,早稲田・慶応でも,その学生の保護者の平均年収を知れば,多くの平均的な日本人は驚くことでしょう。

その昔,教育は,人生のゲームチェンジャーでした。

教育(学習)によって,人生を転換し,成功者になり,豊かになる道を,ほとんどの人が夢見て,それを実現する人もたくさんいました。

現在では,教育が,人生のゲームチェンジャーになるチャンスは,減少しています。

教育が,人生のゲームチェンジャーにならないとまでは言いません。

でも,教育(学習)によって,貧困層から,脱出できるかというと,それは,非常に困難だと言わざるを得ません。

教育に携わる教師にも,課題があるのかもしれません。

日本の多くの教師は,欧米先進国に比べれば,低賃金,長時間労働です。

欧米諸国の教師が当然としている,完全週休2日制,15時過ぎには退勤できる,夏休みは3か月ある,年収も地域によっては1,000万円を軽く超える,職責は教科指導のみ,といった労働条件は,日本の教師にはありません。

大学教授くらいになれば,日本でも,ちょっと違うのですが(それでも,日本の大学教授の年収は,欧米先進国の大学教授の6割くらいです),小・中・高の教師であれば,貧困層とは言いませんが,あまり豊かな生活を享受しているとは言えないでしょう。

豊かな生活を享受できていない教師が,子供たちに,豊かな生活について伝えるのは,難しいものです。

貧困層は,貧困層を再生産するのが,世の常です。

教育が,学校が,人生のゲームチェンジャーになることは,年々,難しくなってきています。

富裕層は,日々,富を増した上で,世襲します。

貧困層は,日々,貧しくなった上で,世襲・再生産します。

この悪のサイクルを止めることはできるのでしょうか?

今の日本では,この悪のサイクルを止めることは,難しいのではないでしょうか?

「それでも,頑張るのみ!」とか,「それでも,教師としての仕事に最善を尽くすのみ!」と,声高に叫ぶ人もいるようですが,それでは,精神論です。

太平洋戦争中の特攻隊と同じようなものです。

勝算のない戦いは,無謀であり,水泡に帰します。

日本の貧しい現状は,どうすれば,転換できるのか。

教育は,学校は,教師は,立ち止まって,深く考える必要がありそうです。

おそらく,答えは,悲しいものなのかもしれません。

だからと言って,教育という素晴らしい営みをあきらめる必要はありませんが,その素晴らしい営みが,悲しい答えを変える力が本当にあるのかを,冷静に考えてみるのも必要なことでしょう。


河野正夫


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