成功の秘訣は演出力。20歳代の時,河野正夫は,アメリカの新聞記者に何を語ったか?演出力と若気の至り?(笑)
成功の秘訣は演出力!!と題して、今日はお話をしますね。
教師は舞台俳優の側面も持ちます。
教壇に立てば、そこは舞台です。
何十人かの子どもの視線を一身に集めます。
もちろん、授業の主役は子どもです。
教師はファシリテーターです。
そうは言っても、教師が授業という舞台のセンターステージに立っている事実は変わりません。
子どもの眼は教師に注がれます。
子どもの耳は教師の言葉に向けられます。
教師の一挙手一投足が子どもの学習に刺激を与え、動機付けを与え、興味関心を掘り起こします。
学習の主体は子どもでも、授業の演出は教師です。
授業における教師は演出監督兼舞台俳優のようなものです。
だから、教師には演出力が必要です。
演出力にはいろいろあります。
表現力、パフォーマンス力、発話力などなど。教師の演出がつまらなければ、授業もつまらなくなります。
教師が演出をサボれば、子どもは興味関心を失います。
教師の演出はそれほど重要なのです。
教員採用試験の人物評価試験(面接や模擬授業など)は、あなたの演出力もしっかりと見極められます。
演出力がなければ教師にはなれません。
でも、教師は、本物の俳優ではありませんから、演技力だけが求められるわけではありません。
教師には俳優の側面も必要ですが、俳優とイコールなわけではありません。
教師に必要な演出力とは、端的に言えば、次の3つです。
1.相手に興味関心を抱かせる発話力。
2.相手の心を見通して、相手の共感や感動を勝ち取る洞察力。
3.何が重要で何が目標かを相手に伝え理解させる力。
この3つを効果的に成し遂げるための表現力が、教師に必要な演出力に他なりません。
教師の演出力は、面接や模擬授業のときに試されると述べました。
皆さんも、もう、面接は平凡で無難にこなしてもダメで、みなさんの自分らしさをユニークに表現することが重要であることは理解していただいているものと思います。
また、教育への想いや教職への情熱もしっかりと伝えなければなりません。
私が「新米教師」だった頃のお話をしますね。
今から二十数年前、私が大学院を修了して初めて教師になったときのことを例にお話しします。
自画自賛の部分もありますが、演出力の具体例ということでご容赦ください。
私が初めて教師になったのはアメリカのアイオワ州です。1990年代のことでした。日本で大学院修士課程を終えたばかりです。
アイオワ州の公立高校で日本語日本文化を教える仕事でした。日本からの派遣という性格のポジションではなく、現地のプログラムによる、現地での採用の職でした。定員は10名。応募者は100名を超えていました。
全て英語による面接試験をパスして、採用されました。
赴任地はアイオワ州のスーシティー市の公立高校。
他に日本人教師も、日本人生徒もいません。
外国人講師のようなお客さん待遇ではなく、現地の臨時免許を交付されての、正採用待遇です。
特にスーシティー市では、アメリカ人教諭と同等の待遇をするというポリシーで接してくれたので、職員会議にも出ますし、保護者懇談もこなします。なんとアメリカの教職員組合にも入りました(笑)。
教科書の選定委員会の委員も務めました。
もちろん、全て英語、周りはアメリカ人ばかりです。普通のアメリカの公立高校で、普通の教師として働きます。教える科目が日本語・日本文化というだけです。
スーシティ市に到着して数日後、地元新聞のインタビューを受けました。
もちろん、英語です。
アメリカは地元新聞が全てですから、スーシティの世帯全てがその新聞をとっています。
初めての日本人教師の誕生なので、おそらく一面トップに載ることが予想されます。
アメリカの場合、新聞の表の面にテレビ欄はありませんから、片方の表の面が国内国際ニュースの一面記事、もう片方の面が、ローカルの一面記事となります。
いずれにしても、新聞の表面を飾る記事になります。
時は5月。アメリカでは夏休み中です。
新学年は9月から始まります。
生徒に会うのは4ヶ月後。
でも、私が赴任することはみんな知っています。
既に、生徒たちは、受講登録の予約もしているとのことでした。
この新聞記事を絶好のチャンスだと私は考えました。
子どもたちに、保護者の皆さんに、同僚たちに、そして、スーシティ市民全員に、自己紹介(自己PR)をし、私がなぜこの職に応募し、なぜはるばる日本からやってきたのかを伝える絶好のチャンスでした。
私が何を目指して教育するのかも伝えたいと思いました。
実は、インタビューの申し入れがあってから、インタビューまで約2時間ほどしかありませんでした。
新聞記者はもちろんアメリカ人。言葉は英語です。
どんな質問をされるのかは分かりません。
インタビューは1時間ほど続くと伝えられました。
その時の新聞記事の切り抜きがあります。ご覧ください。写真はまだ20代の頃の私です。
大学院を出て、社会人1ヶ月目の私です。
ぴかぴかの新米教師1年生です。
私の戦略はこうでした。
日本から来た初めての教師だが、日本の特殊性ばかり強調してはいけない。
ありのままの日本を知ってもらおう。1990年代においても、日本でもアメリカでも子どもはニンテンドーで遊んでいました。
日本にはサムライはもういません。ファストフードも人気です。
日本をサムライの国、ゲイシャの国ではなく、ありのままの日本として知ってもらい、日本のティーンエージャーの姿も知ってもらおうと考えました。
日本の良き文化や伝統は紹介しながらも、日本を不思議な東洋の国にしてはいけないと感じました。
ありのままの日本を伝えたかったのです。
だから、私はこんな話から始めました。
新聞の記事にも最初に引用されています。「日本からはるばるアイオワにやってきたので、ホームシックになることはあります。でも、そんなときには、マクドナルドかケンタッキーに出かけます。メニューや味は日本と同じですから。」
これはアメリカ人にはウケたようです。日本から来た教師が、ホームシックになったらマクドナルドに行く。だって、日本でもファストフードは人気ですから。同じ味を味わえますから。というこの語りは、戦略的に大成功でした。アメリカと日本の現代社会の相似性を一発で伝えることができました。
もちろん、全くメニューが同一ではないし、味も微妙に違うかもしれません。まあ、それはそれとして、大枠の話で、ということです。
これで私は、一気に、「得体の知れない東洋人」から、アメリカ人にも通じる sense of humorを持ったひとりの教員として認知してもらえました。この記事以来、ショッピングモールを歩くと、よく、市民の皆さんに話しかけられました(笑)。
先程のエピソードを語ったのち、私は、新聞記者に、私がアイオワの高校で、生徒たちに何を教えたいのか、どんなことを子どもたちに学んで欲しいのかを熱く語りました。新聞記事にもその要約を書いてくれています。
新聞記者からアメリカでしてみたいことは?と聞かれ、私はワシントンDCに言ってリンカーン記念館でゲティスバーグの演説を読みたいと答えました。
そして、私はアメリカの歴史に興味があること、言語はその国の歴史や文化に密接に結びついていることなどを語りました。
アメリカ人なら誰でも知っているゲティスバーグの演説の全文はワシントンDCのリンカーン像の台座に刻印されています。
アメリカ史の金字塔の一つであるその演説に興味があることを語ることで、言語と歴史・文化の密接な関係を私が重視していることを伝えたのです。
そして、インタビューは私の趣味の話に移りました。
趣味は映画やテレビドラマを見ることだと伝えました。
アメリカが誇る文化である、映画とドラマを見まくっている日本人教師の登場です。
その新聞記者より私のほうがアメリカの映画やドラマに詳しいくらいでした(笑)。
そこで、私は付け加えました。
日本からは日本のドラマの録画も持参していますと。(まだ、その頃はかさばるVHSのビデオテープでした。笑)
もちろん、時代劇も持ってきたと伝えました。時代劇、すなわち、Samurai Dramaはアメリカ人の興味をそそります。
既に私は、現代日本の生活は、サムライ生活ではないということをはっきりと述べていたので、ここで時代劇も文化教材として使うと言っても誤解はされないだろうと判断したからです。
アメリカの映画の古典と言えば、西部劇です。
私も西部劇が好きです。西部劇と言えば、偉大な俳優、ジョン・ウェイン。ジョン・ウェインはアイオワ州出身です。
私はわざとアイオワがジョン・ウェインの出身地だと知って感動しました!と言ってみました。
アイオワ州民の地元意識をくすぐってみたのです。
1時間のインタビューの翌日の新聞に、先程の新聞記事が掲載されました。
記事の中で Mr.KonoのEnglishは、almost letter perfect(ほとんど文字通りのパーフェクト)だと書いてもらったのがとても嬉しかったのを覚えています。
この記事によって私はアイオワの地方都市で教師としてデビューしました。
単なる外国人教師ではなく、志を持ち、アメリカを理解し、言語と歴史の関係を尊重し、そして何よりユーモアのセンスを持っている話せる教師として認めてもらいました。
以後、私はお客さん扱いされたことはありませんでした。
長々と自分の何十年も前の話を書いてしまいました(笑)。
ちょっと自画自賛が過ぎたかもしれませんが、私が言いたいのは次のことです。
自分を知ってもらい、相手に共感してもらい、自分の夢を叶えるには、表現力が必要です。
演出力が必要です。
そのためのバックグラウンドとなる知識や教養が必要です。
私は、教師に必要な演出力には3つあると述べました。
1.相手に興味関心を抱かせる発話力。
2.相手の心を見通して、相手の共感や感動を勝ち取る洞察力。
3.何が重要で何が目標かを相手に伝え理解させる力。
の3つです。
私は、20代の時のインタビューでもこの3つの力で勝負しました。
でも、実は、何十年も経った今になって思い出すと、あの時のインタビューでの私の英語も私の語りも、全然ダメだったと思います。
まだまだ若者の未熟な語りでした。でも、未経験な新米教師としては、未熟者なりに頑張ってみました(微笑)。
このお話を書きながら、今、私は、脂汗をかいています。
そのくらい、あのインタビューは今から思いだすと、反省すべきところはたくさんあります。
でも、あの時の私にはベストでした。全力で立ち向かったインタビューでした。20代の新米教師が精一杯、背伸びして語りました。
今となっては良い思い出です。下手な語りでしたが悔いはありません。自分の想いを自分の言葉で伝えられたと思っています。
教師を目指す若い方に申し上げたいのは、今から何十年か経ったときに、脂汗をかきながらでも、良い思い出だった、未熟だったけれど自分のベストを出したぞ!と思えるチャレンジを今して欲しいということです。
そのチャレンジのためには、自分を磨き、自分の表現力を高め、自分の演出力を高める必要があります。
自分が自分の中だけに籠っていては、チャレンジにはなりません。
自分を自分という殻から外に出し、相手の心を掴み、相手の心を動かすコミュニケーションを行ってほしいと願っています。
そんなコミュニケーションの機会の一つが、教採での面接、人物評価試験です。
表現力を持って、演出力を極めて、教採の面接にチャレンジして欲しいと思います。
二十数年後には脂汗が出るようなものかもしれませんが、今のあなたのベストを表現し、演出して欲しいと思います。
教採の場では、みんな未熟です。
ほとんどが未経験な若者です。それでも、それぞれのベストを尽くして表現・演出して欲しいと思います。その力は教師になって必要な力なのですから。そして、あなたのその力で教わりたい子どもがあなたを待っているのですから。
みなさんの自分の持っているものを総動員して、自分なりの最高の表現力・演出力を発揮して、教採に合格し、素晴らしい教育実践を進めていかれることを期待しています。
河野正夫
レトリカ教採学院