未来を信じて,未来に託して,今日の仕事に最善を尽くす。教育者は,未来のかけがえのない素敵な人々の幸せな人生を信じて,今日も,教育に打ち込んでいくのでしょう。

アメリカの教育学者,レオ・ブスカーリア博士は,こんな言葉を残しています。

教育は、自分がかけがえのない人間であることに誰もが気づくように、手助けをする手段であるべきです。

“Education should be the process of helping everyone to discover his uniqueness."

教師になろうと志している人は,皆さん,それぞれに,教育に対する想いがあることでしょう。

小学校教師を目指す人,

養護教諭を目指す人,

中学校・高等学校の各教科の教師を目指す人,

特別支援学校の教師を目指す人,

栄養教諭を目指す人,

志望する専門分野は違っても,それぞれ,教育への熱い想いがあることでしょう。

私は,過去18年間,教員採用試験対策講座を主催・担当してきました。

しばしば,合格のための戦略について語り,合格のための科学(サイエンス)について語ります。

でも,私の心の中には,教育への変わらない想いがあります。

教育が変われば,子供の未来が変わります。

子供の未来が変われば,未来の社会が変わります。

そして,目の前にいる子どもたちを含めて,未来に生きる人々の人生が変わります。

私も,教育者の一人として,この変わらない想いを,いつも大切にしています。

確かに,教員採用試験は,ライバル受験者との競争かもしれません。

ライバル受験者との競争には,戦略や科学が必要かもしれません。

教員採用試験に合格するとは,そんな競争に勝つということかもしれません。

確かに,私は,そんな競争に勝つための戦略や科学を伝授しています。

でも,私は,

教育が変われば,子供の未来が変わります。

子供の未来が変われば,未来の社会が変わります。

そして,目の前にいる子どもたちを含めて,未来に生きる人々の人生が変わります。

という私の想いを忘れたことはありません。

そして,レオ・ブスカーリア博士の言葉,

教育は、自分がかけがえのない人間であることに誰もが気づくように、手助けをする手段であるべきです。

“Education should be the process of helping everyone to discover his uniqueness."

を忘れたことはありません。

日本の学校現場は,画一的なところがあると言われます。

日本の学校現場は,子供に様々なことを校則や集団生活のルールとして,押し付けていると言われます。

日本の学校は,システムが硬直化していて,すぐには,何も変わらないと言われています。

それはそれで,事実なのかもしれません。

でも,教師になろうと志している人,いま,講師や臨採で教壇に立っている人,そして,教諭として教育に携わっている人の,一人一人が,「自分がかけがえのない人間であることに誰もが気づくように、手助けを」していけば,日本の画一的な学校現場も,少しずつ,変わっていくかもしれません。

教師になろうと志している人,いま,講師や臨採で教壇に立っている人,そして,教諭として教育に携わっている人の,一人一人が,「自分がかけがえのない人間であることに誰もが気づくように、手助けを」していけば,子供に価値観を一方的に押し付けることなく,子供の個性と自由を伸ばしていけるような学校現場も,少しずつ,創っていけるかもしれません。

教師になろうと志している人,いま,講師や臨採で教壇に立っている人,そして,教諭として教育に携わっている人の,一人一人が,「自分がかけがえのない人間であることに誰もが気づくように、手助けを」していけば,硬直化していると言われる日本の学校のシステムも,少しずつ,変えていけるかもしれません。

私は,そんな可能性を信じて,過去18年間,教員採用試験の対策講座を主催・担当してきました。

私が主催・担当する講座から羽ばたいていく教師の皆さんが,それぞれの情熱と信念によって,日本の学校現場に新しい息吹を吹き込み,学校現場が少しでも変わり,子供たちの明るい未来を少しでも変えていけば,きっと,より幸せな未来が訪れるはずだと信じています。

経済や,政治や,軍事などに比べれば,教育の力は,目に見える形で,瞬時に,物事を変えることはありません。

経済の力や,政治の力,軍事の力は,時に,物事を,一瞬にして,塗り替えることがあります。

でも,教育の力は,少しずつ,長い時間をかけて,子供たち一人一人に,未来を託します。

今日,小学校の教室で,ある教師が子供たちに投げかけた言葉が,子供たちの心に響き,そのことによって,子供たちが成長し,その成長のおかげで,その子供たちが,この社会の未来を大きく変えるとしても,今日,その小学校の教室で,その言葉を投げかけた教師は,未来が大きく変わるその未来の日を見ることはできないかもしれません。

ある教師が教えた子供が,将来,社会のリーダーとなり,社会を大きく前進させるような歴史的な偉業を成し遂げるとしても,その教師は,その子供がその偉業を成し遂げるときには,既に,この世に生きていないかもしれません。

教師になる人は,しばしば,子供を育むことを,植物を育てることに例えます。

種をまいて,水をやり,どんどん成長させれば,大きな花が咲き,美しい実がなる,という風に例えます。

教師は,種をまくことはできます。

教師は,水をやることはできます。

教師は,一定の期間,どんどん成長するのを見守ることもできます。

でも,その子供が,将来,社会で,大きく活躍し,もしかすると,私たちの未来,私たちの未来の社会を変えるような貢献をするとしても,その時には,もう,その教師は生きていないかもしれません。

教師は,多くの場合,教師の一生涯の中では,大きな花と美しい実を見ることができないかもしれません。

それでも,教師は,大きな花が咲き,美しい実がなることを信じて,種をまき,水をやり,成長を促します。

教育は,このくらい,長期的な視点で,子供を育んでいます。

ジョージ・ワシントンを教えた教師は,ワシントンがアメリカの初代大統領になるのを見たのでしょうか?

エイブラハム・リンカーンを教えた教師は,リンカーンがゲティスバーグ演説をしたとき,その演説を聞いたのでしょうか?

ジョー・バイデンは,78歳で,アメリカ大統領に就任しました。ジョー・バイデンを教えた教師は,バイデンの大統領就任式を見たのでしょうか?

もしかしたら,これらの歴史的イベントを見ることができた幸運な恩師もいたかもしれませんが,多くは,この世を去っていたことでしょう。

教師は,自分の教育の本当の成果を見ることなく,この世を去る運命にあることが多いものです。

それでも,教師は,見ることは叶わないかもしれない未来を信じて,その未来を子供たちに託すために,日々,教育を続けます。

そんなことを考えていたら,20年ほど前,友人と,アメリカのカリフォルニアのナパ・バレーのワインやブランデーの醸造所を見学に行った時のことを思い出しました。

あるブランデー醸造所で,そこの60歳くらいのブランデー醸造職人さんが,自分が仕込んだ最高級のブランデーの樽が並んでいる貯蔵室のなかで,私たち,見学者に,こんなことを語ってくれました。

「この樽の中のブランデーは,この醸造所,そして,私が,自信をもっておすすめできる最高級のブランデーになります。いまから,約50年間,ここで,熟成させて,50年後に,提供を開始します。私は,いま,ご覧の通りの年齢ですので,私がこのブランデーを50年後に飲むことはないでしょう。でも,私は,このブランデーを仕込み,ここで熟成させ,50年後に提供できることに誇りを持っています。最高の仕事をしたと思っています。」

そう語りながら,そのブランで醸造職人さんは,20年前のまだ若かった,私と私の友人の方を見て,微笑みながら,続けました。

「今日の見学者の皆さんの中には,お若い方もいらっしゃるようです。このブランデーの味見を,50年後にお任せします。50年後に,これは美味しい!と言っていただけることを信じて,明日からも,また,新たなブランデーの醸造を続けて,未来に残すブランデーをつくっていきます。」

それを聞いて,私は,教育と似ているなと思いました。

醸造職人が心を込めて,精魂込めて,丁寧に,愛情いっぱいにつくったブランデーが,50年後に樽から開けられるときには,その醸造職人は,この世を去っていることでしょう。

50年後の人々が,そのブランデーを美味しく飲んでいる姿を信じながら,また,新たなブランデーの醸造に取り組む,そして,その新たなブランデーも,もっと未来にしか樽からは開けられないとわかっていても。

未来を信じて,未来に託して,今日の仕事に最善を尽くす,教育と同じだなと思いました。

醸造職人が,自分がこの世を去った未来の世の中に,かけがえもなく美味しいブランデー残す仕事をしているように,教育者もまた,自分がこの世を去った未来の世の中に,かけがえのない素敵な人々の幸せな人生を信じて,今日からも,教育に打ち込んでいくのでしょう。


河野正夫


追記:20年前に,醸造職人さんに,「お若い方,50年後に味見をお任せします!」と言われたということは,あと30年は生きなければ,約束は果たせません。あと30年生きて,あの醸造職人さんとの約束を果たしたいものです。約束を果たして,「これは美味しい!」と言うことが,その時には,この世にいない醸造職人さんへの最高の言葉になるでしょうから。


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