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「ヴィジュアル系は音楽ジャンルじゃない」に俺だけが異を唱えている

Photo by Laika Notebook

「ヴィジュアル系は音楽ジャンルではない」という説があります。

ファンレベルでは共通認識としてあったものの、長くはっきり言語化はされていなかったような気がします。それがメディア上でちょくちょく聞くようになったきっかけは、2017年10月8日に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』の「関ジャム音楽史~ヴィジュアル系編~」での、ゴールデンボンバーの鬼龍院氏による「ヴィジュアル系は音楽ジャンルではなく、文化的要素が強い」発言だと思われます。YOSHIKI氏も2021年6月に行われたYOSHIKI CHANNELでのDAIGO氏との対談で同様の発言をしています。キズの来夢氏は2018年のインタビューで「ヴィジュアル系と言ってもいま、ジャンルとして確立できていないと思うんですよ」と言っています。また、2022年に発売された冬将軍氏の『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』 (星海社新書)でも「ヴィジュアル系は音楽ジャンルを指す言葉ではない」(3ページ, Kindle)と断言されています。

たしかに納得できる話です。ヴィジュアル系には、数多くの既存の音楽ジャンルに類する曲があります。たとえばiCONEとJILUKAの任意の曲を聴いて「同じ音楽ジャンルですね」と即断できる人物はいない。既存の音楽ジャンルを多数抱えており、特定の音楽形式で包括できない=音楽ジャンルではない、といわれているわけです。私もそう書いたことがある気がします。

ゴミクズ / iCONE feat.cyber milk

JILUKA - KUMARI (Official Music Video)

しかし最近おもったのです。「既存の音楽ジャンルを多数抱えているから音楽ジャンルではない」というのは、果たして正しいのでしょうか?

──これは、音楽ジャンル一覧を眺めては「世の中は広いぜ……」と感嘆する音楽ジャンル愛好家が、聡明たる識者たちが「そうじゃない」と言っているものを、わざわざ重箱の隅をつつくようにほじくる劣勢物語である。

グラミー賞でみる「ジャンル」

王道のやり方ならここで「ジャンルとはそもそもなんなのか」と辞典の一冊でも引くのでしょうが、その先には底なし沼しかみえないので、てっとり早く具体例としてグラミー賞のジャンルをみてみましょう。

  • Pop

  • Dance/Electronic

  • Contemporary Instrumental

  • Rock

  • Alternative

  • R&B

  • Rap

  • Country

  • New Age

  • Jazz

  • Gospel/Contemporary Christian Music

  • Latin

  • American Roots

  • Reggae

  • Global Music

  • Children's

  • Spoken Word

  • Comedy

  • Musical Theatre

  • Music for Visual Media

  • Classical

このうち、Children'sは明らかに音楽的共通点による分類ではありません。子供向け番組では、かわいらしいポップなシンセ・ポップが演奏されることもあれば、スピードメタルが演奏されることもあります。「ヴィジュアル系は音楽ジャンルではない」の論理にしたがえば「Children'sは音楽ジャンルではない」になるわけですが、グラミー賞は音楽ジャンルだとしています。

というわけで、グラミー賞的な基準でいえば「幅広い音楽性を内包しているから→ヴィジュアル系は音楽ジャンルではない」というこの論理展開は成り立たないといえます。

とはいえ、そもそもChildren'sは音楽ジャンルなのか?という疑問は残ります。実際、Wikipedia(English)のChildren's Musicの定義は「子供のために作曲され、演奏される音楽」であり、音楽ジャンルとはされていません。それに、グラミー賞のジャンル定義は批判のマトになっているシロモノです。Apple Musicにも同様のカテゴリーはありますが、それを音楽ジャンルとしていいかはまた議論の余地があるでしょう。

では、ここで世間的に認められている音楽ジャンルを引き合いに出してみましょう。

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