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2010全日本選手権~高校生(女子⑤)

☆矢﨑ほの香(伊那西高校)

矢崎ほの香といえば、「ピンクパンサー」! と思う私は、つまりかなり年をとっているということだろう(苦笑)。
ピンクパンサーのあの有名な曲にのって踊る、チャイルドのころの矢崎は、本当に輝いていた。新体操的な能力も高かったが、なんと言ってもその弾むような動きのキレがすばらしく、曲をそのまま動きで表現することのできる稀有な才能の持ち主が現れた! と思ったものだ。
チャイルドを卒業してジュニアになってからも、しっかり全日本には出てくる選手に、彼女は成長した。しかし、チャイルドのころのあの輝きは影をひそめているような、少しそんな印象があった。

中澤

今年のユースチャンピオンシップで、矢崎のリボンの演技を見たときに、「ああ、やっと戻ってきた!」と感じ、涙が出てしまった。今年の矢崎の演技は、チャイルドのころの、あの五線譜の上で踊っているような動きを取り戻していた。そう、難度も手具操作も表現もと欲張る今の新体操は、完成度を上げるのに時間がかかるのだ。
矢崎は、なまじチャイルドで完成度の高い演技を見せていたため、手具をもってからの演技との間に落差が感じられる時期が続いてしまっていたように思う。その間、おそらく本人にも「自分がやろうとしている演技はこうじゃない!」というジレンマもあったと思う。自分で自分にがっかりしたことも少なくなかったんじゃないだろうか。
だけど、彼女は粘り強く努力し続けた、周りに支えもあっただろう。その結果、「ああ、そうだ。これが矢崎ほの香だ」と思える演技を取り戻したのだ。長くかかったようでも、まだ高校2年生。これからいくらでも、彼女らしい表現を追究する時間はある。

☆宮本枝実(流通経済大付属柏高校)

「クールな選手」という印象を、私は彼女に持っていた。能力は高いし、難しい投げ受けにも果敢に挑戦している、それも表情ひとつ変えずに(苦笑)。それが宮本枝実に対する印象だった。じつにアスリートらしいが、表現者という感じではない。彼女が所属する飛行船新体操クラブにはアーティスティックな選手が多かっただけに、ちょっと異色? ジュニアの最後のほうになってぐぐっと伸びてきた彼女のことを、私はそんな風に思っていた。

中澤

その印象が変わったのは、2009年の全日本ジュニアだった。フープとクラブで大崩れして、23位。よかった種目の点数を見ると、10位以内くらいにはきてもおかしくなかっただけに、この崩れ方にはちょっと驚いた。と同時に、「いいな」と思ったのだ。「ここぞ!」というときに、まさかのミスをしてしまう、そういう弱さをもっているようには見えなかった彼女が、まだまだジュニアだったんだと、思えて。ぐぐっと応援したい気持ちになったのだ。
そして、高校生になった今年は、ユースチャンピオンシップで18位。オールジャパンの切符を手にした。先日の千葉国体では優勝した千葉選抜チームの一員としても活躍、イオンカップにも出場した。1年前のあの苦い思いをしっかり糧にした彼女の今の演技には、味わいと表情が出てきた。苦い思いを乗り越えても、新体操で実現したいなにかがある、そのことを自分でも確認するための、1年前の悪夢だったのだろう。来年3月の高校選抜大会への出場も決まったと聞いている。これからが、本当に楽しみな選手だ。

☆足立明穂(常葉学園高校)

この選手が最初に目についたのは、クラブ選手権にジュニアで出場していたときだった。ジュニアのフロアは私が見ていた位置からは、とても見づらいのだが、それでも目につくくらいいい動きをしていた。一緒に見ていたAさん(このころは一緒に女子を見ていた)も、「すごいね、この子はいいよね」と言っていたのを覚えている。

中澤

当時は小柄な印象ではあったが、大人っぽい雰囲気もあり、シニアになってからが楽しみな選手という感じだった。激戦区・静岡にいて、なかなか思うようには上がってこれない状況もあるようだが、それでも今年はユースチャンピオンシップでオールジャパンの出場権を獲得、クラブ選手権でもシニア16位になっている。
今回掲載した写真を見て驚いたのだが、こんなに大人びた雰囲気の選手に成長していたとは…。能力の高さで目をひいたジュニアのころとはひと味違ったシニアらしい演技を期待したい。
                                  

☆恒川 愛(愛知県立新川高校)

恒川愛は、クラブチャイルド選手権と同時開催されているキッズコンテスト(1・2年生の部)の入賞常連選手だった。その演技は、たしかに巧みだった。小学校低学年とは思えないキレのいい動きで、フロアをいきいきと動き回り、表情豊かにアピールする。あのころの恒川愛は、まさに「名子役」という感じだった。
そして、名子役が名優になる例が少ないのと同じように、彼女もジュニア期をどう過ごしていくか、どんなシニア選手になるのかといえばやや不安? そんなことも思ってしまったものだ。

中澤

しかし。そんな思いは杞憂に終わった。ジュニアの最後の年あたりから、恒川愛はじつにチャーミングな選手として頭角を現してきた。キッズのころの踊り心はそのままに、しっかり技術も身につけて。ほかの人がやらないような手具操作にも挑戦し、そして、キラキラ輝くような華のある演技を見せてくれた。シニアになってもその「よさ」は変わらない。
彼女が所属するチェルシーの選手たちは、今、ジュニアにいる古井里奈にしても、大先輩である青木玲奈にしても、とても自己肯定感のある演技をする。「踊っている自分が大好き!」「踊っている自分を見てもらうのが大好き!」そんな感じが伝わってくる。恒川愛には、その自己肯定感を失わないまま、この先も「キラキラ」した演技を見せてほしい。

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。