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2010全日本クラブ団体選手権②

週末にはイオンカップを3日間フル観戦してきました。海外のトップ選手の演技を生で見るのは、昨年の世界選手権以来! これが予想以上にすばらしくて。久々に掛け値なしの感動をすることができました。

こちらの「新体操研究所」では、男子新体操を取り上げる率が高いのですが、今回のイオンカップを見て、「女子の新体操もやっぱりいいなあ~。そしてこれからもっとよくなるんじゃないかなあ」という気分になることができました。

今回のイオンカップで私が感動した演技は、どれも音楽と演技がよくマッチしていて、たった1分半の中で「描こうとしている世界」が伝わってくるものだったように思います。
同じ選手なのですから、技術や身体能力に変わりはないのに、種目によって(音楽によって)受ける印象はまったく違います。たとえば優勝したカナエワ(ロシア)。彼女の技術が世界一なのは疑う余地もありません。が、今回の4種目の中では、技術的にはいちばん見せ場の多いロープが、私にとってはいちばん「つまらない」演技でした。ほかの3種目、とくにフープは芸術点満点が出るほどすばらしかったし、リボンも昨年の「きれいなだけ演技(と私は思ってしまったのです)」から見事に脱皮していました。それだけに、ロープだけは、「かわいくてすごいだけ演技(失礼!)」のままだったように私は感じてしまったのです。

その違いは音楽であり、世界観ではないかなと後になって考えました。たった1分半だけど、いや1分半だからこそ、「伝えたいこと」がイメージしやすい音楽を選ぶことって大切なんじゃないかと。

難しいことをミスなく実施する。
減点されないように美しく実施する。
いい演技に見える音楽で踊る。

それだけではなく。
受け取る側(見る側)の感性に訴えるなにかがある演技、それが人を感動させるのではないかと、そんな風に思ったイオンカップでした。と、前置きが長くなりましたが、そういう意味で、クラブ団体選手権で、私の印象に残ったチーム(演技)があったので、紹介しておきます。

「可憐」 ~みなみ新体操クラブ(愛知県)

 みなみ新体操クラブは、この大会で14位でした。立派な成績ですが、表彰台にのるほどではありません。しかし、この日の演技は、やけに私の心をとらえました。
 あれはなんだったのかな、と思います。
 その正体はよくわからないのですが、とても「さわやか」でした。そして、見ていて思わず笑顔になってしまう「幸せな演技」でした。

 愛知県にあるみなみ新体操クラブは、激戦区である東海ブロックのため、この団体チームは全日本ジュニアには出場できないそうです。だから、おそらくこのクラブ団体選手権が、このメンバーでの最後の演技だったのかもしれません。
 私が感じた「さわやかさ」は、これで最後、という選手たちの気持ちが伝わってきたのかもしれません。でも、おそらくそれだけではなく、使用曲と選手たちの雰囲気、そして演技が非常にマッチしていた所以ではないかと、そう思うのです。

みなみ2


ジュニア14位●みなみ新体操クラブ(杉本早裕吏・佐合明音・萩永まりな・小笠原翠・高井彩音・上片平華奈・牧野秀香)

 曲はヨハン・シュトラウスの「常動曲」。たしかなにかのバレエでも使われているのではないかと思いますが、ばりばりのクラッシックで、流れるような旋律がとても美しい曲です。
 ヨハン・シュトラウスだけあって、いかにも「舞踏会」のような華やかな雰囲気の曲で、その華やかな曲にのって、踊る赤いレオタードの選手たちの初々しさが、まさに「はじめての舞踏会」のように私には見えたのです。13メートル四方のフロアマットが舞踏会の会場のよう、でした。
 まだ技術的には未熟さも残るジュニア選手、どうやってもミスの出やすいリボン×5団体、ということで、この演技は、非常に「無理してない」という印象を持ちました。それだけに、この年齢の選手たちのもつ初々しさやさわやかさ、可憐さが音楽ともあいまって際立っていた。
 だから、この演技が私の心には強く残ったのだろうと思います。いろいろなタイミングがぴたっと合ったときに、こういう珠玉の演技が見られることがあります。それが、私には新体操を見る楽しみになっています。
 14、15歳まで新体操を続けていれば、つらいことも少なくなかっただろうと思います。だけど、この日、この演技をしている瞬間、彼女たちはとても幸せそうでした。「新体操をやっている自分が好き」に見えました。その幸せオーラが、見ている人のことも幸せにしてくれました。
 とてもステキな演技だったと思います。

みなみ1


「創意工夫」 ~アミューズ新体操クラブ(千葉県)

さて、この週末には「全日本ジュニア」が行われます。
女子も男子も、団体は19チームが出場し、熱い戦いが繰り広げられますが、クラブ団体選手でも活躍していたチームで、全日本ジュニアでもぜひ頑張ってほしいな~と思っているチームをご紹介したいと思います。

新体操強豪県・千葉県から勝ち進んできたアミューズ新体操クラブです。クラブ団体選手権でも4位。全日本ジュニアの団体の常連でもあるアミューズ新体操クラブですが、私はここの団体演技、とても好きなんです。


アミューズ新体操クラブの団体を私が初めて意識したのは、2004年の関東ジュニアだったと思います。当時はボール団体だったのですが、とにかくよく揃っていて、気持ちのいい演技だった。そう記憶しています。
その後、ボールからクラブに変わっても、アミューズの団体はいつもとても創意工夫を感じさせる演技を見せてくれました。クラブでは、どこもやっていないような連係に挑戦していたり、それでいて、同調性がとてもある演技なんです。
さらに、選手たちが明るい。演技中の笑顔がとてもいい。
だから、アミューズの演技は見ていて気持ちがいいんだと思います。もちろん、能力も高いです。難しいことにも挑戦しています。だけど、そういうことよりも、「みんなで力を合わせて頑張っている」という団体ならではの魅力が強く感じられるのがアミューズの団体のよさだと、私は思っています。

アミューズ


アミューズの発表会を何回か見たことがありますが、そんなアミューズ新体操クラブのよさが感じられる発表会でした。多くの子ども達が小さいころから新体操を始めて、その年齢相応、その子の意欲や能力相応にきちんと成長していける、そんな雰囲気のあるクラブだと発表会を見ていて感じたのです。このクラブ全体の一体感が、団体の演技にも出ているのだろうな、とも感じました。
そんなクラブだから、団体の選手になったときの子ども達のモチベーションはおそらく高いんだろうと思います。よい成績をとる、ということではなく、仲間といっしょに「演技を作り上げる」ということへの意欲があるのだろうと思います。
だから、アミューズの団体には、一体感があり、いい意味での自己肯定感に満ちています。クラブ団体で見た、今年のリボン団体は、かなり大人っぽい雰囲気もあり、アミューズの団体としてはちょっと新しい一面を見せてくれていたように感じました。しかし、それでも元気いっぱい、笑顔いっぱいなアミューズらしさは健在でした。そして、今年もまた凝った連係なども見せてくれていたし、リボンのかきも力強く、よくそろっていました。
「団体のアミューズ」と言ってもよいかな? と思うくらい、コンスタントに強い団体を育ててくるアミューズ新体操クラブの今年の演技にぜひ期待したいです。

アミュ2

ジュニア4位●アミューズ新体操クラブ(岩谷ちさと・舘内冴・舘内萌・小田七菜子・根本愛・小松崎仁美・鈴木由唯)


「旋律」 ~舞エンジェルスRG(長野県)

舞エンジェルスは、昨年のクラブ団体選手権で、ジュニア優勝をしています。それが、今年は15位。数字だけを見れば、「下がった」ということになります。
昨年の舞エンジェルスの団体チームはほとんどが中3でしたから、大幅にメンバーが変わっていることの影響はもちろんあると思います。さらに今大会ではミスもありました。だから、15位。まあ、妥当な成績かなと思います。
舞エンジェルスは、ここ数年、私にとってかなり好きなチームです。好きだな、いいな、と思ってからの数年で、成績もぐんぐん伸びてきて、去年はクラブ団体で優勝、全日本ジュニアや全中でも、常に上位にいるチームになってきていました。自分が「いいな」と思っていたチームがみんなに認められ、結果も出していくのは本当に嬉しいです。ここ数年の舞エンジェルスにはそういう喜びを、私はたくさんいただきました。

で、今年です。昨年は優勝、今年は15位。数字だけ見れば「ガッカリ!」でしょうか? 私はそうは思いませんでした。
私にとって、好きなチームは好きなチーム、好きな演技は好きなんです。結果がついてくればそれはまあ、嬉しいですが、結果が目指したところまでいけなかったとしても、それは単に「結果だけ」の話です。

舞エンジェルスの演技を見て思ったのは、「こんなこともあるさ」だけでした。たとえ15位でも、舞エンジェルスの演技は、今年も私には十分魅力的でした。相変わらず凝った連係もあり(入りの技は要注目!)、曲とよく合った演技は、新体操の演技を見ているということを忘れさせてくれました。私がこの演技から感じたのは「祈り」の空気でした。何かに対する強い思い、でも、その強さを覆い隠して、戦うのではなく祈り続ける、そんな静かな強さを感じたのです。
ミスが出れば、順位や点数は下がるのは当然です。でも、こうやってなにかを感じさせる演技を見せてくれるから、私は舞エンの演技が好きなんです。この「舞エンらしさ」を失わない演技をしてくれれば、私は(!)満足なんです。
全日本ジュニアにもこまを進めてきた舞エンジェルス。頑張っている選手たちのためには、結果もよければいいと願わずにはいられませんが、私はもうこの演技がもう一度見られることがただ嬉しくて、とにかく楽しみでなりません。
勝つためではなく、描こうとしている世界の綻びを大きくしないためにだけ、ミスは少ないほうがいいと思うけれど。ミスをこわがってのびやかさがなくなったり表現が小さくなるよりは、全日本ジュニアでも舞エンジェルスらしい「世界」をしっかり見せてほしいと期待しています。

舞エンジュニア


ジュニア15位●舞エンジェルスRG(米山彩花・矢澤愛・河野彩音・福澤はるか・川島明菜・福澤有紀)

どうして私がこんなにも舞エンジェルスの演技が好きなのかというと、おそらくそれは「旋律」がきこえてくる演技だから、なんだろうと思います。音楽に意味があるように感じられる動きであり、演技だから。
そして、そこには旋律にのせた「なにか」が描き出されているから。
選手たちがその「世界」にしっかり入り込んで演技しているのがわかるから。だから、舞エンジェルスの演技が好きなんです。
それは、勝ち負けや成績などよりもずっと価値のあるものだと思うし、一度勝ち始めたチームだからこそ、そこを守るのは難しいと思います。誰だって勝ちの味を覚えたら負けたくはないでしょうから。「このほうが勝ちに近い?」と考えてもおかしくない。だけど、舞エンジェルスにはそういうチームにはなってほしくないというのが私のわがままな願いです。

大きくメンバーが変わった今年、昨年までの成績はいささかプレッシャーになるかもしれません。でも、私は(私は、ですが)、「いつも強い舞エンジェルス」なんて求めていません。いつも「舞エンジェルスらしく」あってほしいとだけ願っています。
全日本ジュニア、舞エンジェルスの選手たちの奏でる旋律に、酔わせてほしい! そう祈っています。

舞エンシニア

シニア10位●舞エンジェルスRG(唐澤紗季・小原恵・山崎真緒・新井彩夏・大沼利佳・矢澤優)

舞エンジェルス第一世代ともいえる選手たちは、シニア団体で出場していました。こちらもミスもあり、10位という結果でしたが、スリリングでドキドキするような演技でした。やっぱり、好きです。こういう演技。高校生になっても舞エンジェルスで新体操を続けることを選んだ子ども達が、これからどんなステキなシニア選手に育っていくのか、楽しみにしていたいと思わせるチームでした。


「鉄壁」 ~サンシャインRG(愛知県)

サンシャインRGは、今回のクラブ団体選手権で、1位のすみれRGとは僅差の2位でした。昨年の全日本ジュニアでも、1~2位とも僅差の3位。リボン団体になってからのサンシャインRGは本当に強い! 私はそういう印象をもっています。

サンシャインRGは、もともと強いクラブではありました。私はそう認識しています。記憶に新しいところでは2004年のボール団体で全日本ジュニアに出場していたし、個人でもいい選手が育っているクラブという印象はもっています。が、なにしろレベルの高い東海地区なだけに、全日本の常連というわけにはいかない、そんなチームだったと思います。

そのサンシャインRGが、リボン団体1年目となった2009年、全日本ジュニアに出場した際の演技を、じつは私はあまりよく覚えていませんでした。このとき、サンシャインRGの試技順は、19チーム中の16番目。かなりおわりのほうでした。リボン団体1年目とあって、この大会はミスをするチームが多く、その時間帯には私はすでにかなり観戦疲れしていて、すこし気が抜けたままサンシャインRGの演技を見ていたと思います。

ところが…。

とにかくミスするチームが続出していたので、私の観戦メモには、「落下」「からまり」などという文字が多く書かれていたのですが、サンシャインの演技は、あれよあれよという間に2分半が終わってしまった。そんな印象だったのです。曲が、リボン団体ではよく使われている「カルメン」だったため、すこしばかり「またか」という印象があったことは否めません。しかしそれにしても、サンシャインRGの演技は、「あっという間」でした。ミスをメモすることが多かった大会なのに、メモがほとんどとれなかった。それが1年前の全ジュニでのサンシャインRGの演技でした。

サン2

「覚えていない」なんて大変失礼な表現だとは思うのですが、去年の全日本ジュニアで、大きな破たんなく、スピーディーな演技を駆け抜けるように演じきり、おわってみれば「もしかして今のすごかった?」と感じさせる演技、でした。

努力して、努力してきたからこそたどりつけた全日本ジュニアの舞台なのに、それでもやっぱりミスが出てしまう。それがリボン団体だな、と思いながら1年前の全日本ジュニアを、私は見ていました。
普段は出ないのだろうミスに泣いているチームがたくさんありました。そんななか、サンシャインRGは、さらっと涼しい顔で完成度の高い演技を見せてくれました。あまりの完成度の高さに、ハラハラドキドキすることもなく、さらりと見ることができてしまった。そのせいで「あまり記憶には残っていなかった」・・・そんな演技でした。


今回のクラブ団体では、その巧さを改めて確認しようと、われながらものすごい集中力で見ていました。(なにしろ試技順も6番と早かったので気力・体力ともに超・充実していました)

じっくり見て、じっくり検証した結果・・・。

やっぱりうまい! うますぎる!

という感想をもちました。
上位にくるチームには当然要求される「交換の確実性」は、このうえなし。移動もほとんどないし、多少のコントロールミスがあっても反応が早くミスにしない。そして、なんと言ってもリボン操作の巧さが、半端ない! かきが力強く安定しているのはもちろんのこと、リボンの動かし方を途中で変えるときに、その変えるタイミングなども驚くほどそろっているんです。変化もとてもきれいに見せていて、隅々まで神経のいき届いた演技、と感じました。
あまりのリボン巧者ぶりに、私は、もしかしたらこのチームはリボン団体を狙って何年も前からリボンだけとくに強化してきたのではないかしら? などと考えていたのですが、さすがにそうではないらしく、おそらく他のチームもそうだったように、リボン団体に変わって新しいチームを組んでから、交換もやったことのないところからのスタートだったのだそうです。

サン3

それでここまでこれるのか?

それもまた驚きです。いったいどれほどの強い意思をもって、どれほどの時間、どれほどのエネルギーで練習をしてきたのだろうと驚嘆せずにはいられません。指導する側にも、ついてきた子ども達にも感服するばかりです。

そして思うのは、「東海地区の強さ」です。「このくらいでいいだろう」「無難にまとめておこう」では勝ち抜けない東海地区にいてこそ、この妥協のない演技にたどりつけたのではないかと。
厳しい地区にいると、「勝ち」が手にできない時期も長くなりがちです。こんなに練習しても勝てない! そういう経験は、選手をくさらせ、親からの不満も出やすくします。どうせ勝てないんだったら、こんなに頑張る意味がない、そう思う人が出てきても不思議はありません。

それでも。
それでも頑張ってきたから、得られたもの、を見せてもらった。
そう思います。

リボン団体では、「カルメン」を使っているチームがとても多かったので、いささか食傷気味ではありますが、このサンシャインの演技を見ると、まさに「カルメン」がふさわしいと思えます。
ドラマチックな「カルメン」に曲負けしないところまで、磨きあげてきたこの作品を、全日本ジュニアの舞台でぜひやりきってほしいです。

サンシャイン

ジュニア2位●サンシャインRG(鈴木志帆・山下千秋・澤井愛実・上大田好花・中村咲穂・竹内真子)

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20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。