見出し画像

2012三上真穂(東京女子体育大学1年)

「爽快」

東日本インカレ初日、三上真穂の1種目目・フープの演技を見たときに、「これ、優勝しちゃうんじゃないのか」と思った。一緒に観戦していた仲間も、「この安定感はただごとじゃない」と言っていた。

そして、彼女は本当に、優勝してしまった。

大学1年生、初めての東日本インカレでの鮮烈デビューだった。


三上は、ジュニア時代から活躍していた選手ではあるが、個人での頂点にはあまり縁のない選手だった。
中3のときの全日本ジュニアでは4位、ユースチャンピオンシップでも12位(2008年)、4位(2010年)、7位(2011年)。
だからこそ、昨年のインターハイで優勝したとき、そのあまりにも嬉しそうな笑顔が印象的だったのだ。

安達新体操クラブ出身の三上のことを、昨年現役引退した日高舞は、「妹みたいな存在」という。だから、というわけではないだろうが、三上の演技には、日高舞のDNAを感じる。

そのダイナミックさ、その安定感。そして、強さ、にだ。

そして、なんと言っても、演技が決まったときの爽快感は、日高舞に通じるものがある。

画像1

私に「三上優勝」を予感させたフープの演技には、3回前転キャッチが入っていたが、彼女がやると、まったく難しそうに見えないからおそれいる。3回前転したあとでもしっかり落ちてくるフープを見てから取るだけの余裕があるのだ。4回前転キャッチもやろうと思えばできるんだろうな。そんな風に見える。

リスクだけでなく、ひとつひとつの難度も、「なんとかやれた」ではなく、必要なだけ止まったり、回ったりしたあとに、念押しするくらいの確実性がある。パンシェターンなどは、回り終わったあとに、ことさらきっちりとパンシェの形を見せてから止まって見せる念の入れようだ。

自分の体をコントロールする力がずば抜けているのと思う。
また、瞬時の判断力。対応力。それも優れている。

いきなりの優勝は、プレッシャーになりはしないかと少しばかり心配もあるが、多分、大丈夫だろう。
彼女の演技には、まだまだ余力が感じられるから。

「優勝したからこれでよし」でもなく、「いきなりすべて出し切ってしまってこれからどうしよう」でもなく、これからの4年間でもっともっと成長できそうな自分の可能性を確認できた大会だった、のではないだろうか。

「日本代表」という冠を戴けるのは、長身でモデル体型の人だけ、という今の日本の新体操界で、「国際規格ではない」かもしれないが魅力的! と思える選手が増えていくことが、日本の新体操が衰退しないためには必須だと思うのだ。たとえ五輪出場やメダル獲得から遠ざかっていたとしても、国内で活躍する選手たちが輝いていれば、あとに続く子ども達は、十分夢がもてると思う。

三上真穂のような、爽快感あふれる演技を見せる選手がいたり、山脇麻衣のような女優がいたり、宿谷あゆみのような技師がいたり。いろいろな選手がいろいろな個性を見せてくれることで、どんな子どもにも輝ける可能性がある、と気づいてもらえると思うのだ。

国際大会で活躍できなければ価値がない、なんてことは絶対にない。
そのための強化がされなくなったとしても、新体操がなくなるわけではない! 廃れるわけではない! そう思わせてくれる「希望」になるのは、こうしてインカレやインターハイなどで精一杯花を咲かせている選手達だ。

三上真穂は、その「希望」の筆頭になった。
まだ1年生なのだから、ずっと筆頭を背負う必要もない。だが、彼女のようなタイプの選手の活躍が、多くの後進たちに希望を与えるんだということを忘れずに、これからもスカッとする演技を見せてほしい。

あなたが、日高舞から受け取ってきたGIFTを、今度は、あなたが与える側になるのだから。

<「新体操研究所」Back Number>

20年近くほぼ持ち出しで新体操の情報発信を続けてきました。サポートいただけたら、きっとそれはすぐに取材費につぎ込みます(笑)。