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【感想】「体育館の殺人」(著:青崎有吾)

概要

 ダ・ヴィンチ2024年1月号に掲載されていた記事「[令和版]解体全書 第8回 小川哲」にて、小川さんが最近読んで面白かった本として本作著者 青崎有吾さんの「11文字の檻」を紹介しており、それで青崎さんを知りました。「11文字の檻」が自分の好みで、デビュー作の本作も面白いと話題(帯には「伝説のデビュー作」との謳い文句)だったため、手に取ってみました。後に「裏染天馬シリーズ」としてシリーズ化される第1作でもあります。

“平成のエラリー・クイーン”衝撃のデビュー作。第22回鮎川哲也賞受賞作。

風ヶ丘高校の旧体育館で、放送部部長の少年が何者かに刺殺された。放課直後で激しい雨が降り、現場は密室状態だった!? 早めに授業が終わり現場体育館にいた唯一の人物、女子卓球部の部長の犯行だと、警察は決めてかかるが……。死体発見現場にいあわせた卓球部員・柚乃は、嫌疑をかけられた部長のために、学内随一の天才と呼ばれている裏染天馬に真相の解明を頼んだ。内緒で校内に暮らしているという、アニメオタクの駄目人間に――。しかしなぜ彼は校内に住んでいるのだろう? “平成のエラリー・クイーン”が単行本版より大幅改稿で読者に挑戦!

Amazon概要欄より引用

感想

本格推理小説(「読者への挑戦」あり)

 私にとっての本作の特徴は、なんといっても、解決編の前に「読者への挑戦」があること。作者から読者に対して、犯人が分かるもんなら推理してみろというまさに「挑戦」であるとともに、それまでの章で犯人を特定可能なすべての情報が読者(および探偵)に提示されている(ミステリでいうところの「フェアプレイ」)という作者の宣言でもあるから、ミステリとしての面白さに加えて、フェアさの要求もかなり高くなります。じっさい作者はかなり気を遣うし、自分が作者だったらできることなら入れたくないと思うかも。
 この「読者への挑戦」、これまで(個人的体感として)古典~数十年前の新本格あたりまでは割と見かけることがあったのですが、最近の作品であるのはかなり珍しいので、こういう作品があるのは単純に嬉しいです(といっても、本作単行本発売日が2012年なので、最近とはいっても10年前の作品だけど。)。

ロジックを積み重ねていく推理

 本作の探偵・裏染天馬は、ひたすらロジックを積み重ねていく推理スタイルで、そこにも自分は好感を持ちました。解決編では、情況証拠から犯人の人物像の条件を設定していき、それによって、犯人を絞り込んでいくのですが、一つ一つの条件設定のための検証が緻密になされるし、その検討材料を集めるための裏染の言動が「読者への挑戦」前にちりばめられており、しっかり考えたら自分も解けたのではないか(「挑戦」があるのが嬉しいといいつつ、先が気になってスルーしました。。)と思わせられるのも絶妙なバランスだと思いました。犯人当てがあまりに無理筋だとそれはそれで白けるので。

登場人物は若干ステレオタイプ

 唯一、登場人物たちのキャラクターはちょっとステレオタイプかなというのが気になった点で、特に、アニメオタクという設定の探偵・裏染天馬がちょくちょく出すアニメ小ネタは、ちょっとしつこいかなという気もしました。とはいえ、それによってライトな読書感になっているので、普段推理小説を読まない人にとってもとっつきやすいのかもしれません。

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