青い春、君を追いかける。

プロローグ

静寂。
弦を引く音が微かに聞こえる。ミシミシと音を立てる。
ピタッと音が止み、再び静寂が訪れる。
後方でパシュっと音が鳴った次の瞬間、雷鳴の如く静寂を切り裂く。
降り注ぐ拍手の雨。皆中だ。
的を射抜いた音が、拍手の音が、呼吸音が、それら全てが邪魔をする。
喉はカラカラで汗は全身を滝のように流れ落ちる。
見開いた眼が乾いてきて痛い。だが、瞬きはできない。目を凝らし、的を見る。獲物を屠る狩人のように。
打起し。第三を作り、引き分ける。キシキシと弦が音を立てる。
呼吸は一定のペースを保つ。
違和感。
いつもより早いか?いや、早くても大丈夫。合わせれば問題なし。
大丈夫、いける。
程よく保った会をここぞというタイミングで離れに移行する。
残心。完璧だ。
完璧なはずだった。
狙って放った矢はわずか数ミリ的の端にあたり、甲高い音を鳴らす。
アナウンスが流れる。思考は止まったまま。数秒か数十秒か、はたまた数分かわからないが射位に立ち尽くしてた。
職員に声を掛けられ、退場する。
射場から出るとチームのメンバたちや監督がやってきて声をかけてくれた。
何か言っているが、今の俺には何を言っても届かないし聞こえない。
「…ああ、ありがとう」
そういって、俺は独り、電車に乗り、帰る。
夕暮れ時の電車の中。車列には俺独りだけ。静けさが俺を支配する。
車両の中、俺の咽び泣く声だけが響き渡る。
結果は準優勝。
いろんな人が祝福してくれた。嬉しさもあった。だがそれ以上に、やるせなさや後悔、屈辱。それらが己を支配していた。
そうして耐えきれなくなった俺は、弓道をやめた。
中学二年の夏のことだった。

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