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あの夏の思い出

 暑い夏だった。
 
 当時の「僕」は、何に対しても虚で、熱中していたものはなかった…と思う。

 時は1993年。未だに続けることになる柔道もまだやっていなかったし、現在の趣味の筋トレもやっていなかった。

 ただ学校に行き、家では親に勉強「させられ」ていた。(このような意識だから当然結果はダメである。)

 当時の僕はひどいイジメにあっており、心も荒んでいた。毎日いびられ脅されて親の財布から金を抜き、そいつらに献金するような事をしていた。

 なんとも情けない話である。

 あんな胸ぐら掴んで片手で吹き飛ばせる奴相手に何を怖がってたのか今となってはわからないが、とにかく小さい頃の僕には相手と戦う勇気がなかった。

 だからこそ、恐竜が好きになったのだと思う。

 太古に確かにいた雄大な生物。

 図鑑や本に描かれた、そのいかにも強そうな姿に憧れた。

 自分が弱かったから、強いものに憧れた。

 ないものねだりだったのだろう。

 当時の僕の唯一の救いは、本や図鑑の中にあった。

 親の助けもあってイジメという地獄から抜けれた後も(実際のところ、本当に抜け出すのは中学で柔道に出会ってなのだが)その崇拝は続いていた。

 そんな時、大好きな恐竜の映画が作られたらしいという事を両親から聞いた。

 (後から分かったのだが、この時両親が言っていたのは、「REX」という安達祐実主演の映画の事だった。)

 とにかく、その夏は恐竜映画を家族で見ることになったが、私の心はそんなに浮かれてはいなかった。どちらかというと乗り気ではなかった。

 昔ビデオで見た、コマ送りのような恐竜がゴジラスタイルで出てくるのだろう。擦れていた僕はそんなふうに思っていた。
 (誤解を受けると嫌なので言っておくが、ゴジラは大好きである。ただ、リアルな姿で生きているように動く恐竜が映像化されるなんて想像がつかなかったのだ。)

 そんなこんなで日々を過ごしていたが、ある時、ふとTVを見ていると「ソレ」が流れてきた。

 ぬかるんだ大地に降り立つ巨大な脚。

 その脚は、子供騙しのものではなく、正に生きているようで。そこに存在しているようで。

 キャッチフレーズが強烈に頭に残っている。

 「映画の歴史が変わる。スピルバーグが変える。」

 CMの最後に出てきたその映画の題名を、僕は一瞬で覚えた。

 そこにはこう出ていた。

 



「ジュラシック・パーク」


と。


 

 






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