おい、尿道の気持ちを考えたことがあるか【1話】
◆その日は急にやってきた…。
僕はしがない大学生。
ついこの前、高校を卒業したばかりだ。
高校には悪い思い出しかない…というか、少しだけ虐められていた。
といっても、あまり激しく虐められるとか、暴力を振るわれるとか、そういうキツいやつではない。なんというか…みんなに名前を呼んでもらえないのだ。
言ってみれば、無視だ。なぜかクラスの全員から名前で呼ばれず
「あの、」「ちょっと良い?」みたいな感じで、他の男子はほとんど「〇〇君」とかそういう感じで呼ばれるのに、僕だけ呼ばれない。
そんな感じで無視が始まったのは、小学6年生に上がった4月、始業式の日だった。
僕たちの学校に新しい新任の先生がきた。24歳の明るい可愛らしい先生。男子勢は全員、テンションが上がっていた。
早速、新しいクラスの顔合わせがてら、自己紹介が始まる。僕の番がきて、先生が僕の名前を呼ぶ。しかし、そこで悲劇が起こった。
「えーっと、なんて読むのかな、あ、そうだ、尿道通る君」
クラス全員「(…え?)」
僕「は、はい!(…え?)」
新任の若い真面目な女性が、誰もが聞き取りやすいその声で「尿道通る君」と発声したのだ。
そう、僕の名前は、仁陽藤(にようどう)透(とおる)。
複雑なのだが、実家はお寺で少し特殊な苗字をしている。元々は中国の陰陽の系譜から始まり、仏教と交わり、当時の偉い人からこの姓を与えられた、由緒正しい家系なのだ。
これまで読み方がわからないと言われたことはあったが、この間違いは初めてだった。そして、小学6年生にもなり、性の知識が入り始めた小猿たちにとって、このミスはあまりに破壊力が高かった。
その日から、僕のあだ名は「尿道」になり、みんなは僕をいじめるハメになった。
◆尿道ライフとは
尿道ライフ…この世にこれほど意味のわからないワードはあるだろうか?
しかし、僕はまさにその意味のわからない「尿道ライフ」を歩んでいる。どういった感じかいくつか羅列した。
・女子からは絶対に名前を呼んでもらえない
・用を足す時、尿が通る道について考えてしまう
・自己紹介は、できるだけゆっくり苗字を発音
・廊下を歩けば勝手に人が避け、道が開ける
こういった感じだ。
半ばいじめのような感じ。キラキラネームどころではない。特に、最後の
・廊下を歩けば勝手に人が避け、道が開ける
については、僕が歩いたあと一定時間は誰も僕の後ろを歩いたり、跨いだりすることはない。小耳に挟んだことなのだが、廊下を通るだけで、そこは尿道になるらしいんだ。
なぜって?その通り、僕、尿道が通るから。
「僕の前に道はない、僕の後ろに道ができるのだ」的発想。
僕が歩いた道筋のことを「尿道」もしくは、直接的な表現を避けたい人は「尿ロード」と呼ぶらしい。
うん…まぁこんな感じで、こんなしょうもない話よりとにかく僕は悩んでいた。
「どうしたら尿道ってあだ名を払拭できるんだ?」
改名?いちばん最初に思いついた。しかし、僕の苗字は先祖代々、しかも偉い人からもらった由緒正しい姓だ。無理だ。一族の歴史を終わらせることになってしまう。(僕はひとりっ子だ)
みんなにやめてもらうよう説得する?これは難しそうだ。
「僕のことを尿道って呼ぶのやめてくれないか?」
というセリフが恥ずかしい。思春期真っ只中だぞ、僕は。尿道という言葉を実際に「発する」ことに耐えられるわけないだろ!
しかし、難しいな…。。。
こうして、僕は毎日「尿道」という言葉に取り憑かれるのであった。(これこそが尿道ライフの本質なのであった)
(続く)
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