889系まとめ
1.はじめに
889系というキャリバー群は、JLCを興味の第一対象とし始めた2000年代の初頭から、筆者にとってずっと取りまとめたいと思っていた分野である。しかし2019年で誕生以来50余年を経過し(ていると言われ)ており、その間APやVC、更にはIWCにも名前を変えて供給され続け、殆ど同じ設計でありながらも細部を着実に進化させてきたそのファミリーの数は膨大であり、今現在Webや書籍で情報を調べてもあちこちのソースで異なることが書いてあるなど、いったい何が真実なのか、探れば探るほど良くわからなくなってきたのが実態である。真実を真実と確認するにはこれらのキャリバーが積まれた多くの個体を入手して調べるという非現実的な方法しかないかもしれないが、これまで取りためた、または漁ってきた多くの情報をいま一度一気通貫的に俯瞰したうえで、今現在筆者が正しそうだと思われることを以下に記す。今後の新たなソースによって更新されていくべき内容を多々含んでおり、何か気が付いたことがあれば都度アップデートしていきたいと思う。
またJLCはAPやVCと資本関係にあったことから、APやVCさらにはIWCの機械も俯瞰しつつ時代的な背景を踏まえながらでないと、この系統の全体像を把握することは難しく、取り纏めが今ごろになったのは、ようやくそれなりの土台が揃ったと踏んだためである。
それでは以下本論である。
2.880系まで
JLCとして初の全回転ローターを持つ自動巻きキャリバーは、おそらく51年の493であろう。これは直径21.6mm、厚さは6.3mm(4.85mmとのソースもあるが6.3mmが確からしい)の機械で現存しているものは少なくレアである。その後AP/VCに出したものとして1071/2071(デイト付きは1072/2072)があり、この設計は先の493に類似した部分を多く持っていた。その後、JLCとして自社で本格的に使い続けた最初の全回転自動巻きは、これから論じようとしている889系の直系の始祖と言える880系である。直径は全て26.0mm、厚さは880/882がデイト無しで5.77mm、881/883がデイト付きで6.14mmとなっている。全て5.5振動で普及品は17石、派生はストップセコンド機能が付いた880Sや881S、Geomatic Chronometreに積まれたファインチューン版の23石(881G,883S)があり、K880のように頭にKがつくものはキフショックである。なお880⇔881のように数字が1増えるとデイト付きというファジーな謎ルールがあるが、実際にはこれは当てはまるものとそうでないものがある。59年から市場投入された880系は、結果的に60年代後期までJLCで標準的に使われた。
493
881G
3.三大雲上との関わり
ここで当時の環境などを改めて確認する意味で、少し雲上系について書き留める。機械のグレードという視点から、1071/2071系を継ぐ次世代の薄型超高級機こそが、920 >> 1120/2120/28-255であると認識している。ここで急にPatekが出てくることになるが、Patekも薄型の全回転自動巻機を開発しているものの、当の350が世に出るのは70年、それもバックワインドのキワモノであり厚さも3.5mmと、わずか2.45mmしかなかった28-255に及ばず、のちに片巻1-350に改良されたものの基幹ムーブメントとまでは呼べるものまで育たなかった経緯がある。この時期Patekは銘機27-460の後継薄型機を求めてはいたものの自社機械の市場投入まで待てなくなり、350への繋ぎ的に採用したであろうことは想像に難くない。APやVCは920を得て一気に自動巻き時計の薄型化を果たし、さらにはQPなどのモジュールまで投入していくことになる。一方Patekは350が世に出た後も、3700など防水時計にバックワインドが採用されるわけもなく、またその厚さもネックになって結果的に28-255はかなり永く使われている。これ以上書くとそれだけで別稿になってしまいそうであり、これは一応889を軸とした稿なので雲上の話はここまでとしておく。
28-255
350
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