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「無断移植でも「父子関係確定」=凍結受精卵、父親の上告退ける最高裁」の法律的読み方

凍結保存していた受精卵を別居中の妻が無断で移植したとして、外国籍の男性が出生した女児との親子関係がないことの確認を求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(三浦守裁判長)は7日までに、男性の上告を退ける決定をした。
婚姻中に妊娠した子を夫の子と推定する民法の「嫡出推定」に基づき、父子関係を認めた一、二審判決が確定した。決定は5日付。
時事通信社2019/06/17より


この記事だけを見ると、男性にとってはなんと理不尽な判決だろうと思われることでしょう
私も最初読んだ時は「マジか~」と思ってしまいました。

嫡出推定とは、婚姻中に妊娠した子は夫の子だと推定する(民法772条)というもので、まぁ別居していようが、単身赴任中であろうが、結婚中にできた子はその結婚している二人の子であるという法律です。
一見はまっとうな条文で、しかも当たり前のようにも見えますが、仮に単身赴任中に不倫されてできた子でも自分の子供だと認定されちゃったりします。
この場合は、男性側が「自分の子ではない」と1年以内に嫡出否認の訴えを起こし、判決で認められれば、その男性の子ではなくなる=男性にその子の養育義務がなくなります
1年以上経過していば場合は今回のように親子関係がないことの確認を求めた訴訟をすることになります

しかし今はこのように凍結受精卵による訴訟がいくつか起こっていますね
この場合だと、法律通りいけば今回の事例は「結婚中にできた子だから」男性の子と嫡出推定が及び、しかも、血のつながり上も男性の子なので、その夫妻の間で「凍結卵子を戻すことに同意していたか否か」ということは、あくまで夫婦間の問題、という風に今回の最高裁は判断したようです。
自分の子だと認められた=養育義務があり、養育費を払わなくてはなりません
そうなると今事例だけを見ると男性が可哀想に感じてしまいますが、男性を助ける法律が他にありません

さて、そもそもこの「嫡出推定」というのは何のためにあるのでしょう(法律の趣旨)
それは民法が明治時代にできたことからさかのぼります。
当時はDNA鑑定もなければ、凍結卵子などもない時代
そして女一人で働いて育てるには困難と極める時代でした。
そこで民法制定時に、この嫡出推定という制度を設けて「貴方の子よ」「俺の子じゃない」と夫婦でモメていても、男性の子と推定してしまうことによって、子供が無事養育されるように、というための制度でした。
そのため、当時は女性と生まれてきた子供を救う福祉的な制度であり、それで救われた人も多かったでしょう
しかし、時代は変わりました。
DNA鑑定もあれば、こうやって無断で凍結卵子を戻して子供が生まれてしまうなんてことも発生してしまいました。
法律は完璧ではなく、その時代、その時代に即した、人権を守るためのものとして機能するべきです。
法律は、主権者である国民が選んだ議員たちで成る国会で、主権者の民意を反映して、人権侵害がない法律、そして時代に即した法律を作っていくというシステムになっています。
その中で、法律違反状態が発生した場合に、警鐘を鳴らす役目が裁判所です。
今判例においては、法律上はどう解釈しても合法になってしまう、というのが最高裁の本音でしょう
ということは、ここは国会がしかるべき法律をつくり、例えば本当に合意があったのか確認する手段・方法などを検討し、凍結卵子を戻す際の手順を法律で決める等の措置が必要と考えます
そもそも772条1項2項共に私が勉強を始めた大学時代からずっと違憲なんじゃないか、法律改正が必要なんじゃないかと民法学者が議論していた条文です
それは、さきほども言った通り、明治時代には時代に即していて人権擁護条文だったが、時代が変わり、逆に人権を侵害してしまっている条文になってしまっているのです
それを変えることができるのは国会です。

何故そこで、旧優生保護法の被害者を救う措置法を採決した時のように、ずっとずっと問題だと言われ続けている当法律を改正しないのかは、あくまで国会の裁量としか言いようがありません

この最高裁判決を受けた男性は、血筋は自分の子であるかもしれないけれど、自分の意図していない所で生まれた子の養育義務をその子が20歳になるまで持たなくてはなりません
これが本当に人権を守る法律のやることでしょうか
この点については、今一度国会がしっかりと議論し即刻改正すべき点であると考えます

もし心に響いたならば……投げ銭のひとつやふたつやみっつやよっつ!!よろしくお願い致す!(笑)