見出し画像

『赤と黒』スタンダールについて

世界文学全集月報「スーパーマンの興味」佐藤 朔 によると、

フランスではよく「あなたはどんな小説の主人公になりたいか」という
アンケートをする。するとスタンダールのジュリアン・ソレルとか、
ドフトエフスキーのムイシキン公爵とか、いろいろ答えが出る。
これは案外その人の性格や夢想や理想が分かる質問である。

ここに出て来る、ジュリアン・ソレルが『赤と黒』の主人公である。

乱文、悪文になるのは覚悟の上で、本作のあらすじを紹介したい。
この物語は、フランスを舞台にして、
ジュリアンが生きた18歳~23歳の 僅か5年間の出来事である。
平民階級(外に聖職者階級・貴族階級が存在する)の彼は、
父親からの虐待に堪えながら、
教会の神父から教えを受け、
聖書をラテン語の原文で全て、一言一句違わず暗記してしまう。

18歳の時に、
田舎の裕福な家庭のラテン語教師として働き始め、
その家の女主人(レーナル婦人)を、自分の母親の様に慕い、
幸せな時期を過ごすが、
ジュリアンが女主人(レーナル婦人)の愛人になった事により、

20歳で神学校へ入る。神学校の校長がジュリアンを気に入り、
校長を退職する際、ジュリアンにパリの公爵の秘書としての仕事を与えてくれる。
21歳でパリのサロンへ通う。
22歳、秘書としての能力の高さを認められ、貴族に与えられる勲章を授けられる。公爵の一人娘を妊娠させる。
23歳、公爵に結婚を承認させ、軍の中尉に任命される。
公爵がジュリアンの素性を調べる為、受け取ったレーナル婦人からの手紙を
ジュリアンが読んで、レーナル婦人をピストルで撃つ。レーナル婦人は無事だったが、ジュリアン・ソレル、処刑される。

時系列順に書くと、ジュリアンの成り上がりを描いた作品のようだが、
本作は、他の作品と決定的に違う点が1つある。

それは、ジュリアンが自身の中にある自尊心と対話をし続けることだ。
本作で一番多く使用された言葉は、自尊心だったように思う。

ジュリアンの発言の殆どが、話し相手へ向けられているのではなく、
彼の自尊心を満足させる為に発している。
その為、18歳~20歳までお世話になったシェラン神父や
秘書として雇い入れたラ・モール公爵には、
ジュリアンには外の人とは違う、何か薄暗い考えがあるように感じられていた。

ジュリアンには、年齢相応の心の中の葛藤を、
表面にそのまま出すという事がない。
自分はどうあるべきなのか。
一度考えてからでないと発言しないのだ。

階級制度の無い(無い様であるのだけど)日本人には理解し難いだろう。
しかし、この物語が、多くの人に読まれ、
「あなたはどんな小説の主人公になりたいか」という質問に
ジュリアンが出て来るのは、彼が自尊心にもがいているからかもしれない。

本作は、1827年に書かれた.。
当時の政治的、社会的思潮をそのまま反映している作品だが、
2021年の私の中にもジュリアンが居ると思い知らされた。
外に類を見ない作品である。

よろしければサポートお願いします!記事を書く励みになります!