【冒頭】毒のない青い紐のように細い蛇

 あたまを残して腕も足も削がれてしまった人間が芋虫と呼ばれる。芋虫は這いずりまわって太って喰われるための連中である。いっぽうの俺は今まさに腕、足、その両方を代行業者にやられたところだが、芋虫にはならなかった。俺の尻には尾がついていたためであるーーそれを知ったのはついさっきの話だが。
 普通はそもそも業者がやってきて片付けようとするところにわざわざクレームつけたりしない。彼らはあくまで代行であって文句は受け付けていないためである。だが俺は怒鳴り散らし、玄関を開けたやつらを片っ端から蹴りだし、数人がかりで俺をはがいじめにして引き摺っていこうとするのを腕をつっぱって抵抗してやり、真っ直ぐ引き伸ばされるぐらいになっても玄関扉のドアノブから手を話さなかった。最終的に直接蝶番をひっぺがされて、俺はドアごと搬送された。
「あなたの手足がもっとも傷つけているのは、なによりあなた自身です。あなたの人生のために、あなたの両腕足は摘出しなければなりません」
「俺が傷つけたのはお前らだし、俺の手足が勝手にお前らを傷つけたわけでもない。俺のあたまがやったんだ。俺のやりくちが気にくわないなら、落とすのはあたまだろ!」
 だが彼らはあたまを落とさなかった。代行は代行であって手順以外のことは勝手にできない。そのために俺をかえって自由にしてしまったことには気づかなかっただろう。俺は芋虫ではない。俺にはまだあたまが残されていて、あたまだけになった後に初めて尾の存在に気づいた。俺にはまだ尾が残っている。紐のように細い尾、俺は蛇になったのだ。


【なんでもいい】

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