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(BKTC-N)の 「スペシャルティコーヒー大全」を読まれた方に Tipsティップス(9) 2014.3.5

著者の新刊「コーヒーおいしさの方程式」がでてはや1か月。代官山蔦屋でのイベントも終わり、おおむね好評のうちにむかえられていることがわかってきました。
この本の宣伝のための帯には、やや大げさな言葉が並んでいます。
「コーヒーの香味を自由自在にコントロールする」
旦部先生の序文を読むと「コーヒーの香味を自由自在にコントロールしてみたい----自家焙煎に携わる人なら誰しも夢見る一大目標です」とあります。
できるだけ多くの人にお読みいただきたいと思いますが、どうか最後のページまできちんと読みきっていただきたいと願います。

勝手に帯を書きかえてみます。

18年前「科学者(Scientist)」と「職人(craftsman)」が出会いました。
科学者は職人に「科学(science)」を分かち与えました。
職人は科学者に「知恵(wisdom)」を分かち与えました。
彼らは、「良心(conscience)」という名前の美味しいブレンドを作り出しました。


昨年、神保町の岩波ホールに行列を作った「ハンナ・アーレント」という映画があります。
その映画について、興味深いエッセイがあります。岡野八代「『ハンナ・アーレント』を見る前に」です。

(前略)「友人」は、開かれた公的領域において、共有する関心事をめぐって、自由に議論を闘わせる関係にある。喧々諤々の議論は、関心を共有しているという、むしろ喜ばしい経験である。何かに関心interest があることを、人との間にあること( inter 間に est ある )とアーレントは考えた。
アイヒマン裁判のレポートをめぐって、論争することは喜びであると分かち合っていた長年の友ブルーメンフェルトから自らの考えを拒絶されるアーレントの苦悩は、したがって彼女の思想の核心を揺るがすほどのものだったに違いない。アーレントこそじつは、アイヒマンが悪魔のような人間であればどれだけ救われたか、と思ったのではないか。しかし、本映画で示される思考は、〈分かりやすさ〉や〈自分が知りたい〉ことではなく、自らを裏切らないことの大切さと同時に、自らに誠実であることの困難さを示している。(後略)

アーレントはあらゆる批判から逃げず、発表した裁判傍聴レポートを「最後まで読めば理解できる」というのですが、引用のように大切な友人から拒絶されます。
そして、学生を前に8分間に及ぶ講義のシーンで締めくくられます。

(前略)学生たちは、まっすぐアーレントを見つめ真剣に聞いている。
アーレント「彼のようなナチの犯罪者は、人間というものを否定したのです。そこに罰するという選択肢も、許す選択肢もない。彼は検察に反論しました。何度も繰り返しね。“自発的に行ったことは何もない。善悪を問わず、自分の意志は介在しない。命令に従っただけなのだ”と」
アーレント「こうした典型的なナチの弁解で分かります。世界最大の悪は、平凡な人間が行う悪なのです。そんな人には動機もなく、信念も邪心も悪魔的な意図もない。人間であることを拒絶した者なのです。そしてこの現象を、私は『悪の凡庸さ』と名づけました」
ミラー「先生、先生は主張してますね。“ユダヤ人指導者の協力で死者が増えた”」
アーレント「それは裁判で発覚した問題です。ユダヤ人指導者は、アイヒマンの仕事に関与してました」
ミラー「それはユダヤ人への非難ですよ」
アーレント「非難など一度もしてません。彼らは非力でした。でも、たぶん、抵抗と協力の中間に位置する何かは……あったはず。この点に関してのみ言います。違う振る舞いができた指導者もいたのではと」
アーレント「そして、この問いを投げかけることが大事なんです。ユダヤ人指導者の役割から見えてくるのは、モラルの完全なる崩壊です。ナチが欧州社会にもたらしたものです。ドイツだけでなく、ほとんどの国にね」
アーレント「アイヒマンの擁護などしてません。私は彼の平凡さと残虐行為を結びつけて考えましたが、理解を試みるのと、許しは別です。この裁判について書く者には、理解する責任があるのです!」
アーレント「ソクラテスやプラトン以来私たちは“思考”をこう考えます。自分自身との静かな対話だと。人間であることを拒否したアイヒマンは、人間の大切な質を放棄しました。それは思考する能力です。その結果、モラルまで判断不能となりました。思考ができなくなると、平凡な人間が残虐行為に走るのです。過去に例がないほど大規模な悪事をね。私は実際、この問題を哲学的に考えました。“思考の嵐”がもたらすのは、知識ではありません。善悪を区別する能力であり、美醜を見分ける力です。私が望むのは、考えることで人間が強くなることです。危機的状況にあっても、考え抜くことで破滅に至らぬよう。」

映画館で映画を鑑賞するように「一気に読みました」という方に何人かお会いしました。
アーレントの考えるような「友人と関心を共有する」----そんな役にたつ本になることを願っています。(BKTc-N)

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