ブラームスの太鼓連打(2011年9月記)

ベト10と揶揄されるブラームスのハ短調交響曲ですが、あとから追加したという冒頭序奏は忘れることができない印象深さです。ベートーベンがやらなかった冒頭を消去法で作曲したのかしら、といつも思います。それとブラームスだから意識し過ぎてベト10になったと、言われるのでしょう。もっともそんな例はよくある類似であり、敬意があればなおさらでしょうに。ブラームスのほかの作品すべて、わたしは個人的に大変好きですし、冒頭の消去法的印象深さ、用意周到さは共通の精神を感じます。ベートーベン以上に先人と違う作品を作りたかったし、その先人の筆頭がベートーベンであったし、しかし音楽的にアッと驚かせる冒頭としては、ハイドン、モーツァルトの伝統の担い手であると本当に感じます。
ジンマン指揮のブラームス交響曲全曲が届いたので、早速ハ短調冒頭のウンポコソステヌートを。ジンマンは買わずにはいられない「今度は何するのかしら」興味深く、手ごろ過ぎる価格です。実際にはシューマンあたりから淡白な印象が続き、ちょっと面白みが欠けてきました。冒頭のティンパニの連打が、ふとあまりにメトロノームみたいに聴こえたので、こんなに味気ないものだったかしら?と。ジンマンのは味わい淡い?というべき?かしら。
ほかの演奏も引っ張り出しつつ、ネットで検索するといくつか興味深い掲載があったので、コピペでメモしました。
ひとつは次のよう。

「----打楽器奏者の大塚敬子さんは,著書「打楽器がうまくなる本」の中で,ブラームスの1番についてこのように書いています。
この曲は,ブラームスが初めて書いたシンフォニーであり,特に,ベートーヴェン等のシンフォニーのように素晴らしい曲を自分も書こうという意欲を持って作曲した作品といわれています。冒頭から始まるティンパニのCの音は,お客さんに対して,上記ブラームスの"意欲"と 「素晴らしい曲が始まりましたので,どうぞ楽しんでください」という思いをこめて演奏すべきです。 大塚敬子著「打楽器がうまくなる本」 音楽之友社----」

もうひとつは次。

「1975年は,秋にプレビン指揮ロンドン交響楽団の演奏も聞く機会がありました。ドビュッシーの《牧神の午後》、デュカの《魔法使いの弟子》、そしてブラームスの交響曲第1番。このオケのティンパニ奏者はクルト=ハンス・ゲディッケ。何と言っても圧巻だったのは、ブラームスの交響曲第1番の冒頭。あのティンパニの連打を、Cに調律した二つの楽器を両手を使って叩いていたこと。その後もCの個所は、何度も両手で叩いていました。」

これだけ読んでも、いかにブラームスの交響曲がロマンチックなことか。ロマン的虚飾を剥ぎとるようなノリントンの録音だと、テンポはいかにも速いのですが、ティンパニの連打が妙に熱っぽく変化をつけて語っています。速いのでよく聴こえるのだとは思いますが。ジンマンとは好対照です。
持っている中では一番遅いラトルも意外とデジタルな連打に聴こえます。一番よく聴くマッケラスのは少しデクレシェンドしていくように聴こえます。

画像1

ティンパニの部分だけ抜き出しました。

画像2

ノリントン=f123p123----[f-p]の繰り返しに聴こえます
マッケラス=123>123>123>123>----徐々に弱めに聴こえます
ラトル=1231212----?と聴こえますが、1◎2○3○1◎2○3◎で最後の3が強めなのかしら
ジンマン=12121212----2の方がやや強く感じます

この太鼓連打は、コントラファゴットとコンパスが同時進行します。コンパスのところだけ、「pesante」という表記があります。また検索すると、すごいページに行きあたりました。「ブラームスの辞書」!!凄すぎる。それには次のように。

「pesante」は何かと話題を提供してくれる。印象的な使われ方をしている言葉だ。一般に「引きずって」と解される。「leggiero」の反対概念とも思えるが、使用頻度は「leggiero」よりも遙かに低い。
ばんえい競馬を思い出す。馬がとても重いソリを引いて走るレースだ。一般の競馬を見慣れていると、馬の速度の低さには面食らう。重いソリを引きずるのだから当たり前である。競走馬の王様であるサラブレッドに引かせたら一歩も動けないという。つまり「引きずる」というのは、速度が落ちて当たり前なのだ。
「pesante」自体に直接速度を落とす意味合い・機能はないものの、演奏に反映させる手段としては、結果的にテンポダウンを採用せざるを得まい。

八分音符6ケの分け方と強弱の付け方だけで一体どれだけ解釈がわかれるのやら。クラシック音楽は恐ろしいですね。再現性を目指して作った記号の塊りなのに、実際には再現できない、もっともそこが面白いのでしょうけれど。全体のフレーズも長く感じて、一文一文が長いということでしょう。どこを強調して、どこで息継ぎするかで全体の印象が変わってきます。
pesanteな3拍子のダンス(ワルツのような)と聴いてもいいわけです。大分ダークなウインナワルツということになりますが。わたしは耳が悪いので、ジンマンは3拍子にいまひとつ聴こえません。ベートーベンの第九の4楽章の途中のマーチから続いているようにも聴こえます。指揮する人もベト10と意識しているのかしら。

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