「辿る」ことと「遡る」こと(2015年5月記)

バンベルクのゼーゲルケ工房のサイトがありました。
ベールマン・オッテンシュタイナーのところには、1920年頃のフレンチ・ボックスウッドと書かれていました。どうも材料から古楽器らしい。

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ずっと以前にブラームスのクラリネット作品について記録しました。
老舗のハルモニアムンディからソナタ集がでました。シュタイアーとコッポラは、モーツァルトの最後の協奏曲というコンセプトアルバムを発表しています。そのときも何か違和感がありました。
モーツァルトで使用される古楽器のバセットクラリネットについては、まず1980年代の終わりころにホグウッドとペイの来日公演がNHKで放映されました。座って足で朝顔を挟んで見事な技巧を見せました。文献の仕様条件から再構成された楽器でした。
検索引用----[ バセット・クラリネットは、B♭クラリネットをもとに、その管を長くして、4半音低い方に延ばした楽器である。足管部には丸いふくらみがある。それによって低音が良く響く独特の音色を持つ楽器となった。1788年にヴィーンの宮廷楽器製作者テオドール・ロッツ(Theodor Lotz)によって開発され、クラリネットの名手アントン・シュタットラー(Anton Stadtler, 1753 - 1812)によって改良された。モーツァルトはシュタットラーと親しく、1789年12月22日にクラリネット5重奏曲イ長調(KV 581)によって初めて公開の場で演奏された。オリジナルのバセット・クラリネット自体は残っていないが、1992 年にアメリカの音楽学者パメラ・ポウリンにより、1794年5月5日のリガでの演奏会予告が発見され、そこにはシュタットラーが 独奏者として登場し、彼が使用したであろう楽器のイラストが掲載されており、これによりシュタットラーのバセット・クラリネットの形状をほぼ確実に知ることが出来る。オリジナルの復元楽器だけでなく、現在ではモダン楽器のバセット・クラリネットも製作されている。]----

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コッポラもホプリッチとほぼ似た楽器を使用している様子。ただしCDの楽器表記はクラリネット・ダムールになっていました。これは何かの間違いのよう。

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コッポラとシュタイアーのブラームスを聴きながら、きっと黒檀ではない楽器の音という以外、奏者が単に楽器を「乗り換えた」音としか響きません。昔ガンバのサバルのインタビューでチェロについてはカザルスと同じことをやっても敵わないので、自分はガンバを選び歴史を辿ってレパートリを開拓してきた、歴史を遡ったのではないのがよかった、というような発言があったのを思い出しました。
適切に「辿る」と、「遡る」はどうも違うらしい。
わたしにはコッポラの音は「遡る」音に聴こえてしまいます。クラリネットでは「遡る」系はナイディックあたりがいます。「辿る」系はやはりホプリッチかしら。ハッカーやペイ、シャッツベルガーあたりは折衷系かしら。
例えば、「辿る」系のサバルなどにできないことを探して、「辿る」を継承しているのがパールやギエルミのグラウンの協奏曲かもしれません。とすればコッポラの次の課題はロッシーニやシュポアあたりでしょうか。

18世紀オケのために育てられたといってもよいホプリッチ。わたしは個人的にホプリッチがブリュッヘンの継承者だと思います。ブリュッヘンはリコーダー奏者が適切に「プロ」であったことを発見し、その後オケの創設を想定して人を育てたのですから、壮大というか。ホプリッチに限らずカンジ、ヘインズ、ボンド……大したものです。

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ところでこのCDのジャケット画について。Abendstimmung am Schlachtensee (1895)ベルリン郊外ポツダムとの中間にあるシュラハテン湖の夕べを描いた作品。
検索で見つけたドイツ留学した方の紀行の一部。あまり情報がない画家ですが、注目している人はいるものです。

[ヴァルター・ライスティコフ(ライスチコフ)は、1891年にベルリンで最初にフランス印象派マネ,モネ,シスレーなどが展示紹介された時の、ドイツ画家の代表の一人で、マックス・リーバーマンと共にベルリン分離派に所属し、表現主義を主張した画家です。ウィーン分離派クリムトの煌めく才能・筆致とは異なり、その画風はとても堅実な筆致であったと評されているようです。北欧のムンクよりは後、カンディンスキーよりは少し先で、長生きしたリーパーマンはユダヤ人だったこともあって、ヒットラーから退廃的とされたが、ライスティコフは幸か不幸か病気のため若くして自ら命を絶ちました。彼の絵はロマンチックであり、ドイツ人好みのよう。とてもドイツの風景の印象を良く表現しています。少し重苦しいですが、ドイツ人の内面的で気難しく憂鬱な気分が分かります。夏も天気は変わりやすく晴れていても暫くすると厚い雲が流れてきてたちまち雷になる、そんな日照時間の少ない夏を謳歌しようとするドイツ人の切なさが伝わってきます]

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