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72. わたし、髪を切る。

伸ばしていた髪を切った。

お芝居のため、大人の女性を演じるために
大人と呼べるくらいの年齢になってから
初めて自分の意志で伸ばした髪だった。

それは失恋に似ていた。

たぶん、完全には
気持ちを断ち切れていないわたしは
見た目には分かるくらい、でも
そんなには短くするつもりはなかったのだけど

思いの外、短くなってしまった。

うまく伝えられなかった自分が悲しかったし
「だいぶ短くなりましたね」の一言に
「そうですね…」と愛想笑いで返す自分も嫌だった。

けれど、これも
必然だったのかもしれないと
鏡を見ながら考える。

ようやく大人っぽい雰囲気が出てきていたが
なんだかずいぶん、
かわいらしい雰囲気になってしまったな。

何年か前はこんな髪型をしてたはずなのに
年相応でない気さえした。

それでも、
少しは新しいわたしになれただろうか。

いいんだ、どうせすぐ伸びる。
短いくらいが、いいんだ。

こうしてまた新しく髪を伸ばしていく過程で
わたしはまた、今回伸ばしたわたしとは
ちょっと違った大人になっていく。

違うわたしになっていく。

"限界は、ひとつのステップだ"

限界を迎え、そこで何を選択したとしても
否応なしに、今までとは変わっていく。
"同じ"ではいられなくなるのが限界だ。

そのステップを踏んだわたしは、
また今回くらいに髪が伸びたころ
どこでどんなことをしてるだろうか。

誰かと恋はしてるだろうか。

ジブンヲヒラケナイウチハ
結局オナジコトノ繰リ返シダヨ

ふっともう一人のわたしが呟いた。

そうだね。そうかもしれない。

こんな不器用で面倒なわたしを
好きでいてくれてありがとう。

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